家族から教えてもらったこと

2019年6月5日

2017年度1次隊 小学校教育 梅沢智代

「イスラム教って怖くないの!?」
これは、私が帰国後日本の友達に大家さん一家の話をした際に言われた言葉です。

私が暮らしていたのは、エチオピア北部のティグライ州コルムという小さな町でした。首都から飛行機で1時間半、更にミニバスで4時間かかる自然豊かな土地です。
エチオピア隊員は自分で家探しをします。一軒一軒門の戸を叩きながら、「部屋を貸してくれませんか?」と尋ね歩きました。この町に外国人が長期で住むのは初めてなようで、なかなか貸してくれる家が見つかりませんでした。
そんな中受け入れてくれたのが、イスラム教徒のバリヒ一家でした。私は宗教について深く考えることなく、やっと見つかった家に喜んで入居しました。

ところが、常時10人はいるイスラム大家族のお宅の一部屋を借りて住むということは、まさに異文化。簡単なことではありませんでした。ただでさえ国が違う中で、更にイスラム教徒。彼らは生活の全てが厳格な戒律に基づいています。
例えば町中で私が深く考えずに買ってきた肉。しかしイスラムの屠殺方法ではない肉はハラームといって、彼らは不浄のものと考えます。そのため、共用の冷蔵庫に入れることがとても躊躇われ、自宅で肉料理をほとんどしませんでした。
例えばお酒。私はビールが大好きなのですが、彼らはアルコールを禁じられています。そのため、敷地内にお酒をもちこむことができませんでした。
その上彼らは大家族。いつも喧嘩の叫び声や笑い声、ボールを壁に当てる音、スピーカーから流れる大音量のエチオピアンミュージック。3歳の子どもは私の部屋にいつでも入ってくる…そんなことが始めのうちはストレスになり、住む家を間違えたかな、と思うこともしばしば。

しかしずっと一緒に暮らしていると、彼らの人間性や優しさに救われることが増えてきました。私を一人の家族として見てくれて、特にお母さんはいつでも気にかけてくれました。活動から帰ると「トモヨ、コーヒー飲みましょう。」と言って飲む、お母さんの煎りたてコーヒーは、エチオピアの中で一番おいしいコーヒーでした。
娘セミラの結婚式では、民族衣装に身を包み、髪の毛も編み込み、準備やお客さんのもてなしを手伝いました。彼らと食べて飲んで踊って、そして笑って。娘の晴れの日を精一杯祝う家族の思いを、間近で見ることができました。
20歳の娘ジェミラが、薄暮の中息子を抱き夕涼みをしている姿。息子は月に手を伸ばし「お月様取りたい!」とつぶやき、それに微笑むジェミラ。なんて美しくて幸せなひと時なのだろう、と感じました。
英語が話せる息子ナスル。彼とはイスラム教の考え方や文化、日本の文化、将来の夢、とにかくたくさん話をしました。高校生になっても「お母さんが大好きだ。」と胸を張って語る彼を、とても頼もしく思いました。
家事を全て行っている14歳の少女ファイザ。火起こしから料理、洗濯、全て彼女の仕事。日本で言う「お手伝い」ではなく、家族の一人としての立派な仕事。時には学校や勉強よりも家族の仕事を優先する姿を見て、正直可哀そうだと思うこともありました。けれど彼女にとって、この国の人々にとってそれは当たり前なことです。賢い彼女が、大きくなった時にどうか幸せな大人になってほしいと願うばかりです。

私のエチオピア生活は、この家族と過ごせたことで本当に幸せでした。始めはストレスになっていた喧嘩の声や笑い声、近すぎる距離感のおかげで私は日本に帰りたいとは思いませんでした。だって常に鬱陶しいほどに誰かが近くにいて、私を一人にしてくれなかったから。私たちはあなたの家族だと言ってくれたから。あふれるほどの愛を、たくさん注いでくれたから。
イスラム教は、怖くありません。温かい心をもった、優しい人たちです。
日本の友人たちに、そう伝えていきたいです。

【画像】

【画像】