【教師海外研修 現地研修報告】五感で学んだラオスの11日間

2019年8月30日

JICA中国・四国センターが合同で実施する教師海外研修の現地研修を、2019年8月7日から17日までの11日間、ラオスで行いました。鳥取県、岡山県、広島県、山口県から7名、愛媛県、高知県、徳島県、香川県から5名の先生が参加され、計12名の先生がラオスで様々な国際協力の現場を視察しました。

現地研修日程

COPE Visit Centerで専門家の話を聞く

ドンコー村の子どもたちと

ホームステイでラオス語に挑戦!

授業実践のためのインタビューを行う参加教員

2019/8/7(水)【関西空港→タイ乗継→ラオス】
●夜:ラオスの首都ビエンチャン到着

2019/8/8(木)【ビエンチャン】
●午前:JICAラオス事務所 ブリーフィング
●午後:COPE Visit Center訪問

2019/8/9(金)【ビエンチャン】
●午前:ラオス日本センター訪問 日本語を学ぶ学生との交流
●午後:「ビエンチャンバス公社能力改善プロジェクトⅡ」現場視察

2019/8/10(土)【ビエンチャン→パクセ→ドンコー村】
●朝:ビエンチャンから空路、南部の都市パクセへ
●午前:パクセの市場にて教材収集 
●午後:ドンコー村訪問。子どもとの交流、ホームステイ

2019/8/11(日)【ドンコー村→ワットプー→パクセ】
●午前:世界遺産ワットプー及び資料館見学(無償資金協力、技術協力 現場視察)
●夕刻:研修中間振り返り

2019/8/12(月)【パクセ→パクソン→パクセ】
●午前:UXO LAOチャンパーサック支部訪問、不発弾処理現場視察
●午後:国際NGO「Village Focus International」訪問

2019/8/13(火)【パクセ】
●午前:チャンパーサック県病院視察(青年海外協力隊活動先訪問)
●午後:チャンパーサック教員養成校視察(青年海外協力隊活動先訪問)

2019/8/14(水)【パクセ→ビエンチャン】
●午前:パクセから空路、首都ビエンチャンへ
●午後:水道事業運営管理能力向上プロジェクト(MaWaSU2)現場視察
●夜:JICAボランティア、職員との夕食懇談会
    
2019/8/15(木)【ビエンチャン】
●午前:ビエンチャン市内見学、教材収集
●午後:NGO「アジアの障害者活動を支援する会(ADDP)」訪問(草の根技術協力事業)

2019/8/16(金)【ビエンチャン→バンコク】
●午前:JICAラオス事務所 研修の振り返り
●午後:報告会
●夜:ビエンチャン→バンコク

2019/8/17(土)【バンコク→関西空港】
●朝:関西空港到着、解散

ラオスってどんな国?

 ラオスは東南アジアに位置し、周りをベトナム、カンボジア、タイ、ミャンマー、中国に囲まれた日本の本州ほどの広さをもつ内陸国です。人口は685万人(2018年)で、最も人口の多いラオ族の他、モン族、ヤオ族、アカ族など49もの民族が暮らす、多様性に富んだ国です。公用語はラオス語ですが、少数民族はそれぞれの母語も使って生活しています。優しく穏やかな国民性で、訪れる外国人を温かく迎えてくれる一方、フランス統治やインドシナの戦火に巻き込まれた歴史を経て、医療や教育などの諸問題をまだまだ多く抱えている側面もあります。

国際協力とは?

浄水場の見学

卓球バレー体験

 1965年、最初の青年海外協力隊員が派遣されたのがラオスでした。以来、日本からラオスへの支援は協力隊にとどまらず、幅広く展開されています。
 経済成長が著しいラオスでは、将来的に道路渋滞や車の増加による空気汚染などが懸念されています。それらを未然に防ぎ、庶民の移動に選択肢を増やすため、JICAは「ビエンチャンバス公社能力改善プロジェクトⅡ」を実施しています。京都市などから寄贈されたバスを活用し、正確な運航スケジュールと清潔、安全性をセールスポイントにした路線バス事業をサポートしています。住民だけでなく、外国人旅行者にも評判のこの公共交通が普及する反面、ラオス国民の足である「トゥクトゥク」が、ビエンチャン市内では近いうちに廃止されるそうです。そして、「停留所以外ではバスは停まらない」という日本人にとっての当たり前が、ラオスの運転手にとっては難しいとのこと。それは「ラオスの人は優しいから、停留所でなくてもお年寄りが手を上げたら停まってしまう」からだそうです。世界各国から評価の高い緻密で安全な日本式の公共交通が、ラオスらしさを薄れさせてしまうのではないか。開発とは、発展とはなんだろう。大きな課題が参加者を悩ませました。

 水道普及率が約25%のラオスでは、全ての国民が安全で衛生的な水を使えるようになることは喫緊の課題です。JICAは長年にわたり、日本各地の地方自治体の協力を得て「水道事業運営管理能力向上プロジェクト」を展開してきました。現在、このプロジェクトには埼玉県、川崎市、横浜市から水道事業に携わる3名の職員の方が派遣されています。慣れない土地で奮闘される行政職員の皆さんは、日本の知見を惜しみなく伝える一方、「ラオスから学べる技術もたくさんある」と笑顔で話されました。

