周縁からブラジルサッカーを体感する−楠田健太日系社会青年ボランティア(日系日本語学校教師)

2014年5月14日

私はロンドニア州ポルトヴェーリョという街で日本語を教えている。州境はボリビアに接するアマゾンの奥地だ。土地柄、私が所属する日本語学校の生徒は非日系の成人も多く、「日本語が流暢になること」よりも「日本のことをもっと知って好きになってもらうこと」が、教育の大きな目的でもある。したがって、学校に基本的な教科書や教材は一通り揃ってはいるものの、その選択や内容、進度はほぼ教師の裁量に委ねられている。それはそれで準備が大変ではあるが、毎度生徒の反応を楽しませてもらっている。

昨年12月のことだ。年の瀬ということで、授業で日本のお正月について紹介することにした。年末のアメ横の賑わいから、紅白歌合戦、除夜の鐘、年越しそば、初日の出、初詣、おみくじ、お節料理、お年玉、年賀状などなど。正月にまつわるさまざまな事柄を写真で紹介しながら、「正月は多くの日本人にとって一年で最も大きな節目である。ブラジルでそのような日はありますか」と問うたところ、生徒の半分が殊勝にNatal(クリスマス)と答え(ブラジル人の大部分はカトリック)、そしてもう半分は躊躇なくCopa(ワールドカップ)と答えた。改めて私は、ここがサッカー大国ブラジルであることを実感したのだった。

州都であるここポルトヴェーリョにもプロのサッカークラブは存在する。しかし友人たちは口を揃えて「弱いから誰も応援していない」と言う。実際、地元チームのことはまるで話題にも上らないし、ロンドニア州出身の有名選手、というのも寡聞にして知らない。それより、コリンチャンスやフラメンゴといったサンパウロやリオの強豪チームの試合結果のほうが彼らにとって余程大きな関心事のようだ。ここに来るまでブラジルでは全国津々浦々、誰もがおらが町のチームを熱狂的に応援しているのではないかという単純なステレオタイプでいた私にとって、これは新鮮な驚きであった。

また、そこかしこの路地裏で子どもたちが暗くなるまでサッカーに興じている、という一昔前までのイメージもここでは当てはまらない。私自身は、あわよくば学生時代以来、久しぶりに毎日でも仕事終わりにボールを蹴ろうかと日本から愛用のシューズやユニフォームを持参していたのだが、その実そんな機会があるわけでもない。特に雨季の現在、ゲームのお誘いがかかるのは週に一度あるかないかといったところ。むしろ、もし何かの機会があれば、と念のために持参していた合気道の道着のほうが着用する頻度が高いくらいだ。当地では空手や柔道、そして柔術やテコンドーなど、各種武道や格闘技が大人気なのである。

ただ一点、事前の予想を裏切られなかったことがある。それは、一緒にプレーすると、若者からお年寄りに至るまで、誰もが上手いことだ。見事なビール腹をもつ巨漢のおじさんや、総白髪で一見よぼよぼのおじいさんまで、ひとたびボールを持つと、その外見がフェイントかと思ってしまうほどアグレッシブなプレーを披露してくれる。喩えるなら、セルジオ越後さんがそこら中にいる、という感じだろうか。カンピオナート(ブラジルのサッカーリーグ)の成績を見る限り、ブラジルの中でお世辞にもレベルの高いとは言えないであろうロンドニアにしてこの上手さ。ブラジルサッカーの厚みと奥深さを垣間見た思いだった。

そして日本の草サッカーと比べ、際立った違いを感じるのは結果に対するこだわりだ。先日このようなことがあった。正式なゲームをするにはまだ頭数が足りないので、とりあえず人数が揃うまで4vs4のミニゲームをしようということになった。私はこれまで、ミニゲームなど遊びの延長で、正式なゲームが始まるまでのウォーミングアップ程度、という認識しかなかったのだが、こちらの人々はここでも本気でやり合う。GKもいないミニゲームであるがゆえに点数がやたら入るのだが、ゴールが決まるたびに「10対9だ!」「いや、まだ10対8だ!!」などと口角泡を飛ばし合っている。彼らにとっては勝利あってのゲーム。別に遊びなんだからどうだっていいじゃん、という考えこそ彼らには到底理解しがたいものなのだ、きっと。

それと関連してもう一つ、どこからでもシュートを打ちまくる、というのもある。ペナルティエリアの外からであろうが、ときにはハーフライン付近からであっても、スペースがあってゴールが見えたらとりあえず打ってみる、というのが徹底されている。大抵は失敗に終わるのだが、全く意に介するふうでもない。たまに凄まじいシュートが炸裂することもある。細かく細かく、ゴール前までパスをつないで綺麗にゴールを決めようとする(私も含めた多くの)日本人とは偉い違いだ。せっかくブラジルにいるのだから、その図太さをぜひとも学んで帰りたいと考えている。

もうすぐワールドカップがここブラジルで開幕する。今回のセレソン(ブラジル代表)に対する周りの友人たちの評価は今一つだ。「優勝は微妙じゃない?」「前回よりはマシかもしれないけど…」といった消極的なコメントが目立つ。私自身は、もちろん美しいプレーに酔いしれたいし、試合結果も気になるが、それと同じくらい、ややシニカルに構えたこの街の愛しの友人たちが、この世紀の祭典にどれほど熱狂するのか(あるいはしないのか)、どこで誰と何を語らいながらどのように応援するのか、その様子を間近で見られることも大きな楽しみとなった。

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