JICA中国事務所ニュース 2004年1月号

1. JICA及びJICA事業に関する最近のトピック

  1. 櫻田幸久JICA中国事務所長年頭挨拶
    新年明けましておめでとうございます。専門家、シニア海外ボランティア、青年海外協力隊員として派遣中の皆様におかれましては、良き新年をお迎えのこととお喜び申し上げます。

    振り返れば、昨年も中国にとって重要な出来事の多い1年でした。

    まず、昨年3月に開催された第10期全国人民代表大会(全人代)において、胡錦濤国家主席、温家宝国務院総理が選出され、新政権が発足しました。新政権は、「小康社会の全面的発展」を経済政策の目標にする等、基本的には前政権からの政策を継承しましたが、最近では、市場主義経済化の一層の推進と並んで、地域間経済格差是正や、いわゆる「三農問題」(農業、農村、農民)対策、失業者対策等、経済的弱者に対する救済策強化の必要性を以前にも増して強調している点が注目されます。

    また、年明けから6月までSARSの発生と感染の拡大があり、皆様方にもご迷惑、ご心配をおかけしましたが、懸念された経済への影響も一時的なものに留まりました。

    10月には有人宇宙船神舟5号の打ち上げ成功もありました。世界第三番目、アジア初の有人宇宙船の打ち上げ成功は、中国の技術力の高さを世界に示し、中国国内においては中国国民としての自尊心を大いに高める出来事となりました。

    他方、昨年はJICAにとっても重要な一年でした。言うまでもなく、独立行政法人化とそれに伴う緒方貞子新理事長の就任です。JICAは、独立行政法人化を組織・業務の有り方をゼロベースで見直す機会としてとらえ、組織面では「地域別・課題別」の体制を徹底すべく準備を進めてきました。緒方理事長は、就任の日から、現場を中心とした事業運営が必要であり、権限・責任と人員を大幅に在外にシフトする必要があると指摘され、これを受け昨年末から、「地域別・課題別」に加えて、「現場主義」の観点から組織・業務のあり方を徹底的に改めるべく、本部、国内機関、在外機関が一体となって検討を進めてきております。

    さて、すでに幕を開けた2004年は、私達、対中国技術協力の前線で活動する者にとってどのような1年と言えるのでしょうか。中国は昨年、国家第10次5ヵ年計画の経済成長見通しを上回る8%以上の経済成長率を達成しましたが、農民の実質収入の伸び率は引き続き低迷し、都市部と農村部の経済格差は一層拡大しました。また、都市部の失業者問題、都市への流動人口問題は、更に深刻さを増してきております。中国政府は、これらの問題にこれまで以上に危機感を強めており、今後重要な政策が打ち出される可能性があります。これにも関連してきますが、中国政府は、三中全会において重厚長大型の国有企業が経済の中心を占め、経済力の「地盤沈下」が著しく、高い失業率に喘ぐ東北地域に対する振興策を打ち出しており、今年その実施が進行するものと見られます。また、今年は第11次5ヵ年計画の策定作業が本格化することになります。同計画策定の準備作業に当たっては、新政権は世界銀行、民間シンクタンク等の意見も聞く等しており、内容もさることながら、策定プロセスにも注目すべき点があります。このように、今年は対中技術協力の中期的な方向性を左右する重要な政策が策定され、実施される1年になるかとも思われます。

    他方、日本国内においては、昨年の有人宇宙飛行船の打ち上げ成功や引き続き高い中国の経済成長等により、対中ODAに対する否定的意見は少なからず存在しております。このような状況のなか、対中技術協力の現場にいる私達は、対中技術協力の意義について、現場においてもあらためて再確認し、幅広く発信する必要があります。

    また、本年は、JICA自身におきましては、現場を中心とした事業運営構築のための組織・業務改革の実行段階に入ります。在外へ権限、責任と人員を移すことにより、ニーズに即した新しいアイディアが生まれ、柔軟な対応が可能になるとともに意思決定が早くなる、との考えによるものですが、この考えを実際のものとするには、現場で活動される皆様と事務所員が一体となって、それぞれの持ち場で実行に移す必要があります。

