JICA関西による地域理解プログラムに参加して-琵琶湖をめぐる開発と保全の教訓-(2020年11月)

JICA開発大学院連携プログラム(JICA-DSP)では、郷土の発展の歴史を通して、開発の在り方について学ぶ取組みを、地域理解プログラムとして実施しています。JICA関西では、日本の高度成長を支えた琵琶湖の開発や、保全に向けた住民運動について学ぶプログラムを開催しました。プログラムに参加したサンドラ・ングルムさん(ジンバブエ出身)とシャヒード・イクバルさん(パキスタン出身)がその体験を語りました。

郷土での経験が、世界の発展につながる

氏名:サンドラ・ングルム(Sandra Ngwerume)
出身国:ジンバブエ
留学先:神戸情報大学院大学
研究分野/研究テーマ:情報通信技術(ICT)イノベーション
JICAコース:アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ(ABEイニシアティブ)「修士課程およびインターンシップ」プログラム(2019年度)

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日本留学の動機

サンドラさんは、ジンバブエの大学でソフトウエア工学や情報システム管理の学位を取得した後、卒業後は通信会社に就職し、経理、カスタマーサービス、コンサルティング業務などさまざまな職務に携わりました。マラウイなど近隣国で業務に携わる中で、情報通信分野について更に深く学ぶことを希望し、JICA-DSPに参加しました。

日本での経験

日本での留学について、サンドラさんは次のように述べています。「私は神戸情報大学院大学で、情報通信技術(ICT)を活用した新しいサービスを研究しています。大学ではグループ発表やインターンシップもあり、とても充実しています。学問だけでなく人とのつながりも得られ、恵まれた環境に感謝しています」。

サンドラさんは、今回、地域理解プログラムに参加したことによって、キャリアに新たな展望が見えたといいます。「JICAは、私にグローバル人材としての成長をもたらしてくれました。私も留学を終えたら、母国ジンバブエで人の成長に貢献したいと強く思うようになりました。若者の能力を開発し、その若者たちが国を発展させていくことに携わりたいです」。

琵琶湖から学ぶ

昔から、琵琶湖は人々の生活を支えてきました。「プログラムでは、事例を通して琵琶湖について理解を深めることができました。灌漑、飲料水や工業用水の供給、ツーリズム、女性の地位向上、日本文学など、さまざまな面で琵琶湖は役割を果たしてきています。持続的な開発は、政府機関、科学者、環境保護活動家など、多様な立場から関係者が知恵を出し合い実現するものです。環境保全には市民の積極的な参加も必要だと分かりました」。

留学を終えたら

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将来、サンドラさんは博士号を取得することも希望しています。留学後は母国に戻り、ICTを活用したサービスにより、地域社会に変化をもたらしたいと考えています。「ジンバブエには世界最大規模の人造湖や、湖があります。ICTを活用し、これら水資源を利用していくことを考えたいです」。

プログラムに参加して、サンドラさんは、物事の見方を新たにしたと語ります。「社会の問題を解決するための視野が広がりました。どうしたら人々の生活をもっと良くできるか。琵琶湖の事例をもとに、より大局的に考えられるようになったと思います、留学で得た技術や知識を活かし、人々の意識を高め、湖の管理や生産的な利用に貢献したいと思います」。

日本の地域の取組みを、パンジャブ州の政策の参考に

氏名:シャヒード・イクバルさん(Shahid Iqbal)
出身国:パキスタン
留学先:立命館大学大学院政策科学研究科
研究分野/研究テーマ:政治科学
JICAコース:SDGsグローバルリーダー(2020年度)

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来日前

シャヒードさんは、大学で農学と経済学を学んだ後、パキスタンのパンジャブ州政府の企画開発課に勤務してきました。そこで長く働くうちにJICAがパキスタン政府と実施する様々なプロジェクトについて知るようになりました。「パンジャブ州は大きな州です。さまざまなセクターのニーズに対応するためには、複合的な視点での政策が求められます。JICA-DSPの留学プログラムを知り、私はこれまでの実務経験を活かしながら、持続可能な社会に必要な政策について、日本で学びたいと思いました」。

日本で学び、世界へ

なぜシャヒードさんは、留学先に日本を選んだのでしょうか。「日本は戦後50年で驚異的な発展を遂げ、世界第2位の経済大国になりました。その姿はまさに、発展のお手本です。インドなど諸外国の成長に協力していることも決め手となりました」。

日本での体験

シャヒードさんにとって、日本の社会は完璧とは言わないまでも(もとよりそのような国はないと付け加えた上で)、その国民性が社会の構築におおいに役立っていると感じています。周りへの親切や、仕事へのひたむきな姿勢。先回りして動くことや、丁寧なコミュニケーション、そして効率的で体系的な手順など。日本に来ることで、これらを目の当たりにし、新鮮な学びがあったと語ります。

慣れない留学生活においては、学生や講師との交流も、シャヒードさんの活力になっています。ハラル食やモスクなど、イスラム教徒への配慮にも感激したといいます。「身の回りで差別的なことは起きていません。国籍や人種についても、否定的なことを言う人はいません」。

琵琶湖-日本社会を体現するもの

この地域理解プログラムでは、琵琶湖博物館で詳しい展示にも触れました。「排水処理の仕組みや動植物の保全、灌漑システム、飲料水の供給網など、琵琶湖がどのように扱われているか知ることができました。パキスタンでは湖や河川が汚染され、動植物や農作物の生産に影響を及ぼしているケースがあります。琵琶湖では見事に保全されています」。

帰国後の展望

シャヒードさんは、将来は博士号への進学も希望しています。卒業後は母国の企画開発課に戻る予定です。「課では、灌漑、洪水対策、高速道路建設などのインフラ事業から、保健や教育などの社会事業まで幅広く扱っています。琵琶湖の事例を通じて、水域とその周辺の管理と活用について多くのことを教わりました」。

帰国前に、シャヒードさんは日本での体験をまとめたエッセイを書く予定です。「JICA-DSPでは日本の発展の事例を学ぶことができました。琵琶湖をめぐり様々な切り口があり、話題が尽きませんね」。