初の日本・ブラジル・カンボジア三角協力

2011年1月18日

JBPP共同プロジェクト「カンボジア助産能力強化を通じた母子保健改善プロジェクト」に関する第一回カンボジア−ブラジル技術交換報告

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ソフィアフェルドマン病院での研修風景1

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ソフィアフェルドマン病院での研修風景2

「カンボジア助産能力強化を通じた母子保健改善プロジェクト」は、カンボジア国立母子保健センターを実施機関とし、質の高い助産ケアの提供を可能とすべく2010年3月に5年計画でプロジェクトが開始されました。本技術交換は「ブラジルの保健従事者が女性の産む力とベビーの生まれる力をどのように尊重し、サポートしているかを理解する」ことを目標に、国立母子保健センターのセンター長、副センター長、看護部長、研修部副部長および日本人専門家、計6名が参加しました。前半は、2010年11月26日からブラジリアで開催された「第3回人間的出産・出生の国際会議」への出席、後半は人間的出産・出生を組織で実践しているソフィアフェルドマン病院での研修に参加する機会を得ました。

現在、カンボジア政府は、ミレニアム開発目標の妊産婦と新生児の健康改善を目指し、2015年までに死亡率を低減させることを最優先課題としています。保健省は、この目標達成のために、助産師の数と能力強化を迅速に推進することに取り組んでいます。本プロジェクトは、カンボジアの政策に沿い「根拠に基づいた質の高い助産ケアの提供が可能となる助産トレーニングシステムが強化される」というプロジェクト目標を設定しています。プロジェクトの重要な要素は、妊産婦と新生児のために「根拠に基づいた質の高い助産ケア」を教育病院で実現することです。根拠に基づいた質の高い助産ケアとは、医療行為をガイドライン通りに実施することだけでなく、妊娠、出産、産後の女性をエンパワーすることを含んでおり、それは女性自身が出産のプロセスをコントロールしていると感じることを主眼としています。つまり、そもそも生理学的に女性には出産する力があり、ベビーは生まれる力を所有しています。したがって、女性とベビーは出産の主役となるために中心に置かれ、ケア提供者は産婦とベビーの潜在的な能力を最大限に引き出すという役割を持っていると考えます。しかし、カンボジアでは女性の産む力やベビーの生まれる力という部分は置き去りにされ、ガイドライン重視の助産が善しとされる傾向にあります。理想的には、ガイドラインを念頭におきつつ個別のニーズを把握し、個別のケアが対話を通して提供できることですが、そこに至るには発想の転換に始まり、対象に耳を傾けることや、出産の生理を理解するなどのステップが必要となってきます。すでに出産の生理を体得しケアをしている医師や助産師もいますが、そこに光は当てられていないのです。

ブラジルでは、1996年から2001年までセアラ州で実施された「家族計画・母子保健プロジェクト(通称:光のプロジェクト)」により女性とベビーを中心とした考え方が軸となり、ブラジルの人々の手によって「人間的な出産・出生」のムーブメントが起こっています。その取り組みは、カンボジアでプロジェクトが目指そうとしているコンセプトと一致しており、これからプロジェクトを展開する上で、参考になると考えました。本技術交換を通し、ブラジル全体で「人間的出産・出生」への大きな動きがあることを知りました。それは、JICAが実施した「光のプロジェクト」を起源とし、今はブラジルの人々の手によって、自らの言葉としてその考え方は受け継がれていることに感銘を受けました。ソフィアフェルドマンでは、実践を通して「人間的出産・出生」とは単に医療の改善に留まるのではなく、地域社会を巻き込んだ人々の生活全体の改善として捉えられていることが分かりました。病院組織および医療者個人のコミットメントだけでなく、地域ボランティアの参加、ケアを受ける女性や家族など、様々なプレイヤーが質改善に参画していました。それを可能にしていたのは病院長のコミュニティーを巻き込むという強い意志であり、またスタッフもよりよいケアを人々に提供したいという組織風土がそこには存在していました。さらに、「健康は市民の権利である」という憲法にはじまり、「人間的出産・出生」の要素は法律化されており、国として取り組んでいくというしっかりとした土台が築かれていました。個人、病院組織、地域行政、国家行政がそれぞれの役割を持ち、協働して一つの目標に向かっているという印象を受けました。

カンボジアの参加者からは、「人間的出産・出生」の概念には国境はなく、カンボジアでも応用可能であるというコメントが聞かれました。「生まれる」ことは人類共通のイベントです。ブラジルのムーブメントの力を借りて、妊産婦死亡低減を目指すMDGを超えた概念を、世界の人々が手を取り合って考えられる日が来る可能性を感じることができました。カンボジアでは、今回の貴重な経験を礎に、画一的なケアの強制ではない、自分たちの言葉で語ることができる本物の出産・出生のケアを築き上げるステップとしたいです。最後に、本技術交換を実現するにあたり、多くの方々のお力添えに心からお礼を申し上げます。ありがとうございました。

「カンボジア助産能力強化を通じた母子保健改善プロジェクト」プロジェクトリーダー
小山内 泰代