国際協力への第一歩は転倒から!!

【画像】松岡 彩子 さん

JICA人間開発部保健人材・感染症グループ感染症対策課職員(前JICA中部 研修業務課)
松岡 彩子 さん

国際協力への第一歩は転倒から

 “国際協力業界で働く人”というと留学経験があって当たり前の海外経験豊富な人をイメージしがちかも知れませんが、実はそうとも限らず、私は秋田県で生まれ育ち大学に進学するまでパスポートを持ったこともないごく内向きな環境で育ちました。

 そんな中でも漠然と国際協力の仕事がしたい ! という思いに目覚め、大学時代は単身海外旅行に出歩くようになったのですが、唯一訪れた途上国・フィリピンでは予期せぬトラブルに巻き込まれてしまいます。ガイドブックや渡航安全情報などで散々耳にしたことのある、睡眠薬強盗に簡単にひっかかってしまったのです。幸いパスポートと航空券は無事でしたし、現金数万円と所持品をいくつか盗られたくらいでしたが、まさか自分がそんな目に遭うとは思いもよらず当時は本当に落ち込んでしまいました。また、その時泊まったホテルで通りすがりに助けてくれた(ごはんをご馳走して、翌朝空港までのタクシーに同乗させてくれた)日本人の商社マンの方には「君は国際的な仕事をするのに向いていないからあきらめた方がいい」と断言されたことは今でも鮮明に覚えています。

 しばらくは海外へ行く気もしなかったものの、せっかく踏み出しかけた第一歩を嫌な思い出だけにしてしまうのも寂しいですし、自分にももう一度チャンスをあげよう、との思いから、NGOのワークキャンプに参加してもう一度フィリピンへ行くことを決めました。
 2回目のフィリピンでは、NGOの活動の中で現地の学生と一緒に孤児院の施設建設(土木作業)に汗を流したり、村の人や子どもたちと言葉が通じないながらも触れ合ったりするうちに、自分を客観的に見直して、自分の本当にやりたいこと、そしてそのために今不足しているものを考えることができるようになりました。

 やっぱり国際協力の仕事がしたい、と思ったのはそのワークキャンプで、現地の人々が日々を大切に楽しんで生きる姿に触れ、また一緒に活動していたフィリピン人の学生たちに自分の(強盗)経験を打ち明けた際に、「自国の人のそういう行為をとても恥ずかしく思う。でも、何とかしてもっと国をよくしていきたい」と語ってくれた真摯な姿勢に、彼らと一緒に何かできることをしたい、と強く感じたからだと思います。今になって思うと、初めに睡眠薬強盗に遭遇していなければ、途上国の人の「よくしたい」気持ちにこれほど切実な共感を覚えることはなかったのかも知れません。それを思うと、あれもひとつの出会いだった様に思います。

【JICAで広がる人との出会い】

 特別な技能や専門性がない自分にも今できることはなんだろう、と考えた結果、迷いながらも大学卒業後の2005年にJICAに入構し、インドネシアを含めた1年間のOJT(On the Job Training)をしながら、引き続き「国際協力の世界で自分にできること」を模索する日々を送りました。

 2006年4月から2年間勤務したJICA中部では、途上国からの研修員受入業務などを担当していました。JICAの研修員に会ったことのある人でしたらご存知でしょうが、研修員との毎日はいつも刺激的で、発見や学びの連続です。地下鉄が正確なのは…、集合時間を必ず守る(遅れそうな時は走る)のは…、夜遅くまで仕事して家族と過ごさないのは…、礼儀とルールを重んじるのは…、道で会った知らない人に笑顔で挨拶しないのは…。全て日本人にとっては当たり前なことですが、技術研修以外の日常生活からも、こうした日本人の姿を通して研修員が学ぶことは多く、そしてそんな彼らの“日本人”像を通して、私たちもまた学び、気づかされることがたくさんあるのでした。研修員が目を輝かせて「日本のここがすばらしい」「どうしてこうなの?」「自分の国でもこれをやってみたい」と語る姿に、出会いから生まれた学びあいの場の存在を強く実感したのは私だけではないはずです。自分と違う人と出会うことが、お互いに教えあい学びあうことに繋がっていると気づかされる日々でした。

【より健康な世界を目指して】

 5月にJICA中部より異動し、現在は本部の人間開発部感染症対策課で結核や下痢症、HIV/エイズの案件を担当しています。世界的には健康状態が改善して長寿化が進む一方で、途上国にはまだまだ生活環境や栄養状態が改善されず、また保健医療サービスを十分に受けられない人々もたくさんいます。こうした途上国への保健医療への協力の中で、感染症の予防策や、検査法・治療法の普及、人材育成などを行うのが今の部署の仕事です。

 保健医療については慣れないことばかりで、勉強しながら七転八起の日々ですが、これから先もこの仕事を通じて自分にできることを追い求めていきたいと思います。この部署で働きたいと思ったのも、研修員受入を担当した際にある研修員が病気になったことをきっかけに途上国への保健医療の協力の必要性を強く実感したことにあります。JICAの仕事を通じて、たくさんの人に出会い、その度に学びながら進むことができたのは私の人生の貴重な財産だと言えるでしょう。これまでの出会いがあったお陰で自分が今ここにいることができているように、私も出会う人に何かよい影響を与えられるような仕事が少しずつでもできれば、と思う日々です。

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フィリピンワークキャンプ中の折り紙教室

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フィリピン戦時中日本軍に攻撃を受けた村での聞き取り

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実験室での研修風景

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ナイジェリア帰国研修員と打ち合わせ