バングラデシュで念願の”日本風“母親学級

2014年5月12日

シャトキラ青年海外協力隊員 丸山景子さん

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シャトキラ県病院

「今日はどんな質問が出てくるのだろう」。4月のある日曜日、看護師の丸山景子さん(31)は、シャトキラ県病院で妊婦さんたちが到着するのを待っていた。今日は県病院で月2回開催される母親学級の日。ここでは昨年9月から、日本風の母親学級が、看護師のセリナ・アクターさん(45)の発案で始まった。2013年1月に「安全な出産介助に関する研修」に参加したセリナさんが、「日本で見たことをシャトキラでも実践したい」と、帰国後、丸山さんに相談したのだ。

地元のコミュニティークリニックやMCWC(Mother and Child Welfare Center)と呼ばれる家族計画局管轄の産婦人科病院では、妊婦指導をしているところもある。しかし、シャトキラ県内で最も出産件数や妊婦健診数が多い県病院では、妊婦指導が行われておらず、県病院がある街にはコミュニティークリニックはない。県病院で母親学級が必要とされていることには間違いない。ただ、丸山さんには不安もあった。「開催したら継続できるのだろうか、日本と同じこと(マタニティーヨガ・エクササイズ、個別相談など)をやりたいと言っているが、バングラデシュで本当にそれが必要なのだろうか」。「お金さえかければ日本のようになるとは思ってほしくない」。丸山さんは切実に思っていた。

着任当時、多くの県病院のスタッフから「これ以上仕事を増やさないでほしい」、「新しいことをやりたいならボランティアがやればいい」、「患者のために良いのはわかったけど、大変だからやりたくない」、「日本のようなハイテク機材を買ってくれれば、日本の病院のようになる」といった意見を聞いていた丸山さんには不安が募った。

しかし、セリナさんはいつも「母親学級がやりたい。こんなのはどうかしら」と次々にアイディアを提案してきた。その熱意に動かされ、丸山さんたちは準備を始めた。

「やってみよう!」

準備を開始するにあたって丸山さんは、これから始める母親学級がこの病院の取り組みであり、JICA及び青年海外協力隊はサポートをするだけであることを伝えた。丸山さんが準備から実際のクラスまで全てを行うのは簡単であるが、任期が決まっている彼女にできることは限られており、自分が帰国した後もずっと継続してほしいことをセリナさんに伝えると、「もちろん、そのつもり」との回答。

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一緒に母親学級を計画した看護師のマジェダ・カトゥンさん(左)、セリナさん(右)と丸山さん(中央)

一緒に行う看護師もう一人と、産前産後健診担当の家族計画省のスタッフの協力を得て、準備は始まった。

母親学級の内容は、日本と全く同じにしたいから教えてほしいと言われていたが、現地の実情に合ったものでなければ根付かないと考え、まずは内容を考えることから始めた。

  • 日本では、様々な家事が機械化され、同居家族の人数も少ないことが多いため、専業主婦はバングラデシュの専業主婦と比べて家事労働の量が少ないことを説明した。バングラデシュの妊婦にさらなるエクササイズを勧めることが最善かどうかを考えてもらい、家事や食事の後はひとまず休憩をとることを勧めることにした。
  • 日本で個別相談に来る妊婦は、妊娠や出産について本やインターネットで様々な情報を得た上で個人的な相談に来ることが多い。しかし、バングラデシュでは、そのような情報収集手段があまりないことから、妊婦に必要な栄養素や妊娠中の注意点、危険の兆候など一般的な説明が必要。
  • 日本では医療機関等における専門職立会いの元での出産が一般的であることを伝え、妊婦健診を受けること、出産時は医療機関に行くことを勧めることとした。そして、緊急時に医療機関に搬送できる準備を整えておく必要性についても説明することに。

次に考えたのは、これらの内容を伝えるためのポスターやパネルをどうするか。まずは、あるものを使ってやってみるという方針のもと、NGOや企業等から配布されていたものを使用することにした。

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まずは、ある教材を使って説明

そして、誰がどのように説明するのか、も重要なポイント。看護師たちは、自分たちが説明するつもりでいたが、日本の母親学級を見たのはセリナさんだけ。そこで、ノルシンディ県のMCWCで実施されている母親学級の様子をビデオに撮り、見てもらうことにした。

比較的スムーズに準備が進んだと思われたが、病院関係者への根回しには予想以上に時間がかかった。病院長や院内関係者に、いつ、どこで、何時から、何を、どのように開催したいのか、説明して回ったが、あの人に聞くように、この人の確認が必要だ、後日でないと返事はできない、など何度も足止めをくった。この国で新しいことを始めるときの苦労を実感した瞬間だった。

念願の第1回母親学級開催

念願の第1回母親学級は2013年9月11日に開かれた。病院長が母親学級の開催をとても喜び、「地域の人たちに知らせたい」と、地元の新聞社を呼んだり、他のスタッフに協力を指示したりしてくれた。

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参加者に説明をするセリナさん

参加した妊婦たちからは、食事と休憩に関する質問が多く寄せられた。バングラデシュでは、家族の男性が先に食事をし、その後、目上の女性から食べる習慣があるため、「嫁」という立場の妊婦は、最後に食べることが多いようだ。看護師たちは一緒に参加していた家族にも「いいもの食べさせてあげてくださいね」と念を押した。

それから半年たった現在も、毎月第1・3日曜日に開催し、地域住民への浸透を目標としている。実施場所や方法、使用する教材について、改善点はたくさんあるが、今は継続することを重視している。セリナさんはじめ、看護師たちは、何度かの母親学級を経験し、自信をもって説明できるようになり、様々な改善点を提案している。優先順位が違うのではないかと思うところもあるが、彼女たちの習慣や文化の中で、よりよいものを作って継続していくために、どんなサポートができるか、丸山さんの考える日々は続く。