円借款における環境配慮のためのJBICガイドライン

1999年10月

I. 本ガイドラインの目的

1.本ガイドラインの性格

『円借款における環境配慮のためのJBICガイドライン』は、国際協力銀行法第23条第2項第1号で、国際協力銀行により供与される円借款に対して適用されるものである。
開発援助における環境配慮の目的は、開発途上国が自助努力により持続的な開発を達成することを支援することにある。プロジェクトの環境配慮に係る最終的 な責任は借入国自身にあるが、国際協力銀行はプロジェクトの審査の際に、借入国側が行う環境上の所要の措置等について借入国から提出された資料に基づき 「IIチェック項目と解説」に示した項目毎に確認を行う。
本ガイドラインは、環境配慮に関する国際協力銀行の審査の指針と借入国がプロジェクトの計画準備段階において配慮・準備すべき環境面の諸事項を示すものである。

2.プロジェクトの分類

プロジェクトは国際協力銀行の審査に際して、以下の3種に分類される(別紙)

A種:環境アセスメント報告書(英文もしくは和文の要旨が添付されているもの)の提出が必要であり、その提出を受けて本ガイドラインに基づいて審査される。

B種:環境アセスメント報告書の提出は必要ではないが、本ガイドラインに基づいて審査される。

C種:環境アセスメント報告書の提出は必要でなく、本ガイドラインに基づく審査も省略されうる。

3.環境アセスメント報告書

(1)A種プロジェクトについては、借入国内での所要の手続きを終了した環境アセスメント報告書が借入国政府から環境配慮のための国際協力銀行に対して提出されなければならない。

(2)上記(1)で提出される環境アセスメント報告書は、借入国内において公開されたものであることが望ましい。

4.環境配慮に関する基本的事項

(1)プロジェクトは、借入国の環境保全にかかる法律、借入国が加入している国際条約等に定められた規定を遵守したものでなければならない。

(2)公害

  • i.プロジェクトは、原則として借入国の排出基準等の規制基準を遵守したものでなければならない。また、借入国はプロジェクトが実施される地域において適用される環境基準等の環境保全のための行政目標値の達成に努めなければならない。
  • ii.プロジェクトにおいて、借入国に排出基準が設定されていない場合には、必要に応じて国際協力銀行は借入国が国際機関、日本、その他の国が設定した排 出基準を参考にしつつまた費用効果等も勘案して、当該プロジェクトに係る暫定排出目標値を設定することを促すものとする。

(3)自然環境

  • i.プロジェクトは、原則として借入国の国内法等に基づき指定された自然保護地区の外で実施されなければならない。また、同地区に重大な影響を及ぼすものであってはならない。
  • ii.プロジェクトは、希少な野生生物の生息及び生物の多様性の保全に著しい影響を及ぼさないよう必要な措置がとられたものでなければならない。

(4)住民移転

  • i.プロジェクトの計画と実施に当たっては、非自発的な立ち退きと再定住が求められる住民及び主たる収入源を喪失する住民(以下「移転住民」という)への配慮が必要である。
  • ii.プロジェクトは、その計画策定段階で移転住民数が必要最小限になるように代替案の慎重な検討がなされたものでなければならない。
  • iii.住民移転が発生するプロジェクトにおいては、影響を軽減するための計画が予め策定されていなければならない。その計画は、借入国によって移転住民の意向が十分聴取されたものでなければならない。
  • iv.住民移転に伴う影響を低減するための計画は、移転住民の移転後の生活、所得の回復を目的としたものでなければならない。

(5)環境保全対策

  • i.環境保全対策(住民移転他社会環境を含む)に必要な費用はプロジェクトコストに含まれていなければならない。
    特に、公害防止機器等による環境保全対策及びモニタリングが必要なプロジェクトにおいては、その運転及び維持管理に必要なコストが適切に手当されなければならない。
  • ii.借入国の事業実施機関は、必要に応じプロジェクトの環境対策を客観的に評価し監視することのできる第三者機関を活用することが望ましい。

付則

本ガイドラインはすべての新規プロジェクトに適用される。
本ガイドラインは、国際協力銀行法第23条第2項第2号に規定される海外投融資についても準用する。

(別紙)プロジェクトの分類基準

各分類の内容は以下のとおりであるが、具体的な各項目は例示であり網羅的なものではない。

1.A種:以下の少なくとも一つに該当するプロジェクト

(1)以下の大規模な新規及び改修等のプロジェクト

  • i. 道路・鉄道
  • ii. 空港
  • iii. 港湾
  • iv. 発電
  • v. 工業一般
  • vi. 鉱山開発
  • vii. 林業
  • viii. 潅漑
  • ix. 廃棄物処理
  • x. 広範囲の地域の水没を伴う開発
  • xi. 河川の集水域の開発
  • xii. 大量の有害化学物質・農薬の製造もしくは利用を伴う開発
  • xiii. 水面埋立を伴う開発

(2)以下の地域で実施されるもしくは以下の地域に影響を及ぼすおそれのあるもの

  • i. 塩類集積あるいは土壌侵食の発生するおそれのある地域
  • ii. 半乾燥地帯
  • iii. 熱帯の自然林
  • iv. 水源
  • v. 魚及び野生生物資源の保護・保全もしくは持続的利用にとって貴重な生息地
    (珊瑚礁、マングローブの生態系を含む)
  • vi. 歴史的、文化的、科学的に固有の価値を有する地域
  • vii. 人口または産業活動が集中して、大気、水質環境の更なる悪化が懸念される地域
  • viii. 特定の脆弱な人口集団(伝統的な生活様式を持つ遊牧民の人々等)にとって特別な社会的価値のある地域

(3)以下の性格を有するもの

  • i. 広範囲、多様かつ不可逆的な環境影響を生じるもの
  • ii. 多くの住民に影響が及ぶもの(住民移転の影響を除く)
  • iii. 再生不可能な自然資源を大量に消費するもの
  • iv. 土地利用あるいは社会的、物理的、生態的環境の著しい変化が発生する原因となるもの
  • v. 大量の有害廃棄物の発生あるいは処理を伴うもの

2.B種:以下に該当するプロジェクト

(1)以下のセクターに属するプロジェクトでA種に属さないもの

  • i. 道路・鉄道
  • ii. 空港
  • iii. 港湾
  • iv. 上水道
  • v. 下水道
  • vi. 発電
  • vii. 送変電・配電
  • viii. 工業一般
  • ix. 鉱山開発
  • x. 石油・ガスパイプライン
  • xi. 放水路
  • xii. 林業
  • xiii. 潅漑
  • xiv. 廃棄物処理

(2)上記(1)以外のプロジェクトで、A種ほど著しい環境影響が予見されないもの

(3)A種に属するプロジェクトのエンジニアリング・サービス借款

3.C種

(1)環境影響が通常、予見されないプロジェクト

(2)通信、教育、人材開発等が含まれうる