 「アジアの障害者活動を支援する会(ADDP)」は、ラオスで25年以上活動するNGO。障害者が教育を受けることもままならないラオスで、職業訓練やスポーツを通じて彼らの自信を取り戻し、社会に参画する機会を提供しています。訪問した日は、利用者の皆さんとともに卓球バレーを体験、また併設されたカフェで働く聴覚障害を持つスタッフ2名から、ラオス語の手話を習いました。
訪問した日のふり返りで、ある先生がカメラをのぞきながら言いました。「ADDPで撮った写真、とても沢山の人が映っているけど、全員一人残らず笑顔なんです」。
 利用者やスタッフの皆さんから、たくさんの元気をもらった日でした。

ラオスの負の側面を学ぶ

不発弾を見せる現地の作業員

 ラオスにはベトナム戦争時の不発弾が残り、その数は世界最多と言われています。本研修では、一般の外国人に不発弾問題を知ってもらうためのCOPEビジターセンターや不発弾処理を行うUXO LAO事務所を訪問しました。また、南部の不発弾処理現場も訪問し、実際の爆破処理の瞬間に立ち会いました。野球ボール1つ分の小さな爆弾が、のどかなコーヒー農園の土や草を吹き飛ばし、心臓を貫くような爆音を響かせます。40年以上前に終結した戦争の負の遺産が、今もラオスの人々の生活を脅かしている現実に、参加者は言葉を失っていました。
 また、ラオスでは、国境を越えた人身売買が深刻な問題となっています。その被害者を救済するNGO「Village Focus International」も訪問し、現状と取組みについて知りました。隣国タイで性被害や過重労働にあった若者を救出し、社会復帰のための教育や職業訓練を行うシェルターでは、まだ幼い少女達が裁縫技術を学んでいました。恥ずかしそうに挨拶してくれる彼女達の笑顔に心が痛みました。
 穏やかで牧歌的なラオスの、負の側面も多く学んだ研修でした。

ラオスの人々との交流

ラオス-日本センターで全員集合!

「バーシー」を体験

 ビエンチャンでは「ラオス-日本センター」を訪問し、日本語を学ぶラオスの学生と交流しました。学生が流暢な日本語でラオスの文化を紹介し、若者が大好きなラオスのスイーツもふるまってくれました。ラオスのデザートに舌鼓を打った後は、先生方が日本から準備してきた、自分の学校の生徒がアニメや食文化を紹介する動画やメッセージカードを披露しました。ラオスの学生の将来の夢や幸せについても聞き、交流の時間はあっという間に過ぎていきました。
 南部パクセでは、メコン川の中洲にあるドンコー村でホームステイ体験も。村の子どもたちとは大縄跳びや折り紙、けん玉や紙風船など、たくさんの遊びを通して交流をはかりました。また、ラオス人が結婚や出産、入学などの大事な転機に必ず行う儀式「バーシー」も体験しました。村の長老が祈りの言葉をささげ、たくさんの村人から色鮮やかな紐を腕に巻いてもらいます。その後はお供え物の鶏肉や、各ステイ先のお母さんが作ってくれた家庭料理を堪能、いつしかラオスの伝統酒「ラオラオ」もふるまわれ、賑やかな夕食になりました。そしてステイ先では会話帳を駆使し、なんとかラオス語でコミュニケーションをはかりました。

青年海外協力隊の活動

教員養成校の様子

 本研修では南部パクセで活動する2名の青年海外協力隊員の配属先を訪問しました。
 チャンパーサック県病院で活動する看護師の吉田隊員からは、赴任して半年で感じた病院の課題や医療事情、今後の活動予定を伺いました。病院では、病室に入りきらない患者が廊下の簡易ベッドに寝かされていたり、ゴミが放置されている場所があったりと、日本の医療現場と異なる状況に参加者はショックを隠しきれない様子でした。
 チャンパーサック教員養成校を訪問した際は、校長先生から現地の教員育成について話を聞き、そこで活動する岩井さんからは、新しく作られた科目「エコヘルス」について伺いました。急速な発展を遂げるラオスの課題は、環境、ゴミ問題、健康と予防など、経済成長と密接に結び付いています。ラオスの人にとって新しい概念である公衆衛生を広める足掛かりを、岩井隊員は懸命に築かれていました。

日本の子どもたちに何を伝えるか

JICAラオス事務所にて

 研修最終日には、JICAラオス事務所で本研修の報告を行いました。
学んだこと、感じたことはもちろん、知れば知るほどモヤモヤしている現状、何をどう子どもたちに伝えたらいいか、研修が進むにつれて悩みが増していることなども率直に語り、そのような機会を与えて下さった感謝を職員に伝えて本研修の締めくくりとしました。
 帰国された先生方は9月以降、この貴重な11日間の学びを授業に還元していきます。教師海外研修で重要なのは、子供たちに訪問国のエピソード「を」伝えることではなく、訪問国のエピソード「で」何を伝えるかです。先生方の授業実践、そしてそれを受けた子どもたちが何を考え、どう感じるのか、今からとても楽しみです。
(写真提供:2019年度JICA中国・四国 教師海外研修参加教員)