対面して体感するからこそ学びが深まる、日本に留学する理由(2020年11月)

広島大学で理科教育の研究を行っている清水欽也教授は、留学生の受け入れにおいて大学で中心的な役割を果たしています。新型コロナウイルス感染症の影響が続く今、留学生の現状や、日本に留学する意義などについて伺いました。

所属/氏名:広島大学大学院人間社会科学研究科 清水欽也 教授
研究分野:社会科学/教育学/教科教育学

【画像】

コロナ禍での留学生の状況

新型コロナウイルス感染症の影響で、海外からの入国が難しくなっています。広島大学に留学した学生たちは、Microsoft Teamsを使用してオンライン授業を受けています。清水教授は、「アフリカなど時差のある地域の学生が来日前に現地で受講する場合は、ゼミの時間を夕方にするなど、授業を受けやすいように調整することもできます」と、柔軟な対応が可能であることを説明します。

「広島は東京などの大都市と比較すると感染者が少ないこともあり、広島大学では「三密」の回避やマスク着用といった一般的な感染防止対策を前提としたうえで、対面授業も実施できる状況となっています(2020年11月時点)。JICA開発大学院連携プログラムに参加する留学生は、来日後2週間はJICAの施設で待機生活を送っており、それ以降は、「感染防止対策をしっかりと行っていただければ、広島大学では問題なく留学生活を送れるのではないでしょうか」(清水教授)。

日本で理科教育を学ぶ意義

清水教授は、理科教育の中でも実験・観察を重視しています。実験・観察を行うには、自分で手を動かし、自分の頭で考える必要があります。「開発途上国では、たとえ教員であっても、教わった知識を鵜呑みにすることに慣れてしまって、自分で考える習慣が身についていないことが多いのです」と清水教授は話します。目の前で実験や観察の様子を見ることができて、その場で実践しながら学ぶことができるのは、やはり来日することで得られる大きなメリットです。「動画教材などを使ってオンラインで学んでもらうことも考えられますが、できるだけ直接体感してもらいたいですね」

日本に留学して理科教育を学ぶ意義は他にもあります。まず、日本のカリキュラムは論理的に組み立てられていることです。学年ごとのカリキュラムは、子どもたちが段階的に思考力を鍛えていけるように組まれています。清水先生によると、海外ではこのような積み重ねの発想がないケースも多いといいます。日本の教育では、生活の中で抱いた疑問を解決する過程で理科を使うようになっています。「日本の理科教育は、いきなり抽象的な理論を教え込むのではなく、具体的な事例から、なぜだろう?と自分の頭で考えさせ、自らの手で実験・観察をして検証することから始まるのです」

留学生の受け入れで日本社会が得るもの

留学生の受け入れは、日本人にもさまざまな影響をもたらします。「日本人学生と留学生が一緒に実験に取り組むと、互いの常識の違いを知ることになり、視野が広がります。留学生とともに学べる環境に魅力を感じて、広島大学を選ぶ日本人学生もいますよ」と清水先生は語ります。また、海外のニュースを聞くたびに、ステレオタイプなイメージではなく、具体的な知り合いの顔が浮かぶようになることも大きいでしょう。「顔が見える交流が生まれることで初めて、地に足がついた議論ができるようになると思うのです」

留学生を受け入れるにあたって、日本社会が意識すべきことは何でしょうか。清水先生は、言語が鍵を握ると考えています。「外国人との軋轢の多くは、言語が通じないことから生まれるように思います。言語を知ることは文化を受け入れること。日本人も、日本語ボランティアなどの形で留学生に協力し、互いの間にある壁を低くする努力ができると良いのではないでしょうか」