スポーツに出来ること(特定非営利活動法人ハート・オブ・ゴールド 山口拓)

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特定非営利活動法人ハート・オブ・ゴールド
JPPプロジェクトマネージャー 山口拓

国際開発の新しい潮流とハート・オブ・ゴールドの活動

「スポーツを通じた開発」(International Development through Sport,以下IDS)とは、募金目的のスポーツ大会を始め、難民キャンプ内の紛争解決を目指すスポーツ大会や子どもの遊ぶ権利を求める体育支援など、スポーツを通じて世界の発展に寄与する活動を指します。

これまで日本で行われてきたIDS事業は、専門性の高い活動が実施されるまでに至っておらず、国際社会でも同様に他の優先課題に関する支援が先行するなど、IDS事業を中心に据えた支援組織は極めて少ない状況にありました。しかし、2000年に発表された国連のミレニアム開発目標(MDG)に「スポーツを通じた開発」の有効性が示され、その必要性が明記されたことから、現在では、国際開発分野に大きな変化が起こり始めています。

「特定非営利活動法人ハート・オブ・ゴールド(HG:ハグ)」は、そんな国際情勢を背景に1998年に設立され、『スポーツを通じた開発』の支援組織として現在も支援を継続しています。2001年以降は元・現役五輪選手や一流指導者の派遣を通じた草の根スポーツ支援を継続し、その成果から5年後には、カンボジア王国教育省からの強い要望を受けて『小学校体育科指導書作成』支援事業(以下 体育支援事業)を開始。2008年7月に事業を終了しています。

JICA草の根技術協力事業として行われた体育支援事業では、カンボジア王国教育省特別部会が実際の指導要領および指導書の制作活動を行えるように幅広い支援を展開しました。結果、事業開始から1年でカンボジアの建国以来初となる「小学校保健体育科指導要領」が作成され、2年後には、「小学校保健体育科指導書」最終案を完成させることが出来ました。

私の生き方

さて私は、大学時代に「家族、生活区域、市町村、都道府県、地域、国際等の各セクターで、ヒト・モノ・カネがどのように「交流」し、また、国と地方自治がどのように関与するべきなのか、そして、地域社会の持つ特性が生かされた形で発展していくことは可能か」というテーマに惹かれ始め、これまでの人生を通じて、少しずつ その興味に傾倒されていくようになりました。

1.大学時代には旅行業者とのベンチャーで「スポーツを通じた青少年育成」、2.卒業後には教育系出版会社で「民間教育」、3.退職後には生涯スポーツビジネスを起業して「生涯スポーツ」、4.その後、北米私立校では体育教師兼寮長をしながら「国際体育」、5.青年海外協力隊時代にはハンガリーで「スポーツ行政」、6.さらに、大学院では「国際スポーツ政策」、7.世界オリンピアズ協会では「オリンピズム」、8.そして、JICAのNGO技術者派遣制度を通じて東ティモールへ派遣された際には「国家開発計画」の一部、9.小学校保健体育科支援事業(JICA)のプロジェクトマネージャーとしてカンボジアに派遣された際には「教育政策」の一部を、それぞれ学び自身を成長させてきました。

以上のことからも、国際開発の新しい潮流である「IDS」、組織やヒトとの出会い、私の歩調の3つが共鳴したことが今の私の人生に大きく影響しています。

ゼロからの出発

ところで、カンボジアでの体育支援事業では、様々な問題に行く手を阻まれました。特に、これまで支援の行き届いていなかった保健体育科は、他の教科の支援とは一線を画し、その教科を担当する人材、資料、情報、統計、組織などの整備がされておらず、まさにゼロからのスタートとなりました。全ての支援のバランスを確保し続けながら、段階的に全ての計画を平行して進めるには協働事業が不可欠でした。こうした国家レベルの支援事業を短期間で成し遂げることが出来たのは、教育省特別部会担当者の奮闘は勿論のこと、それぞれの専門を生かす形で協働事業が展開されたことが極めて大きな成果であったと感じています。

つまり、国際協力の課題をJICAと、保健体育科に関する課題を筑波大学と、招聘事業を岡山県や岡山県大学スポーツ国際交流推進機構と、現場の実態調査を青年海外協力隊と、それぞれ協同して、或いは、協力を受けながら支援するように工夫し、これが功を奏しました。

平和と健康と連帯を

これまで国際開発分野では、特異性のある組織がそれぞれの目標を達成するために個別事業を展開するなどして問題解決に当たってきました。しかし、各分野である程度の結果が残されたものの、MDGで説明されているように、全ての目標が達成されることはありませんでした。何故なら、経済社会に於けるグローバライゼーション、宗教や民族の軋轢、貧困問題、天然資源などの影響で、国際社会が複雑に絡み合い、また、地域や各国の文化、歴史、内政なども影響して、全ての地域で多くの異なる問題が混在しているからです。

そこで今後は、組織の協同のみならず、分野を横断した支援活動に期待が寄せられています。IDS活動は、スポーツそのものの開発のみならず、スポーツをツールとして複雑に絡んだ国際社会の問題解決に取り組む新しい支援の形として開始されたばかりですし、万能な支援形態ではありません。しかし、ハート・オブ・ゴールドは、平和、健康、連帯といったスポーツの直接的効果を獲得する中で、支援者と被支援者の垣根を取り払い、組織や分野を横断した取り組みを可能にし得るこの取り組みを、協力者と共に継続していきたいと考えています。

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カンボジアの日常的な風景 〜スラムの前でサッカーを楽しむ若者たち〜

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政治的な理由から閉鎖され続けていたPNHのスタジアム

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一流指導者を招いた草の根スポーツ支援

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アンコールワット国際ハーフマラソンのスタート風景

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日本とカンボジアの大学生が伝えた小運動会

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教育省行政官に対して行った指導要領WS中にチームリーダーが行ったプレゼン

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カンボジアの一般的な体育授業

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指導書作成後の小学校体育科授業