教室から世界へ!世界の人々と協働する原体験を子どもたちに

【画像】塩飽 隆子さん

ジャパン・アートマイル代表
塩飽 隆子さん

日本の子どもたちと世界の子どもたちがインターネットを使って交流学習を行い、学習の成果を絵に表して縦1.5メートル・横3.6 メートルの壁画を共同制作する「アートマイル国際交流壁画共同制作プロジェクト」を推進。これまでに30 カ国の子どもたちと日本の子どもたちとをアートマイルで繋いでいる塩飽隆子さんにお話を伺います。

「アートマイルに取り組むことになったきっかけは何だったのでしょう?」

「アートマイル壁画プロジェクト」は、1990年後半に国連職員としてボスニアヘルツェゴビナで戦争孤児たちを支援する仕事をしていたアメリカの女性Joanne Tawfilisさんが、子どもたちがみんなで大きな絵を描くことで言葉が戻り、笑顔を取り戻していった経験から、壁画の制作と展示を通して世界の調和と平和を訴えようと、1997年に職を辞して始めたものです。
そのJoanneさんとの出会いが私の人生を変えました。彼女と直に会って話をしたときに、プロジェクトのスケールの大きさと、彼女の平和を願う純粋なスピリットと圧倒的なパワーに心を揺さぶられました。直感的にこのプロジェクトで日本の子どもたちを世界に繋ぎたいと思いましたが、一歩を踏み出すには大きな勇気が必要でした。そのとき私の背中を押してくれたのは、「人類のために何かしたい」といつも言っている夫でした。
私たちは2005年10月にジャパンアートマイル(JAM)を発足させ、「日本人として自国の伝統文化に誇りを持ち、世界の人々と相互理解を深め、グローバルな視野をもって自ら考え行動する次世代を育てる」という理念のもと、活動を開始しました。そして2006年4月に国際交流壁画共同制作プロジェクトをスタートさせました。

「なごや地球ひろばに展示されているアートマイル壁画は、日本の子どもたちが様々な国の子どもたちと一緒に制作した作品ですよね。共同制作というのはかなりハードルが高い国際交流ではないですか?」

おっしゃるように、共同制作を目的とした交流には多くの課題があります。
JAMでは、初めて参加する先生でも容易に取り組めるように、パートナーの紹介、交流用授業カリキュラムモデルの提示、交流用の電子フォーラムの提供、参加教師用のメーリングリストを立ち上げて情報共有・意見交換の場を提供するなど、様々な支援を行っています。また、毎月のレポートから進捗状況を把握して、問題が発生したらすぐに担当の先生と一緒に解決するサポート体制をとっています。

「アートマイルはそのプロセスに大きな意味がありそうですね。」

このプロジェクトは単に絵を描くことが目的ではありません。壁画は協同学習の成果であり、その過程に大きな意味があります。
相手と一緒にひとつのものを創るという明確なゴールがあるから、そこに向かう交流活動や英語活動などの学習に必然性があり、子どもたちのモチベーションが高まって学習意欲が持続します。「相手のことをもっと知りたい、話を聞きたい」「自分のことをもっと知ってほしい、思いを分かってほしい」という思いが強くなったとき、子どもたちは主体的に動きます。この知的欲求がコミュニケーション力を高め、表現力を高めます。自分たちの生活や地域のことを伝え合う中で異文化を理解し、共通のテーマについて学び、意見交換をすることで相互理解が深まります。
一方、先生の立場からすると、一過性の単発的な取り組みではなく、6ヶ月の継続した学習としてプログラムされているため、見通しをもって取り組むことができます。しかも全体の流れの中で自らの学習のねらいに合わせて自由に授業設計ができるので、総合的な学習などの探究学習に最適です。
このプロジェクトのもう一つの特徴は『デジタルとアナログの融合』、つまり「インターネットを活用したデジタルの世界と、実際に絵を描くというアナログの世界が融合した学習である」ということです。

「プロジェクトを進める上で苦労されたことはどんなことですか。」

歴史的・宗教的・文化的背景が異なり、生活環境、教育環境が異なる国の間に立つということは、時として困難を伴います。国民性の違いというだけでなく、個々の価値観の違いもありますから、両者に共通の認識を持ってもらい、時間や約束を守ってもらうことだけでも実はなかなか大変です。常に様々な問題に直面しますが、とにかく諦めなければ道は開けてくるものです。これまでに30ヵ国と144ペアが交流していますが、途中で頓挫したペアは1つもありません。達成率100%はJAMスタッフの抜群のチームパワーと、海外のヒューマンネットワークのお陰です。

「では、嬉しかったことを教えてください。」

嬉しいのはなんと言っても子どもたちの成長ですね。これに尽きます!
人は異質なものと出会ってものを考え始め、外の世界に触れて内なる自分に向き合うものだと思います。海外の同世代と半年という長期にわたって交流学習をすると、子どもたちは世界には多様な価値観があることを肌で感じ取ります。お互いを理解するには十分なコミュニケーションをとる必要があることを実感します。中学生や高校生になると、これまでとは違った視点で自分の在り方や生き方を真剣に考えるようになります。
シリアのパレスチナ難民と交流した中学生たちはこう言いました。「アートマイルは知らない世界を知るという経験だった。これまでテレビや新聞の情報だけで勝手なイメージを作り、多くの誤解をしていたことに気づいた。」「いろんな考え方があって当たり前。自分の意見を持つことは大事、それを人に分かってもらうようにきちんと伝えることが大事。相手の意見を分かろうとして聞くことも同じくらい大事だと思った。」
この子たちは今それぞれの目標に向かって大学生活を送っていますが、世界を意識している子が多いのはアートマイルに原点があるような気がしています。

「最近は教科書でも取り上げられていますね。今後の展開は?」

2010年は小学校の図工美術の教科書で紹介していただきましたし、2011年は中学校の美術の教科書で取り上げていただく予定です。
2011年度の目標は「100校でアートマイル」です。いつか「日本中の子どもたちが小学校か中学校で一度はアートマイルをしたことがある」という日が来たら、日本も世界も少し変わるような気がしませんか?
これから起きる世界の問題は、今の子どもたちが将来世界の同世代の人々と協力して解決していかなければなりません。日本人としての誇りを持ち、広い視野で問題を捉え、自分の意見をしっかりと持って世界の人々と協働できる世代を育てることは、私たち大人の責任であり、教育の責任です。世界の子どもたちと異なる価値観を超えて一つのものを共同で創り上げるアートマイル国際交流壁画共同制作は年々世界に広がっています。子どもたちが大人になったとき、アートマイルで出会った仲間たちと、よりよい世界を築くために共に働く時が来るのも夢ではないでしょう。

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