【教師海外研修 現地研修報告】五感で学んだスリランカの11日間

2018年8月8日から18日までの11日間、島根、岡山、広島、山口の4県の小・中・高から、計8名の先生がスリランカを訪問し、国際協力の現場を視察しました。

2018年9月13日

現地研修日程

ジャヤワルダナセンターにて

現地の学校で日本の教育について発表

研修の振り返り

2018/8/8(水)【関西国際空港→バンコク→コロンボ】
●深夜:コロンボ到着

2018/8/9(木)【コロンボ】
●午前:JICAスリランカ事務所 ブリーフィング
●午後:ジャヤワルダナセンター見学

2018/8/10(金)【コロンボ→キャンディ】
●午前:青年海外協力隊活動先訪問 障害児施設見学・交流
●午後:キャンディへ移動

2018/8/11(土)【キャンディ→ハバラナ】
●朝:青年海外協力隊 活動先訪問 体育隊員活動見学
●日中:キャンディ市内散策・教材収集 
●夕刻:ハバラナへ移動

2018/8/12(日)【ハバラナ→トリンコマリー】
●午前:有償・無償資金協力、技術協力 現場視察
    世界遺産シーギリヤロック、及び、博物館見学
●午後:トリンコマリーへ移動
●夕刻:研修中間振り返り

2018/8/13(月)【トリンコマリー→ハバラナ】
●午前:NGO活動視察
    特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン 内戦後の再定住支援活動視察
    ホームビジット
●午後:ハバラナへ移動


2018/8/14(火)【ハバラナ→コロンボ】
●朝:マータレーへ移動
●午前:青年海外協力隊 活動先訪問 生活習慣病予防啓発活動見学
●午後:コロンボへ移動

2018/8/15(水)【コロンボ】
●午前:学校視察
    日本の教育事情プレゼンテーション
    現地教師との意見交換
    日本語学習者との交流
●午後:民間連携事業現場視察
    株式会社すららネット訪問 日本文化紹介

2018/8/16(木)【コロンボ】
●午前:青年海外協力隊 活動先訪問 廃棄物処理場見学
●午後:在スリランカ日本国大使館表敬
●夕刻:JICA職員、ボランティアとの夕食懇談会

2018/8/17(金)【コロンボ→バンコク】
●午前:JICAスリランカ事務所 研修の振り返り
●午後:報告会
●深夜:コロンボ→バンコク

2018/8/18(土)【バンコク→関空】
●午後:関西国際空港到着、解散

スリランカってどんな国?

スリランカはインドの南に浮かぶ、北海道より少し小さな島国。シンハラ人やタミル人など、約2,103万人が暮らしています。公用語はシンハラ語とタミル語ですが、英語も広く使われています。約7割を占める仏教徒の他にもヒンドゥー教徒、イスラム教徒、キリスト教徒などが、それぞれの信仰や文化を大切にしながら生活しています。人々は穏やかで、治安も良いスリランカですが、9年前まで、内戦が続いていました。

国際協力とは?

「憎しみは憎しみによって止まず、ただ愛によってのみ止む」
このようなスピーチをし、日本の戦後賠償を放棄したスリランカ大統領がいました。首都名の由来ともなったジャヤワルダナ大統領。敗戦国日本の復興の第一歩を支えたともいえるこの人物の存在は、日本ではあまり知られていません。高度経済成長後の日本しか知らない私たちは、途上国を支援する先進国日本という視点しか持っていません。でも、実は日本にも支援された時代があり、世界中の多くの人の支えがあって、現在の日本があるのです。そんなことを教えてくれたジャヤワルダナセンターから、今回の研修は始まりました。

教育とは?

