【教師海外研修 授業実践】鳥取県立鳥取西高等学校

2019年11月15日

正解のないテーマについて考える

授業の様子

ホームステイ先で撮影中の中村秀司先生(右端)

 鳥取県立鳥取西高等学校の中村秀司先生は、10月31日、地理Aの時間に「ラオスの生活文化の多様性と国際理解、諸課題と国際協力」という授業を行いました。
 授業の最初、中村先生が作成した「ドンコー村の暮らし」という10分のスライドショーが流されました。ラオス南部に位置し、メコン川の中州にある人口405人の小さな村。治安が良く、警察も病院もない。出産は船で隣の町に行かないといけないが、電気はあり、日本とフランスから支援が入っている、などなど…。生徒は、この村でホームステイを経験した中村先生の補足説明を聞き、たくさんの写真を見て、村の現状を把握し、課題を発見していきました。
 中村先生がこの授業でポイントとしたのは、「課題を見つける目」を身に付けること、そして、現地の人の想いを最優先に課題解決の方法を考えるという点でした。様々な課題に対して、生徒は「病院をつくる」「教育支援」といった解決策を出し、優先度が高いと思うものから順位をつけていきました。

 教師海外研修に参加した中村先生は、ODAの現場を訪問し、日本が行う国際協力の現状を深く知る一方で、ラオスの人々の穏やかな国民性やゆったりとした時間の流れに触れ、現地で日々悩んでいました。支援の意味、途上国が発展するということ、開発の光と影、そしてその過程に日本が深く関わるということ。日本をはじめとする先進国の価値観が、ラオスの伝統や習慣、外国人をも魅了する「ラオスらしさ」を変えてしまうかもしれない…。こんな迷いを帰国してからも抱き続けた中村先生は、当初は水の問題を授業で取り上げようと準備されていたにもかかわらず、直前で内容を大きく変更したそうです。

答えがないからこそ、自分自身を問い直す

「ラオスすごろく」体験中

 この日、中村先生は放課後にも希望者を対象にしたセミナーを開催しました。ラオスの若者に人気のタピオカ入りココナッツミルクを片手に、ラフな雰囲気でラオスについて考えていきました。
 中村先生が作成したのは「ラオスすごろく」。SDGsの17の目標が目になったサイコロを使い、出た目標の数だけコマを進めます。そして、生徒が手にしていたのは、たくさんのラオスの写真が入ったタブレットでした。進んだコマと同じ番号の写真を見て、クイズに答えていきます。クイズは一つの答えを当てるものではなく、その写真から分かることを想像することで、自分自身の価値観を問い直していくねらいがありました。鮮やかな袈裟を着た若い僧侶たち、バイクに家族4人が乗って公道を走っている写真など、日本では目にすることのない風景に、生徒は笑顔になったり、真剣な表情になったり、いろいろな意見を出し合っていました。
 ここでも中村先生は、モヤモヤとした想いを生徒にストレートに話していました。先進国は上で途上国は下といったイメージを無意識のうちに持っていたかもしれないこと、そんな自分自身に気づいたこと、だからこそ何を正しいとするか、分からなくなってきたこと。地理歴史に深く精通し、若い教員を指導する立場である中村先生自身が、この正解のない課題について生徒と同じ立場で考え、そして「今も問い続けています」と話す姿がとても印象的でした。