職種を超えて,時代を超えて

2018年12月10日

遠藤浩之(2018年度1次隊・青少年活動)

「こんにちは」「こんばんは」「ありがとう」ジブチの街中を歩いていると,このように日本語で声を掛けてくれる現地人がいる。しかも決して少ない数ではない。

私は青少年活動隊員として,首都ジブチ市にある地域開発センター(CDC)で活動している。地域の青少年に文化・スポーツ活動の機会や場を提供することが目的である。活動先に赴任して最初に依頼されたのは日本語教室の実施だった。JOCVによる日本語教室は世界各地で行われている。そして,ここジブチでも職種を超えた,また時代を超えた日本語教室が行われている。

CDC局に配属となるJOCVは実質私で8代目である。初代の隊員は2000年に配属され,そこから日本語教室が継続されてきたようである。実は様々な事情により7代目の隊員から5年の空白があるのだが、それにもかかわらず,日本語教室は継続されてきた。それは,様々な職種の先輩隊員のおかげである。CDCでは,そこで働く職員がバスケットボールの大会運営や絵画コンクールを行っているだけでなく,地域の人材を活用して空手教室や外国語教室も実施している。そこでCDC配属の隊員でなくても,JOCVによる日本語教室が長い間継続されてきていたのである。

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私が派遣されて最初に見た先輩隊員の活動はコミュニティ開発,溶接隊員による日本語教室であった。本来の活動ではなく,本当の「ボランティア」として活動する姿がそこにはあった。CDCにある図書室を利用して日本語教室は行われていた。衝撃を受けたのは生徒たちの学ぶ意欲である。生徒たちが日本語教室にやってくると,まず自分たちで図書室の清掃及びテーブル・イスなどの準備をしていたのである。自分たちで学ぶ環境を作ろうとする彼らの姿勢に私は感銘を受けた。彼らの日本語への関心の高さに驚くとともに,CDC配属の隊員として私に何かできることはないかと考えるきっかけになった。

日本語教室を運営していくにあたって,私が行ったことを3つ紹介する。まず,実施場所の変更である。少なくともこの5年間は,カルティエ5と呼ばれるCDCで行なわれていた日本語教室をカルティエ3というCDCで行うことにした。図書室の整理整頓及び管理がある程度行き届いていたからである。生徒たちは教室に来るとすぐに学習に取り組めるようになった。日本語教室に来る生徒は働いている社会人や学業で忙しい大学生が多い。学習環境を整えようとする素晴らしい姿勢を奪ってしまう結果にもなってしまったが,彼らは貴重な時間を日本語の学習に充てられるようになった。

次に,習熟度別のクラス編成である。私が日本語教室に加わったことで講師は3人となった。そこで,初級・中級・上級の3クラスに分けることで,きめ細やかな指導ができるようになった。ジブチにはアニメや漫画の影響もあってか日本語を学びたい人が数多くいる。日本語教室があることを聞きつけて,毎回新しい生徒がやってくるという状況があった。そういった中で,ひらがながすでに書ける生徒と全くの初心者を別々に指導できるようになったことは,学習者及び指導する側にとっても有効であった。

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3つ目に,日本語教室の拡充及び指導法の改善である。これまで継続されてきた日本語教室だけでなく,別の曜日に初級コースのみの日本語教室を展開することにした。そこでも,毎週のように新しい生徒がやってくる。現在登録者は60名を超えた。また,私の日本語教室ではICTを取り入れた授業を実践している。CDCにはプロジェクターが常備されているが,映画鑑賞のために使用されているだけで,学習のためには使用されていなかった。日本の学校ではICTの活用は一般的となってきた昨今であるが,ジブチではまだまだ一般的とはいえない。「ICTを活用した日本語の授業を受けたジブチ人はきっと私たちが初めてだ」と,生徒たちは感嘆の声を上げていた。十分な黒板がない中,プロジェクターを用いた大画面での授業は,大勢の生徒へ一度に説明をするには大変効果的であった。

このように少しずつではあるが,CDCに配属となった私にできることを模索しながら,活動している。日本語教室は青少年活動隊員である私の活動の一部に過ぎないが,ジブチと日本をつなぐ大事な活動の一つである。「日本語を通して日本及び日本人への理解を深めるとともに,ジブチと日本の交流を促進する人材の育成」を目的にこれからも実施していく予定である。ジブチ人の日本人への印象は,ここ数年で大きく変化してきている。過去の隊員の報告書を読むと,現在のような日本人に好意的なジブチ人ばかりではなかったことがうかがえる。それが変化してきたのは,自衛隊の拠点や日本大使館が設置されたことも理由の一つであろう。しかし,このCDCでの日本語教室が数多くの先輩隊員により18年間に渡って継続されてきたことも大きな理由の一つのはずである。ジブチで生活してみて,その成果が明らかなのは私自身が実感している。

先日,私はジブチで誕生日を迎えた。日本語教室のある一人の生徒からメールをもらった。そこには私に分かりやすいように,英語で次のように書いてあった。”Thank you for teaching me this beautiful language.”私は改めて気付いた。「そうか,日本語は美しい言語なのだ」と。

任期終了の日まで,一人でも多くのジブチ人にこの美しい言語を伝え続けようと思う。そして、この日本語教室がさらに発展したものになるよう,限りある任期の中で自分にできることを模索しながら精一杯取り組んでいきたい。