    JICA中国事務所としては、事務所内の業務実施体制を一層整備するとともに、現場で活動される皆様との情報受発信と意見交換を強化したいと考えています。これまでにも増して積極的に現場からの情報や意見を発信していただきますよう宜しくお願い致します。

    最後になりましたが、皆様におかれましては、無事に活動を展開していただけるよう、ご自身による安全と健康の管理をあらためて確認いただきますようお願いします。今年1年が充実したよい1年になりますよう心からお祈り申し上げます。

  2. 新疆トルファン盆地における持続的な地下水資源利用ための開発調査の内容固まる
    開発調査「新疆トルファン盆地における地下水資源利用調査」の事前調査が11月24日から12月17日まで実施されました。ウルムチ及びトルファンにおける中国側(新疆ウイグル自治区水利庁、水文水資源局及びトルファン地区水利庁)との協議を経て、本格調査における協力の内容及び範囲等について合意に達しました。

    これまでは、開発調査の事前調査は本邦から派遣される調査団により実施されていましたが、本案件は、在外事務所の主導のもとに案件の形成及び実施を行なう在外主導型事業実施のモデル案件となっていることから、調査団は在外主体で構成され、調査団長及び調査企画は、それぞれ事務所長及び当事務所の課題担当所員が担当しました。

    トルファン盆地は中国の西北、新疆ウイグル自治区に位置し、面積約7万km2の天山山脈に囲まれた閉鎖型盆地です。トルファン地区(トルファン盆地にある行政区。トルファン市、トクソン県、シャンシャン県からなる。)では、年間降水量16.5mm、年間蒸発量2844mmと過酷な自然条件ですが、天山山脈の豊富な雪解け水を水源としており、地下水が豊富にあるとされてきました。しかし、人口増加、葡萄やハミ瓜栽培等の農業の発展、石油等の鉱業の発展に伴い、地下水の水位低下が著しくなり、カレーズ(トルファン地区、ハミ地区を中心に存在する導水暗渠を結びつけてつくられた地下水集水システム)の枯渇、水質悪化、土壌表面の塩類集積、農地の荒廃化といった問題に直面しています。飲料水の枯渇、あるいは農地の荒廃のために住民が移転せざるを得なくなった村もあり、放棄された村では砂漠化が急速に進行しています。

    トルファン地区では、水資源の管理が十分行われておらず、地下水資源量でさえ正確に把握されていません。水資源量が極めて限られたトルファン地区では、地下水・地表水を含めた水資源量を正確に把握し、各種の水需要に最適に配分していくことが最重要課題といえます。本案件はこのような課題に対し、トルファン地区の水資源量を把握し、地下水を中心とした水資源開発利用・管理基本計画(マスタープラン)を策定することとしています。

  3. 中国大学生作文コンクール入賞者がJICA事業視察研修旅行に参加
    12月9日から12日までの3日間、21世紀を担う中国の大学生に対して中国における日本のODAの現状を紹介し、理解を深めてもらうとの趣旨のもと、「中国大学生JICA事業視察研修旅行」を実施しました。この視察旅行は、青年海外協力隊日本語教師隊員が派遣されている大学において日本語を学ぶ大学生を対象としたもので、平成12年にスタートして今回が4回目となりました。

    今回の視察研修旅行参加者は、JICA中国事務所が主催して行った日本語作文コンクールに入賞した22名でした。この作文コンクールの募集テーマは、「貧困対策のために私がやってみたいこと」「環境のために私がやってみたいこと」というもので、21校から493名の作文が集まりました。どちらのテーマを選んだ作文も、子供の頃の経験や地域性が良く書かれており、読み応えある作品ばかりでした。

    今回の視察研修旅行は、4泊5日の日程で、11名ずつ2チームに分かれて行われました。このうち1つのチームは、湖北省「菜種生産技術開発現地実証調査プロジェクト」と、同省荊州で活躍しているサッカーの柘植将介隊員の活動を視察しました。もうひとつのチームは、四川省「森林造成モデル計画プロジェクト」と、同省涼山彝族自治州の西昌市で活躍する、日本語教師の友貞新一般短期隊員、看護婦の棚川千春隊員、音楽の佐藤美緒隊員、公衆衛生の吉本美紀シニア隊員の活動を視察し、植林の小原裕美子隊員ほか数名がこれに同行しました。研修旅行の最後には、JICA中国事務所において報告会を開催し、全員が研修中感じたことを日本語で報告しました。この中で、同世代の日本人が貧困克服、環境改善等のため活動を行っている姿に感銘を受けた、自分自身も将来日中両国の掛け橋になれる仕事に就きたい、との感想を学生が述べていたのが印象的でした。