現地の子どもたちと

中高一貫校での先生方との意見交換でこんな質問が出ました。
「生徒たちにどんな仕事に就いてほしいですか?」
子どもたちに「生きる力」を身につけさせることが一つの課題で、中高ではキャリア教育も行われている日本。スリランカの先生たちはどう考えているんだろう?そんな気持ちから出た質問でした。
「自分の好きな仕事に就いてほしい。」
個性を伸ばす教育を目指す点は、スリランカの先生も同じようです。そして、さらにこんな答えもありました。
「国を支えるためには、必要だけど人手が足りない分野もあります。そういう仕事にも目を向けてほしい。」
身につけた知識や技術を何のために使うのか、個人の自己実現の先に何があるのか、そんなことを考えさせられる一言でした。
NGOや青年海外協力隊の活動現場では、そこで働く人たちからこんな言葉も聞きました。
「開発には終わりがない。でも、支援はいつか終わらなければならない。」
「自分がいなくなった後も、現地の人だけで続けていけるように。」
住民や支援対象者の自立をいかに側面支援するか…、国際協力の現場に立つ人たちの取り組み姿勢が垣間見える言葉でした。
もしかしたら、子どもたちを育てる教育現場でも同じことが言えるのかもしれません。
「生きる力」はどうすれば身につくのか。
スリランカで聞いた言葉の中から、先生たちはどんなヒントを得たのでしょうか。

グローバル時代とは?

PWJのスタッフと話す参加教員

この研修では、多くの青年海外協力隊員に会いました。活動内容はそれぞれですが、全員に共通していたのは、とても生き生きと楽しそうに活動をしていたということです。そして、話を聞くうちに気づいたのは、彼らが普通の人だということ。「同僚との関係に悩むこともあれば、ホームシックになることもある…」という隊員たちの言葉に、“人間らしさ”を感じ、ぐっと距離が縮まりました。「海外で働いているからといって、決して特別な人じゃない。」「“好きな仕事をしていて、毎日楽しい”というのは、地元で生徒に囲まれている自分と同じ。」その日の振り返りではそんなコメントもありました。
スリランカ北東部で、内戦で故郷を追われた人々の再定住を支援している特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)。そこで働く青年海外協力隊経験者に、ある先生がこんな質問をしました。「日本国内でも支援を必要としている人はたくさんいるのに、なぜスリランカなんですか。」それに対して、こんな答えが返ってきました。「PWJは日本国内でも活動しています。困っている人がいたら助ける。国内か、海外か…、もうそんな時代じゃありません。」
国際協力は一部の特別な人が行っているわけではありません。日本でやっていることの延長線上に国際協力がある、協力隊員の姿からはそんなことも見えてきました。
自分の知識や技術が必要とされるなら、場所がどこかは関係ない。フィールドは世界。先生たちが育てている子供たちが生きていくのは、そういう時代なのかもしれません。

平和とは?

タミル人の家庭を訪問

平和=降参
「タミル地域のワークショップで出てきた答えでした。」と教えてくれたのは、青年海外協力隊員時代タミル人地域で活動していたNGO職員でした。「平和」「=愛」や「=相互理解」という答えに慣れている日本人には思いつかない答えだったといいます。
2009年、スリランカの内戦は、タミル人の過激派がシンハラ人を中心とする政府に「降参」する形で終結しました。ほんの些細な衝突から始まったという内戦は26年間に及び、多くの住民が戦闘に巻き込まれ、多数の犠牲者を出しました。タミル人の穏健派は決して過激派を支持していたわけではありませんが、戦いで疲弊しきった彼らにとって「平和」とは「降参によってやっと手に入れたもの」だったのです。シンハラ優遇政策に不満を持ちながらも、平和のためには耐えなければならない…という複雑な思いを抱えるタミルの人々。公の場で気持ちを語ることは決してありませんが、現地で生活を共にし、同じタミル語を話す協力隊員にだけは本音を語ってくれることもあるそうです。
平和教育で自分が教えられる事は何か。これは戦争経験を持たない先生たちが悩む点でもあります。友達との関係をどう作っていくのか、日常の小さなもめ事をどう解決させるのか。平和は子供たちにもできる日々の積み重ねの先にあるのかもしれない…シンハラとタミルの関係を聞きながら、平和教育の在り方を考えさせられました。

言葉とは?

