コロナ禍での不法移民

2021年9月6日

グアテマラ事務所長
山口 尚孝

(1)死と隣り合わせの不法越境

2021年1月22日、米国テキサス州に隣接するメキシコ・タマウリパ州国境付近で、グアテマラ人約20人が焼死体で発見された。麻薬犯罪組織による犯行とみられている。犠牲者はコロナ禍で雇用・収入が断たれ、米国への不法出稼を決意した若者達だった。
中米から米国への不法侵入にはコヨーテ(北米に生息する狼より小さいイヌ科動物。移住者を連れて荒野を歩く様が似ているからつけられたと言われる。)と呼ばれる移住ブローカーに7千~1万米ドルを前金または借金で支払うことが成功の鍵といわれる。グアテマラからの合法的な米国入国には空路でも千ドルもかからない。大半の経費が麻薬取引を生業とする犯罪組織に支払われている模様。今回の虐殺では犯罪組織とコヨーテとの間に何等かのトラブルがあったと推測される。

(2)止まない不法移住

コロナ禍2020年にはホンジュラスからデモ行進しながら米国不法入国を目指す延べ約8千人の移民キャラバンが2回組織され、グアテマラに不法入国したが、グアテマラ当局の説得により、大半がホンジュラスに帰国した。
危険を伴いながらなぜ北米を目指すのか。グアテマラでの最低賃金は時給約1.5ドル。8時間労働で一日12ドル。26日勤務で月収312ドル。雇用機会は多くない。米国では時給平均15ドル。グアテマラの10倍の賃金であり、仕事は必ず見つかる。仕事を掛け持ちすれば非熟練労働者でも月収5000ドルも可能となる。グアテマラの家族に月額200ドル程度の送金を続けても2年程度でコヨーテや銀行・信用組合への移住経費借入金を完済できる。不法移民排出地域の信用組合は不法移住と知りながら、移住資金を無担保融資することもある。「米国入国を果たした者は確実に返済してくれる」(信用組合職員)の言葉の通り返済率が良好だからだ。経済学的期待値は高いため、強制送還や命を落とすリスクがありながらも不法移民は発生し続けるだろう。

(3)不法移民問題に関する他ドナーの方向性

米国トランプ政権では、中米各国の不法移民対策が不足しているとして、援助を凍結していた。バイデン新政権下、米国国際協力庁(USAID)は総合的不法移住対策が重要と分析している。雇用促進につながる職業訓練や農業バリューチェーン協力拡充により、不法移住抑制を図ろうとしている。国際移住機関(IOM)も我が国(国際機関連携無償資金協力)や米国、国連の資金協力も得ながら同様の取り組みを拡充する。

(4)移民送金のインパクト

コロナ禍2020年一年間の移民送金は113億4042万ケツァル(約14億4千米ドル)と記録を更新した。グアテマラGDPの13%を占めるに至る。2021年の送金額は記録更新の傾向が見られる。
米国経済も出稼移民により恩恵を受けている。短期農業出稼枠組が米国、カナダ、グアテマラ間に存在するが、対象者は限られている。我が国が関与することは難しいが、このような短期出稼制度整備・拡充は重要と思われる。

(5)国際協力の可能性

グアテマラ政府や他ドナーの取り組み、JICAの調査から以下のことが重要と考えられる。

強制送還され、グアテマラに持ってきた人々への支援。
不法移民発生を抑制させる取り組み。
移民送金を移住発生地域の活性化に活用させる取り組み。

既存のプロジェクトや移民関連新規プロジェクト、職業訓練分野海外協力隊派遣等、横断的取組を通じて協力を進める。中米全体の視点も重要と考えている。
上記に加え、移民送金活用に資する金融包摂協力も重要と考えている。金融商品開発、金融教育、生活改善、条件付現金給付等により送金が地域開発に有効活用される仕組みづくりを考えたい。