【6月号】「洗濯板から『援助』知る」

【写真】上田 敏博(うえだ としひろ)さん 愛知県名古屋市出身・在住JICA中部なごや地球ひろば地球案内人(青年海外協力協会(JOCA)中部支部所属)
上田 敏博(うえだ としひろ)さん 愛知県名古屋市出身・在住

青年海外協力隊への参加をきっかけに、世界と関わり続ける人がいます。今回はフィリピンでさまざまな経験を積まれ、現在青年海外協力協会(JOCA)中部支部でなごや地球ひろば業務を担当されている上田敏博さんに2回連続でお話を伺います。
(聞き手:JICA中部 市民参加協力課 増井恵)

国際協力に関心を持ったきっかけについて教えてください。

フィリピンのスラムでゴミを拾う子ども

学生時代、自分の人生のあり方に疑問を感じ、新たな刺激を求めて東南アジアに旅に出ました。その時のスラムのすさまじい現実に衝撃を受け、しかしそこに生きる子どもたちの笑顔に勇気づけられました。それからいろいろなことを考えました。私の価値観は変わり、国際協力に携わりたいと思うようになりました。

青年海外協力隊員としてはどのような活動をされましたか。

マニラで洗濯板の実演会をする様子

1988年7月、フィリピン中部のパナイ島イロイロ市の職業訓練センターに木工指導で派遣されました。赴任当初、下宿先のおばちゃんにシャツの洗濯を頼んだところ、ボロボロになって戻ってきました。島では木の棒で衣類を叩いて洗うのが一般的な洗濯の仕方でした。そこで「洗濯板」を思いつき、同センターで試作、完成させました。下宿先のおばちゃんにプレゼントしたところ「泡立ちも良くて使いやすい」と大喜びされ、口コミで評判が広がると主婦から注文が殺到しました。私はこの洗濯板を「ラバ・ボード」と名付け、同センターで職業訓練の一環として製作指導するかたわら、山村まで出かけ実演を続けました。この活動はフィリピンのマスコミにも取り上げられ、職業訓練センターを統括する労働省から「フィリピン全州にある職業訓練センターを周って、洗濯板製作指導をしてほしい」という要請から「フィリピン全土洗濯板普及プロジェクト」として2年間、何千人に及ぶ人々に洗濯板の作り方を伝えてきました。イロイロ市で行われた実演会には、アキノ大統領、ラウレル副大統領も顔を見せ、副大統領に手作りの洗濯板をプレゼントしました。「これこそ待ち望んでいた援助」とトーレス労働省長官から表彰を受けました。

その後のフィリピンとの関わりについて教えてください。

マニラ貧困地域開発事業の視察をするラモス大統領(左)と(国際NGO職員時代/スモーキーマウンテンにて)

青年海外協力隊員として、洗濯板普及プロジェクトの最後の滞在地が、アジア最大のスラム、スモーキーマウンテンでした。そこで仲良くなった子どもの一人が風邪で亡くなりました。その時、これから成長する子どもたちに何かしたいと思い、日本に帰国するなり、国際NGO団体セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンのフィリピン駐在員として都市の貧困地域開発、ピナトゥボ火山被災地域復興支援、ストリートチルドレンを対象に教育、医療活動を推進してきました。その後、現地法人のNGO団体を設立し、都市の貧困地域開発として寺子屋(幼稚園)運営、奨学金制度などの支援活動やフィリピン子ども民族舞踊団「母なる大地の子どもたち」を立ち上げ、環境と文化の伝承をテーマに1992年より毎年海外公演を行っています。2000年から今までに5回、日本公演をしました。2005年愛・地球博EXPOホールにて、2006年フィリピン友好50周年事業として日本6都市ツアーも行いました。2013年5月には、アメリカ4都市で上演しました。

フィリピンから日本を見られて、どのように感じておられましたか。

スラムの子どもたち

「人は豊かさと便利さばかりを追求して生きて良いのか?」「本当に人間らしく生きるということはどんなことなのか?」「人間にとっての本当の幸せって何なのか?」
私を含む多くの日本人が失ってしまい、しかし取り戻したいと願っているヒューマニティを、フィリピンでは思い出すことができました。これは言い換えれば「生きる」ことを享受する素朴な喜びであり、未来への不安に怯えたり、通り過ぎた過去をくよくよ振り返ったりせずに、未来に希望を抱きながら、精一杯生きているということです。もし私がフィリピンの人たちと出会わなかったら「生きる」ということについて深く考えることもなかったかもしれません。「人間らしく生きる」こと。それがフィリピンの人たちが、私に教えてくれたことであり、今なお私が学び続けたいと思っていることです。

ありがとうございました。青年海外協力隊員としてフィリピンに派遣され、その後もフィリピンで国際協力に携わり通算21年の月日を過ごされた上田さん。次号では、日本に活動拠点を移された現在について詳しくお話を伺います。