会話帳を使いながら現地の人とコミュニケーション

今回の研修では、現地の人と積極的に交流する先生たちの姿が印象的でした。楽しそうにやり取りする先生たち。でも実は、色々な「言葉の壁」を感じていました。
シーギリヤロックの頂上では世界中から集まった人々と英語でつながるという楽しい体験をする一方、タミル語地域ではタミル人と話が通じなくて困るシンハラ人を目にするという面白い体験もしました。聞きたいことがいっぱいあるのに英語が話せないことにもどかしさを感じたという先生もいれば、日本語とジェスチャーで一生懸命伝えようとしたら相手が理解してくれたという先生もいました。中には、スリランカ訛りの英語に、グローバルイングリッシュとは何かを考えさせられたという英語の先生もいました。
もう一つ印象的だったのは、複数の言語を操るスリランカ人にたくさん出会ったことです。シンハラ人・タミル人混在地域で自然に2つの言語を身につけたという人、流暢な日本語を独学で習得したという人、観光ガイドをするために外国語がいくつも話せるという人もいました。
日本の生活ではあまり感じることのない「言葉の壁」。それは先生たちに色々な気付きを与えると同時に、「言葉は何のために学ぶのか?」「本当のコミュニケーション力とは?」こんな問いも与えたようです。

「ま、いっか」の魔法

動かないバスを押す参加者

今回の研修では、色々なハプニングが起こりました。時間になっても迎えが来ない、Wi-fiが使えない、シャワーの途中で断水、停電、洗面所にカエル、水を買ったらボトルにアリの巣、ホテルのドアを開けると牛の群れ、車がエンスト、ホテルの名前が変わっていて迷子に…。これが普通のツアーだったらクレームの嵐です。ところが、先生たちはなぜか楽しそう。
そのわけは…、魔法の言葉「ま、いっか」。
この魔法を先生たちにかけたのは、キャンディで出会ったラグビー隊員でした。「活動で学んだことは?」という質問に彼はこう答えました。「うまくいかないこともあるけど、『まいっか』って思うことも大切かなって…」。インフラが不十分な途上国で言葉も文化も違う人々と生活や仕事をすると、思い通りにいかないことがたくさんあります。いちいち腹を立てていても仕方がないので、「ま、いっか」と気持ちを切り替えて、また頑張るんだとか。
ハプニングやトラブルは起こるもの。それをどう捉えるかは本人次第で、想定外の出来事を楽しむ力を持てば何が起こっても笑い飛ばせる…。協力隊員の笑顔を見ているうちに、先生たちは「ま、いっか」の魔法にかかってしまったようです。

SDGsを通して見る私たちの課題とは?

廃棄物処理場を視察

この研修を通して先生たちがいつも意識していたのは、事前研修で学んだSDGs、国連が2030年までに解決を目指す17の開発目標です。保健師隊員の活動する病院では「目標3.すべての人に健康と福祉を」、障害者施設では「目標4.質の高い教育をみんなに」、廃棄物処理場では「目標12.作る責任、使う責任」など、スリランカ社会の抱える課題がSDGsのどの目標に関連しているかを考えながら見学しました。そして、先生たちが常に念頭に置いていたのは、スリランカが抱える問題から私たちが学ぶべきことは何か? 人類が共通の課題として協力して取り組むべき問題は何か? 子供たちがその問題を自分事にできるにはどうしたらよいか? ということでした。
教師海外研修で重要なのは、子供たちに訪問国の事例「を」伝えることではなく、訪問国の事例「で」何を伝えるかです。今年はSDGsを通して先生方にそれを考えていただきました。帰国後の授業実践が楽しみです。
(同行・文:JICA中国 広島県国際協力推進員 橋本優香)
(写真提供:2018年度JICA中国 教師海外研修参加教員)