事務所長発 グアテマラからのお便り Vol.1

2022年9月12日

日本では、秋の入り口にあたる時期ですが、JICA事務所の在る、グアテマラ市は、今日も春のような気候です。さて、この第二四半期にも、様々な出来事が起こりました。グアテマラからの便りとして、皆さまにお届け致します。

1.日本とグアテマラをつなぐ地方行政(横瀬町~海士町~グアテマラの市町村)

1.危機をチャンスに変える町役場

グアテマラの市町村を対象にした国別研修「行政能力強化」受入先候補として、埼玉県横瀬町と島根県海士町を表敬訪問・視察しました。

横瀬町は武甲山の石灰石採掘やイチゴなど果樹栽培で有名ですが、経済機能は隣接する秩父市に依存している状況です。1995年の1万人をピークに人口減少に転じ、自然減・社会減合わせて毎年100人減る傾向にあり、現在は約7800人となっています。

危機に直面した横瀬町役場は富田能成町長の下、外部とつながる取り組みを開始。誰もが幸せになる「カラフルタウン」を理念に掲げ、社会実験のために誰でも企画・提案できる「よこらぼ」により、全国の注目を集めるとともに斬新な取組が生まれています。地元産品を活かしかつ人が集う場所としての「チャレンジキッチンENgaWA」や、廃校をイベントスペースとして貸し出す「あしがくぼ笑楽校」等の施策が功を奏しています。

海士町は日本海隠岐諸島に位置しており、90年代前半、公共工事のみの経済モデルでは立ちいかないとの危機感があったとのことから、若手役場職員達が職場改革を始めました。この土壌の上に、Uターン者である山内道雄町長の下で様々な改革や挑戦が行われ、その取り組みは、当時改革派若手職員だった、現大江和彦町長に引き継がれています。

廃校の危機に瀕していた島前地域(隠岐諸島南部)唯一の県立隠岐島前高等学校は島前以外からの学生の寮費無償化、公立学習塾隠岐國学習センター設立などの施策を取り入れた結果、全国から島留学生が集まるようになりました。社会人向けでは、移住者には雇用や住居、生活環境を支援しています。これら魅力化計画により島移住、島留学が実現し、2300人の住民のうち約300人が短期・長期移住者となっており、人口減少傾向に歯止めがかかっています。

2.変革のメカニズム

横瀬町、海士町に共通しているのは、過疎化・人口減少の危機に直面し、町全体を企業体としてとらえ、経営感覚を持って改革を主導していることが挙げられます。役場職員間に危機感があり、下からの改革が醸成されつつある時に、ビジョンを持つ首長が選ばれると、取組が爆発的に推進されるのです。

横瀬は日本茶葉の紅茶、漬物等が特産品です。海士には隠岐牛や岩ガキ、サザエ、塩等があります。住民にしてみれば当たり前で、特段の価値を見出していなかったとのことでした。特産品ブランド化はJICAの一村一品と同一課題ですが、地元に眠る宝の原石を発見し、磨き、外に売る長期に渡る作業を主導したのは役場です。つまり、変革の中心は常に役場にあると言うことができるでしょう。

経済・人でも外部とつながることを意識的に行っています。両町とも地域おこし協力隊を中心に外部人材を積極的に受け入れています。例えば、横瀬のよこらぼはそれ自体が外部団体や個人とつながることを柱としている取組です。

横瀬町の一般会計予算は約56億円、海士町は52億円。地方税等直接収入はそれぞれ12億円と2億円。「補助金に頼り切っている」と批判する者もいますが、時には給与支出までも抑え(海士町は2005年に大幅な給与削減を時限的に行い、財政危機を乗り越え、住民の信頼をも得るに至った)、補助金や地方債等、利用可能な資金を獲得・活用しています。外部資金獲得の困難さを知る者ならば役場の並々ならぬ努力が伺えます。外部資源を積極的に活用した自律的取組と評価されるべきであろうと考えてます。

両町の一連の取組は標語「日本一チャレンジする町」(横瀬)、「ないものはない」(海士)に現れていますが、地元を愛し、職場内を意識改革し、時には馬鹿になりながらアイデアを出し、行動し続け、変革を起こし続ける「スーパー公務員」の存在も以上に大きいと言えます。横瀬町田端将伸主幹、海士町吉元操副町長、濱中香理課長の活躍が全国的に知られています。職員の取組を理解し、構想を持って行政を推進する首長の存在も重要です。

3.国際協力と我が国地方行政との連携可能性

JICA国別研修では専修大学狐崎知己教授、駒澤大学笛田千容専任講師、横瀬町田端将伸主幹、JICA職員等からならる有識者委員がグアテマラを8月に訪れました。現場視察、グアテマラ市町村との交流を通じて、意識醸成型研修として本邦受入カリキュラムを編成することが決定しています。様々な指標・観点から10の市町村が研修対象に選定されており、主に、問題意識を持ち、行政職と連携している首長と計画課長、女性・青少年課課長です。本邦研修で日本の行政を紹介することで、研修員に化学反応が起こることを期待しています。研修後はアクションプランの実現に向けて、JICAが長期的に関与、フォローする重要性も確認されました。

4.JICAが日本国内に関わる意味

「負け組として日本の最後尾にいたと思ったら、今や持続可能社会への最先端として日本をけん引するタグボートになっている。」との海士町の説明の通り、日本にも開発のフロンティアがあることに気づかされました。その軌跡と成果は人を感動させ、訪問者は町のファンにさせる魅力があります。日本の魅力ある取組を似た境遇にある途上国の市町村に紹介し、国を超え、役場職員同士の経験や悩みを共有することは、研修員の帰国後に何かをもたらすであろうことを期待しています。日本の地方行政と途上国を繋ぐためにJICAの存在意義があります。

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横瀬エンガワ

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海士町入江

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横瀬町あしがくぼ笑楽校

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海士町隠岐神社

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横瀬町棚田

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海士町橋