KTC中央高等学院教員/けん玉日本記録保持者 青年海外協力隊OB(モザンビーク・理数科教師)
窪田 保さん
「けん玉で、国際交流・・・!?」。タイトルを見て、不思議に思った人も多いと思いますが、日本の伝承遊びも国際交流のための道具になると考えています。
私はモザンビークで青年海外協力隊の活動を終えて帰国後、不登校を経験したことのある生徒が多く通うKTC中央高等学院で教員をしていますが、この秋、『KTCけん玉夢基金』と題した活動を生徒と共に始めました。けん玉を教えながら販売し、その収益を基金として蓄えてアフリカに小学校を建てるという計画です。
「けん玉?」「アフリカ??」「小学校???」。皆さんの頭に浮かんだこの「?」を取り除くには、ちょっと説明が必要なように思います。
私が真剣にけん玉に向かい合ったのは大学1年の秋からでした。怪我のため中学から続けていた柔道部を辞め、心にぽっかりと穴が空いたような生活をしていた時、小学校の頃好きだったけん玉を手にしたのがきっかけです。
地元の奈良県を離れ当時住んでいたのは、偶然にもけん玉の発祥の地と言われる広島県でしたので、練習会や大会、普及活動なども活発で、その点では幸運だったかと思っています。日本けん玉協会広島支部が毎年行っているモンゴルでのけん玉交流に参加した時、異国の地でも受け入れられるけん玉と、けん玉をするためのキャンプに集まる何百人ものモンゴルの子どもたち、そして現地で生活をして日本語を教えている日本人の姿に大きな感銘を受けたのを覚えています。
大学3年の夏には、ヒッチハイクで日本1周をしながら、小学校や保育園に飛び込みで「けん玉教室」をお願いして回りました。「自分にしかできない方法で、けん玉をもっと広めたい・・・」。そんな思いを抱いての旅でしたが、思い出に残ったのは、多くの人との出会いと人の優しさでした。
自分の用事そっちのけで車に乗せてくれる人、そのまま家に泊めてくれる人、応援メッセージをノートに書いてくれる人。何百人という人に助けられた旅でした。
「このままじゃ、バチがあたる。間接的でもいいから恩返しがしたい」。当時は大学院への進学を考えていたのですが、旅をきっかけに進路をもう一度考え直しました。
自分以外の人の為に時間を使おう。
けん玉を世界に広めたい。
将来は学校の先生になりたい。
この3つをすべて叶えることができそうだったのが「青年海外協力隊」だったのです。
理数科教師として、アフリカのモザンビークへ赴任したのは2004年7月から2年間です。学校の休みなどにけん玉教室を開催しようと思い、300本以上のけん玉を携えていきました。
モザンビークでは、1992年まで続いた内戦の影響もあり、教育制度はまだまだ整っていません。学校の数が足りないうえ、教員免許を持たない先生が大半を占める教育現場。配属先は首都マプートから車で2時間ほど離れたナマーシャ村にあるナマーシャ中学校です。
要請内容は授業の中に理科実験を取り入れること。現地の教員と相談をしながら、実験の授業を実施しました。生徒は初めて見る理科実験に、素直に驚きの表情を見せてくれましたが、現地の先生が急に辞めたり、打ち合わせに誰も現れなかったりと苦労もありました。それでも帰国間際には、現地の先生が実験の授業を行なう姿も見ることができました。
土日にはけん玉教室のほか、けん玉大会や、近隣の隊員に協力してもらっての日本文化紹介イベントなども開催しました。ナマーシャの村では、道を歩けば「ケンダーマ」と声をかけられ、地元の人と打ち解けるのに役立ったと感じています。
2006年には、日本けん玉協会と相談しモザンビークのけん玉チャンピオンを日本の大会に招待してもらい、帰国時に一緒に日本に到着しました。来日した生徒のフラービオ君が、ワールドオープンけん玉大会で私と同じ連続8時間の記録を樹立した時には、二人で抱き合って泣いてしまいました。
帰国してからは、不登校を経験した生徒が多く通うKTC中央高等学院にて教員をしています。通信制高校(屋久島おおぞら高等学校)を卒業するために通う場所なのですが、私はここで数学を教える傍ら、選択性の授業にて「けん玉」を教えています。
単にけん玉が上達することのみを目的にしているわけではなく、達成感や、人と交わる力を育むための授業にしたいので、今も試行錯誤の連続です。授業の開始から1年経った今では、有志を募り近くの保育園や学童保育所などへけん玉指導に生徒と出かけたり、イベントなどでけん玉コーナーを担当したりと、活動の幅も広がってきました。
そして、2008年10月からは、最初に書いたように『KTCけん玉夢基金』と題して、モザンビークに小学校を建てるプロジェクトを開始しました。遊び文化がなくなりつつある日本にけん玉を広め、未だ65万人以上の子ども達が小学校に入学することすらできないモザンビークに小学校を建設する。遠い二つの国を、けん玉を架け橋にして繋げることを目指して活動しています。
是非、昔ながらの遊び道具「けん玉」を手にとってみてください。
子守をしながらけん玉の練習をする子ども
モザンビーク の風景
日本文化紹介イベントでハッピを着る子ども達
ナマーシャ中学校で理科実験をする窪田
旅先で出会った兄弟。けん玉を一緒にすると表情がゆるんだ
ヒッチハイクで日本を巡った学生時代