    なお、中国大学生作文コンクール入賞作品は、西日本新聞の朝刊に1月中旬から毎日一作品ずつ掲載されることになっています。

  4. HIV/AIDS国際会議に出席
    12月17日から3日間、四川省成都市において中国疾病コントロールセンター(CCDC)主催の「2003年度HIV/AIDS予防・コントロールに関する国際協力プロジェクト会議」が開催されました。会議には、中央政府から衛生部、商務部、教育部、国家人口計画生育委員会の司長クラス、各省・市・自治区の衛生庁、CDC、国際機関、二国間ドナー、国際NGOから200名以上が出席し、各機関のHIV/AIDS対策への取組や協力の現状、今後の方向性について紹介、意見交換がなされました。

    今回の会議では、ハイレベルでのポリティカルコミットメントの重要性、各部門を巻き込んだ体制の整備や国際社会からの更なる協力の必要性が強調されるとともに、イギリスやフランスからは、HIV/AIDS対策が同国の国家政策の中でもトッププライオリティに位置付けられていることが紹介されました。

    近年中国政府は、HIV/AIDS対策を非常に重視しており、今年、衛生部が貧困層のHIV/AIDS患者に対する治療費免除を発表したほか、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(GFATM)からも、中国のHIV/AIDS対策基金として5年間で9,700万ドルの供与が決まりました。しかし、中国のHIV/AIDS感染者は、現在の84万人から2010年には1,000〜1,500万人にもなると言われており、さらなる対策強化が急務となっています。これに対しJICAは、来年度からHIV/AIDS対策に係る技術協力プロジェクトを実施する方向で検討しています。

  5. 当事務所にTV会議システム(JICA-NET)を導入
    中国におけるJICA事業実施の効率化・効果向上を目的として、TV会議システム(JICA - NET) が中国事務所第3会議室に導入されました。TV会議システムは、遠隔地と映像・音声を用いてコミュニケーションを図ることが可能なシステムの一般名称で、遠隔会議・遠隔教育等において、様々な情報を同時に多地点で多人数がシェアできる点にメリットがあります。

    JICAにおいては、IT憲章が採択された2000年7月の九州・沖縄サミットを契機に、JICAによる技術協力事業を補完する遠隔教育システムとして導入されはじめ、JICA-NETと通称されています。現在、本邦では本部、東京国際センター、沖縄国際センターに、海外では、インドネシア、マレイシア、フィリピン、ベトナム等に導入されており、この度新たに当事務所もこのネットワークに加わりました。

    このシステムは、パソコン、パワーポイント、OHP用資料等を双方の画面に映すことが可能なほか、2地点接続(例:中国事務所<->本部)だけでなく、多地点接続も可能であり、さらに世界銀行の類似システム(GDLN)やISDN回線を利用した他機関TV会議システム等との接続も技術的に可能とされています。同システムにより、例えば日本国内で開催される国内支援委員会、作業監理委員会、対処方針会議等の会議に当事務所から参加したり、本部の課題部が、中国において開催されるプロジェクトの合同調整委員会に参加したりすることが可能になるため、在外主導化に大いに貢献すると予想されます。

    当事務所では、試験接続を12月10日に終え、試験的利用を開始しました。今後同システムの利用ルール等を制定し、関係者に連絡しますが、同システムを早急に利用したいとの要望がある場合には、個別に当事務所の課題担当所員にご連絡ください。

2. 調査団等の動き

主な調査団(派遣中・派遣予定) (1月)

