地図が創る未来 バングラデシュ測量局地理空間情報技術定着プロジェクト

「秘密基地」のようなプロジェクト室

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歴代の局長の肖像が並ぶバングラデシュ測量局の廊下

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地図作成のための3Dモニターがずらりと並ぶバングラデシュ測量局の一室

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国土地理院から派遣されているJICAプロジェクトの専門家、田中大和さん(左)

ダッカ市内にあるバングラデシュ測量局(SOB)は、1767年に開設されたイギリス領時代の測量局を発祥とする歴史ある組織だ。測量局の廊下には、当時の古い地図や、歴代の測量局長の肖像、かつて使われていた測量機器などがずらりと並び、博物館のような趣もある。

そんな測量局の一画、きしんだ音を立てる扉を開けると、中には3D画像で地図を作成する最新のワークステーションがずらりと並んでいた。古びた建物には似つかわしくないその光景は、まるで秘密基地のようだ。いくつかの部屋に分かれているが、総計40台のワークステーションでバングラデシュ人技術者たちが黙々と作業をしていた。

実はバングラデシュには、まだ正確な全国地図がない。この部屋で作られているのは、2.5万分1の全国地図。バングラデシュ全土を撮影した11,250枚の航空写真を一つずつ3Dモニターに写し、手作業で地図化していく。

「こんなにたくさん、地図作成の最新機器が集まっている場所は、日本にもそうありませんよ」。日本の国土地理院からバングラデシュ測量局に派遣されているJICA専門家の田中大和さんは言う。

バングラデシュ政府は現在、2016年までに全国の正確な2.5万分1地図を作る「デジタル地図整備事業」に取り組んでいる。日本は債務削減無償資金により、この事業を支援。田中さんはこの事業を技術面でサポートするJICAの「デジタル地図作成能力向上プロジェクト」から派遣された。このプロジェクト自体は2009年から2013年9月でいったん終わったが、JICAは、2.5万分1地図の整備が完成する2016年まで、引き続き協力に取り組んでいる。

技術アップで「地理空間情報市場」を育成も

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3Dモニターを見る時には、特殊な眼鏡をかける。航空写真に写された道路を一本ずつ丹念に描いて地図を作る地道な作業

バングラデシュでは、歴史ある測量局を抱えながらも、財政難などから、これまで正確な全国地図を作ることができなかった。JICAは1992年の国土測定基準点網整備から始まり、5,000分1のダッカ首都圏地図情報整備、印刷機材の導入など、様々なプロジェクトを通してこの国の地図づくりに協力している。これまで延べ36人の測量局職員が日本で研修を受け、延べ40人の日本人専門家が派遣された。

「地図は、官民のどんな事業でも出発点となるもの。しかし我が国には正確な地図がないために、そのたびに測量し、地形情報などを集めなくてはならない。今はすべての事業に、3%から5%の余計なコストがかかっている」。バングラデシュ測量局のマフムドン・ナビ部長は言う。

「地図がないことは、自然災害への迅速な対応も阻む。正確な地図が、さまざまな側面でこの国を大きく変えるだろう」。デジタル地図が整備されれば、測量・地図整備における経費削減は年間約50億円にのぼる、という試算もある。

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バングラデシュ測量局のワヒドゥル・タルクダー局長

正確な地図の整備には、日本でも長い時間がかかった。1880年代の測量地点の整備を近代地図整備の出発点とすれば、日本で2.5万分1の地形図の全国整備が完了したのは2007年。つまり日本は、100年以上にわたって2.5万分1の全国地図を作り上げたといえる。

一方のバングラデシュ。測量地点の整備は1992年に始まり、2.5万分1の全国地図整備完了はその24年後、2016年を目指している。田中さんは、「バングラデシュの地図整備は、日本の5倍以上のスピード感で進んでいる」と指摘する。

日本が携わるバングラデシュの地図作成プロジェクトは、地図を作ることだけが目標ではない。その過程において、地理空間情報管理技術を定着させ、技術者を育てることも期待されている。

今はまだ基盤を整備する段階だが、地図がデジタル化され、行政機関だけでなく民間企業や研究者など多くの組織・人に入手可能になれば、地図は迅速な更新やより高い精度を求められるようになる。あるいは、それぞれの利用目的にあわせ、基本情報をカスタマイズした地図が求められるかもしれない。こうした需要が増えれば、地理空間情報を扱う民間企業が育ち、新しい産業がこの国にも誕生する。

実際、地図情報のデジタル化が進む今、世界的には10兆円規模の地理空間情報関連市場がある、といわれている。最新の技術でのデジタル地図作成と人材育成に取り組むバングラデシュが、この市場に参入することも夢ではない。(了)