【イベント報告】国際フェスタ~野口健さんトークショー

2020年1月7日

国際フェスタ2019

子どもも大人が一緒に楽しめるマンカラ

 中四国最大級の国際交流イベント「国際フェスタ2019」が11月17日(日)、広島国際会議場にて開催されました。今年は過去最高、昨年から大幅に来場者が増加し、延べ16,300人の方々がフェスタを楽しみました。
 JICA中国は毎年、ひろしま国際センター、青年海外協力協会(JOCA)中国支部と協働し、「地球ひろば」というコーナーを出展しています。毎年来場者に大人気の地球ひろばですが、今年は昨年の2倍以上の来場がありました。楽器を鳴らしたり民族衣装を試着したり、アフリカ布を使った小物づくりを楽しむ横で、中東・アフリカの遊びであるマンカラに熱中する人、反対側では協力隊経験者による様々な国の話に耳を傾ける人たち等、老若男女問わず楽しむ人たちの姿がありました。
 その他、各団体の工夫を凝らした出展ブースをみてまわる市民はもちろんのこと、SDGsスタンプラリーに走り回る子供たち、着物の着付け体験をし、会場内外で撮影を楽しむ外国の方の姿も見られました。

野口健さんによるトークショー

 今年は国際フェスタ20周年、国際会議場開館30周年ということで、メインベントであるトークショーは、例年より大きなフェニックスホールで行われました。アルピニストの野口健さんをお招きし、「未来と世界の広げ方~落ちこぼれだった僕の場合」というテーマでお話しいただきました。初めに野口健さんの紹介映像が流れました。野口健さんのヒマラヤ登山の様子には、世界の頂点を極める険しさが垣間見え、また、ネパールでのゴミ清掃活動は、夏の富士山のイメージとはかけ離れた、想像以上に過酷なものでした。高山に捨てられたゴミは、目の前に見えているのに氷と一体化しており、ゴミ拾いというよりも、もはやつるはしを使っての「ゴミ発掘」。会場の空気も緊張感に包まれたところで、映像が終了し、ご本人が登場です。先程の紹介映像とは打って変わって、気さくな雰囲気全開で軽やかに登場され、会場の空気も一瞬で柔らかくなりました。

物事のA面とB面をみること

トークショーゲストの野口健さん

 ユーモラスな語り口で会場を一気にひきこんだ野口健さんのお話は、ゴミ清掃活動に至ったきっかけにさかのぼります。落ちこぼれだった野口健さんの登山との出会い、エベレストで他の国の登山隊に言われた、「日本は一流の国かもしれないが、山にはゴミをたくさん捨てる三流国だ」という言葉。
 野口健さんは、子どもの頃からお父様に、物事のA面とB面を見ろ、と言われて育ったそうです。観光地はA面、その陰に隠れている課題はB面。エベレストに登るまで知らなかった、エベレストのゴミ問題。そのB面に真正面から向き合い、清掃活動を始めることを決意。ところが、日本国内からは、登山の先輩方の偉業に泥を塗る行為、売名行為と叩かれ、シェルパ達は、ゴミ拾いは下位のカーストの人たちがすることと言って反対。清掃活動を通じて、「立場によって正義は変わる。その中で、共通のテーマは何かと考えた答えは「生きる」こと」。野口健さんは、自分の正義にとらわれず「環境」と「観光」のバランスを考える重要性を感じられたそうです。
 シェルパ達と話し合いを重ねてはじめたエベレストの清掃活動。数年後には野口健さんの手を離れ、シェルパ達自身が国連等から資金を得て活動費を捻出し、清掃に励むようになったのだそう。「エベレストはネパールの象徴だから。エベレストを徹底的に綺麗にすれば、エベレストからネパールを変えられると彼らが強く思うようになったから」。エベレストに誇りを持つシェルパ達によって、富士山より先にエベレストの清掃が終わりそうなのだそうです。

時間をかけること

一番に質問をした高校生

 エベレスト清掃がそろそろ終わると思った頃、野口健さんはマナスルのベースキャンプとなる村を訪れました。村の子供たちに将来の夢を聞いたところ、子供たちは答えられなかったそうです。「自分が子供の頃を振り返ると、テレビや絵本をみて、空想を膨らませ、夢を膨らませていたけれど、絵本も読まない彼らは空想を膨らませることを知らない。学校って大事なんだな。ジャパニーズマウンテンの麓だし、何かしたい。そうだ、学校を作ろう!」と思った野口健さん。ところが、村人たちは学校建設に前向きではありませんでした。彼らにとって子供たちは立派な労働力で、女性は村から出ることもありません。そこで何年もかけて、村に通って顔を覚えてもらいつつ、同じネパール人であるシェルパ達に、地元に出来た学校を出てから自分たちの未来がどれだけ広がったか、村人たちに話してもらったのだそう。
 そうやって村人達が学校の必要性を理解してから学校を作りました。しばらくして、学校に通う子供たちに夢を尋ねたところ、今度はパイロットはじめ、いろいろな夢が出てきたそうです。
 時間をかけながらも着実に活動を進めておられる野口健さんですが、「すべてが思い通りにいくわけじゃない。なんでそんなことしちゃうかな」と思うことも一杯あるそうです。「4歩進んで3歩下がって、あ~…となることはある。でも、1歩さえ残っていれば、マイナスからのスタートではないし、0からのスタートでもない。そこが大事。」との言葉が胸に残りました。

考えること

 国内外で様々な活動をしている野口健さん、若者には特に、海外に出てみてほしいと語りました。「海外にいると日本の良さ、弱さが見えてくる。海外に出てもっといろんなことを知ってほしい。若い人には世界をみながら、自分が何をしたいのか、考えてほしい」。
 野口健さんは海外の訪問先で青年海外協力隊員と交流することも多いそうで、「青年海外協力隊の人たちも最前線で活躍している。現場で活躍している人は面白い。活動期間の限られる隊員は、自分が去った後に現地の人らが理解して続けてもらうためには、自分がするだけではなく、わかってもらう活動をしないといけない。彼らも4歩進んで3歩下がってがっくり来ることが沢山あるはずだが、どうやったらいいか、いろいろ考えながらやっている。いろんなことを思っている。頑張っているから目が輝いている。」と紹介してくれました。
 未来と世界を広げるために頑張ることだけではなく、我慢しないこと、休むことの重要性も話してくださった野口健さん。トークショーの最後には、高校生から「高校生のうちに何が出来るか。」、シニアの方から「子供たちに何がしてやれるか。」といった質問があり、それぞれの「未来の広げ方」を考えて頂ける機会となりました。
 これからもJICA中国では市民の皆様に世界を身近に感じてもらえるイベントを実施していきますので、お楽しみに!