  1. 中小企業金融制度調査(11/25-1/21)
  2. 太倉家庭保健IP基本設計調査(1/4-21)
  3. 鉱工業プロジェクト形成基礎調査(重慶市固体廃棄物)(1/8-1/17)
  4. 大連人材センター基本設計調査(1/8-21)
  5. 草の根パートーナー型(金沢医科大学−中国医科大学)事前調査(1/8-16)

3. 今月の行事等

  1. 1月16日 プロジェクト調整員会議
  2. 1月19日 専門家語学試験

各協力現場で計画されている行事等(セミナー、ワークショップ、カウンターパート機関主催のセレモニー、その他)がありましたら、是非事務所担当まで情報をお寄せください。

4. 中国の動き

1)中華人民共和国憲法の一部改正について

12月22日に開催された全国人民代表大会(全人大)常務委員会において、中国共産党中央委員会から憲法一部改正案の提案理由説明が行われました。この改正案は、全人代第2回会議に上程される予定ですが、その主な内容は次のとおりです。

  • ア. 序文の「マルクス・レーニン主義、毛沢東思想、鄧小平理論の指導のもと」の中の「鄧小平理論」の次に「『3つの代表』重要思想」を追加。
  • イ. 序文の「社会主義労働者全体、社会主義を守る愛国者、祖国統一を守る愛国者等〜が参加する愛国統一戦線」の中の「社会主義労働者全体」の次に「社会主義事業の建設者」を追加。
  • ウ. 第11条第2項「国家は個体経済、私営経済の指導、監督、管理を行う」を、「国家は非公有制経済の発展を奨励、支持、指導し、非公有制経済に対し法に基づく監督、管理を行う」に改定。
  • エ. 第13条「国家は公民の合法的な収入、貯蓄、住宅その他の合法的財産の所有権を保護する」を「公民の合法的私有財産は侵害されない」に改定。
  • オ. 第10条、第13条で、国家が公共の利益の必要に応じ土地収用できる旨規定されていたが、「その場合には補償を行う」ことを明記。
  • カ. 第67条「全人代常務委員会の職権」、第80条「国家主席」、第89条「国務院の職権」において、「戒厳令」の決定、公布が規定されていたが、「非常事態」の決定、宣言等に表現を変更。
  • キ. 第4章で「国旗、国章、首都」が定められていたが、これに「国歌(=義勇軍行進曲)」を追加。

なお現行憲法は、1982年に第5期全人代で制定されましたが、88年、93年、99年にそれぞれ一部改正が行われています。

(12月23日付け「人民網」日本語版を参照して記述。)

2)中央経済工作会議による来年の中国経済運営の基本方針について

11月27日から29日までの間、中国共産党及び国務院による中央経済工作会議が開催されました。この会議においては、中国経済を取り巻く内外の当面の情勢について分析したうえで、来年の中国経済運営の基本方針が明らかにされました。この基本方針は、具体的には次の項目を含むものとなっています。(ア)国民経済における農業の位置付けを高め、農民の収入を増加させる。(イ)産業構造の調整と最適化を推進し、地域経済の調和のとれた発展を促進する。(ウ)雇用対策を促進し社会保障システムを整備する。(エ)消費需要の拡大に努め、都市・農村住民の生活水準を高める。(オ)積極財政政策と手堅い金融政策を実施する。(カ)市場秩序の是正、規範化を進める。(キ)対外開放を推進し、貿易と外資導入を拡大する。

(12月9日付け国際貿易を参照して記述。)

3)国家発展改革工作会議による中国経済6大問題について

12月2日に国家発展改革委員会の馬凱主任は、国家発展改革工作会議において、次の6点を中国経済が現在直面する問題として指摘しました。(ア)いわゆる「三農問題」(農民、農村、農業)、すなわち、農民の純収入の伸び率の低迷、農村の余剰労働力の増加、及び農業生産量の低下の深刻化、(イ)一部の工業セクターへの過剰投資と非効率な設備拡張、(ウ)消費量の急速な拡大に伴なう資源、エネルギーの海外依存度の上昇と供給不足、(エ)資金貸付の大幅な増加と銀行融資への過度の依存による金融リスクの拡大、(オ)失業率の増加、及び(カ)急速な経済発展と社会発展の不調和。

(12月9日付け国際貿易を参照して記述)