ヒツジ、ウマ、ヤギ

【写真】大井 聡美(おおい さとみ)岡山県国際協力推進員
大井 聡美(おおい さとみ)

牛・豚・鳥 → 羊・馬・山羊

中央アジアの真珠と呼ばれる『イシククル湖』

こんな赤土の丘もあります

キルギス伝統的なテント『ボズウィ』

任国であるキルギス共和国に赴任後、1ヶ月経った頃に書いた私の日記のタイトルです。
日本に住んでいた時とキルギスに来てからと、タイトルにあるように、食べるお肉の種類が変わったと書いてありました。

私たちJICAボランティアは、2年間の任期でそれぞれの任国へ派遣されます。
私がキルギスで過ごした2年間と同じ時間が、帰国してから過ぎました。
任国にいた時には、活動が思い通りにいかず、時間の流れの遅さを感じたこともあったはずなのに、今振り返るキルギスでの日々は、上手くいかなかったことも含め、懐かしさと輝きに満ちています。
そして、あっという間に過ぎた2年間であったと感じます。

キルギスでの生活は、日本と違うことが多々あり、それはもちろん良いことばかりではありませんでしたが、その新たな発見は、キルギスの魅力にもつながりました。
そんな中、日本育ちの私が大きく心を揺さぶられる出来事に出会いました。

それはキルギス人にとっても日本人にとっても本当に身近なことですが、でも、日本の生活の中では見ることのない、私たちが生きていく上で必要不可欠な、動物が、食肉となる瞬間です。

ある日、1歳になる子供のお祝いに招かれ、その中の競争で1位となり、一等賞の賞品にヤギをもらいました。
家に帰ると、ホストママは大喜び!!
「このヤギ、明日さばくわよ。」と。
このホストママの言葉を、その時の私は半信半疑で受け取っていました。なぜなら、私がもらったヤギだったので、そのヤギをどうするかは、私に決定権があるものと思っていたのです。
でも、この前言は撤回されるどころか、見事に実行されました。

キルギスの人たちは、それは素早くさばいていきます。一番最初の首を切る瞬間も。
ヤギの、最後の悲鳴に近い鳴き声・・・そして喉からどくどくとあふれる血。
私も何か悲鳴をあげたくて、でもうまく唾を飲み込めなくて・・・ 動けませんでした。

夕方の冷え始めた外での出来事だったので、その血から白い蒸気が上がっていたのがすごく対照的だったことを、今でも鮮明に覚えています。

きれいに皮をはぎ、中も開いていきました。
内臓も、全てを無駄なく食べるのです。
いろいろな箇所を確認していたホストママは、さばいているお兄ちゃんたちに、「心臓、どこにやったの〜?」と聞いていました。
『心臓、かぁ・・・。』なんて思ったことも覚えています。

ホストファミリーが羊の頭を洗っているところ

羊一頭丸々茹で上げた後

ホストママが羊の毛から作った絨毯にキルギス模様をあしらっているところ

本当に当たり前のことですが、私たちの食べるお肉は、そうやって動物がさばかれ、私たちの口に入り、私たちの血肉となっています。私は、その時に身を以て再認識しました。

今までだって食べてきました。これからだって食べます。
こうやって生き物の命をもらって私たちは生き続けていきます。
私ひとりの命ではないのだな・・・と強く思いました。

生んでくれた両親に対しては、そう感謝の想いを抱くことはありましたが、今まで生きてきた中で口にしてきた数え切れないくらいの命を考えてみても、本当に、私ひとりの命ではないのです。
それはもちろん、私だけではなく、生きとし生けるもの全ての存在に言えることです。

動物をさばく瞬間に直面せず、ただスーパーでお肉を買える私たち日本人は恵まれているのでしょうか。それとも、そういう動物たちの命を経て食卓にお肉が並んでいることをあまりリアリティとして持てないことは、恵まれていないのでしょうか。
なかなか答えを出すのが難しい問いが、私の中を巡ります。

最近の小学生に魚の絵を描かせると、魚の切り身を描く子もいるのだと聞きました。恵まれ、守られ暮らしている私たちは、本当に大切なことを、知らず知らずのうちに学ばずに来ているのかもしれません。

日本の食料自給率は40%を切っています。大量の食料を輸入に頼っているにもかかわらず、1秒間にコンビニエンスストアのおにぎり8000個にあたる量の食料を捨てているそうです。

もし、日本人が身近で動物をさばき、それが食肉となっている環境を作りあげていたら、こんなにも捨てる感覚でいられるのかな・・・と感じます。


岡山県の国際協力推進員となって10ヶ月。
日々の業務の中で学校に伺うことも多いのですが、任国で過ごしたからこそ気づけた事柄や感謝の気持ちなども併せて伝え、若い世代に気づきの種を植えていきたいな・・・と思います。

ヤギをさばき終わった日の夕方・・・
ふと仰いだ空はもうすっかり日が沈み暗くて、一番星・二番星・・・そして皓々と半月が輝いていました。
今夜キルギスは、どんな星空かな・・・ ホストママに会いたくなります。