ブラジル事務所

継続は力なり−ブラジル・アマゾン川流域での水銀健康被害防止の20年

2014年4月23日

草の根技術協力事業「ブラジル・アクレ州の水銀汚染健康モニタリング強化プロジェクト」最終シンポジウム

ブラジル・アマゾン川流域では、政府の規制が届かないところで土砂から金を抽出・精錬するために金属水銀が大量に使われています。金属水銀は河川にそのまま垂れ流しにされてメチル水銀に変化、魚などに蓄積し、それを食べた地域住民の健康被害が1980年代以降、社会問題化してきました。

これは日本で1950年代後半に化学工場から排出されたメチル水銀が環境を汚染し、高濃度のメチル水銀を含む魚を食べた地域住民が水俣病(メチル水銀中毒症)を発症したことと似た構図です。日本政府は1992年のリオデジャネイロ環境サミットを発端にアマゾン地域の水銀問題に取組むことを表明し、ブラジル側の分析能力を向上させるためのラボの強化と水銀分析技術者の育成、保健監視能力向上のための人材育成を目的としてJICAは1994年に「水銀汚染分析プロジェクト」を開始しました。

それ以降、国立水俣病総合研究センター(NIMD)の赤木洋勝氏(現:国際水銀ラボ研究所長)を中心とするJICAプロジェクト専門家チームが保健省エバンドロ・シャーガス研究所(IEC、パラ州ベレン)を中心にブラジル人研究者や行政官を今日まで20年かけて育成してきました。これらのプロジェクトでは、1980年代に赤木専門家が中心になって開発した通称「赤木法」と呼ばれる総水銀およびメチル水銀の分析手法(注)をブラジルに導入し、より早くより正確で安価な分析手法を指導しました。今日ではブラジル人研究者もブラジル政府予算で高額な分析機材を調達し、日本人専門家から学んだ技術を駆使して独力で分析結果を出せるようになっています。

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赤木専門家によるIEC研究者の指導

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JICAプロジェクトで導入された分析機材(撮影 久野 真一)

プロジェクトは1990年代から2000年代にアマゾン川支流でもパラ州から南に広がるタパジョス川流域を中心に活動しましたが、2010年代以降はアマゾン川支流最奥部であるアクレ州において、ペルー東部地域からブラジル西部に流れてくるプルス川流域で展開。2011年6月からは熊本県水俣市、NIMD、国際水銀ラボが共同で参画し、草の根技術協力事業(地域提案型)「ブラジル・アクレ州の水銀汚染健康モニタリング強化プロジェクト」を実施してきました。去る3月10日と11日にはプロジェクトの成果報告を含む国際シンポジウムがアマゾン川河口の街ベレンで開催され、アクレ州内のマヌエル・ウルバーノ市およびセナ・マドレイラ市における地域住民を対象とした水銀汚染に係わる健康調査、河川に生息する魚の水銀調査、調査結果に基づいた地域住民のための水銀汚染防止啓発活動など、IECの研究者たちが中心となって取り組んだ活動の成果が発表されました。

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中村専門家による感覚障害診断指導

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熱帯雨林地域を流れるプルス川

アマゾン川の水銀健康被害はブラジル国内だけでなく、さらに上流のペルー、ボリビア、コロンビア、ベネズエラでも問題になっています。これら周辺国の水銀モニタリング担当者や保健行政担当者をIECに招へいし、IEC研究者が日本人専門家たちから学んだ技術を共有し、関係者間で域内共同監視体制を構築するための第三国研修「アマゾン地域におけるネットワーク構築に向けた水銀汚染のモニタリング能力強化」を2012年から実施中です。「赤木法」は20年の歳月をかけて日本からブラジルへ、ブラジルから周辺国へ拡大し、地域住民の水銀健康被害防止に役立っているのです。

近年、人体に有害な水銀の使用を規制する動きが世界的に広がっており、2013年10月には国連環境計画(UNEP)による「水銀に関する水俣条約(Minamata Convention on Mercury)」国際会議が熊本県の水俣市と熊本市で開催されました。アマゾン川流域でのこうした国際協力はそれに先駆けたものとして評価されています。

(注)「水銀分析マニュアル」(環境省、平成16年3月)(外部サイト)にも、「赤木法」は反映されています。

(JICAブラジル事務所 永田 健)