遊牧から定住へ −草地保護と牧畜民の生活向上への日中協力−

天然草地の砂漠化

【写真】目の前に広がる広大な新疆ウイグル自治区の草原(天然草地)。ここではカザフ族、モンゴル族といった少数民族が、年間数百キロを移動しながら伝統的に遊牧を行ってきた。

しかし1950年以降、肉類需要や人口の増加によって、この地域の家畜の数は5倍以上に増加。その結果、天然草地に大きな負荷がかかり、現在その大半が砂漠化の危機に瀕している。

遊牧による天然草地の砂漠化を防ぐため、中国政府は1970年代後半から遊牧民の定住化事業を実施。これ以降、かつて遊牧のみで暮らしていた牧畜民の生活は、定住地で耕作と放牧を組み合わせるといった、新しいスタイルに移行しつつある。

しかし、この定住化事業もすべてが順調に進んでいるわけではない。これまで遊牧生活を送ってきた牧畜民には、定住後に必要な飼料栽培や家畜の畜舎飼育に関する知識や技術が不足している。そのためJICAは、2007年から「新疆天然草地生態保護と牧畜民定住プロジェクト」を実施。牧民に必要な技術や知識を教える体制づくりを通じて彼らの定住を支援し、天然草地の保護を図っている。

牧畜民の意欲

【写真】このプロジェクトのモデル農家である吉格爾別克さんは言う。

「以前の遊牧生活は本当に大変でした。数百キロに及ぶ移動はもちろんのこと、家畜の売買ができなかったので、収入を得ることもままなりませんでした。政府の援助で定住した後は収入も増え、子どもを学校に通わせたり、病院に行ったりすることも楽にできるようになりました。今では子どもたちも皆仕事に就くことができたので、この生活に満足しています。

ただ最近、飼料の収穫量が減ってしまって困っています。耕作地に毒草が増えてしまったかららしいのですが、JICAのプロジェクトではこれを除去する方法を学べるし、その効果をモデル圃場で実際に見ることができるので、非常にためになります。これからもいろいろな技術を学んで、より安定した収入を得られるようになりたいです。」

【写真】同じような話は別のモデル農家の阿拝さんからも聞かれた。

「定住後は家畜の売買やアルバイトができるようになったから、収入が大幅に増えました。安定した生活が送れるようになっただけでなく、遊牧していた時には会うこともなかった、漢族や日本人などの他の人たちとも交流できるようになったのも嬉しいことの1つです。

でも最近困っていることもあるんです。それは、耕作地にうまく水が行き渡らないことです。このあたりの土は砂質なので、灌漑の流水が遅いと飼料作物に行き渡る前に地面に吸収されてしまいます。プロジェクトでは効率的な灌漑技術や管理方法の研修をするということなので、それに参加して問題を解決したいと思っています。」

彼らの話しぶりから、定住地での生活で新たに必要となった技術をJICAのプロジェクトを通して学び、更なる生活向上につなげたいという真剣な思いが伝わってきた。

天然草地の保護と牧畜民の生活向上の両立。この困難な取り組みにおいて、中国の大きな政策と日本の協力がしっかりとかみ合い、着実に成果を上げ始めている。

その過程の中で吉格爾別克さんや阿拝さんのような牧畜民が現れ始めた。彼らが見せた技術習得への意欲的な表情は、今後のこの地域のさらなる発展を象徴しているようだった。

(JICA中国事務所 インターン生 白石 拓也)