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「SDGsをツールとして活用した授業」とは?(八王子市立上壱分方小学校)

2019年3月19日

「それ、やってみよう」と賛同してくれる同僚や「やってごらん」と任せてくれる管理職のおかげで色々挑戦できている、という栢之間先生。クラス、学年の取り組みだけでなく、先月は校内向けにSDGs研修を実施。

6年2組の教室の後ろにはクラス目標と、SDGsの17のゴールが並ぶ。

「じゃあ今日は、震災の影響をSDGs(※)を通して考えてみよう。」

ここは八王子市立上壱分方小学校、6年2組の教室。
6年生の学びに、SDGs(持続可能な開発目標)を取り入れることを提案した栢之間(かやのま)先生はその理由をこう語る。

「次期学習指導要領でも重視されている『持続可能な社会』とは、具体的にどのような社会なのか。いろいろな考え方があると思いますが、17ゴールが明示されたSDGsは、校内の共通言語になりえます。

授業でSDGsを取り入れよう、という提案は、『SDGsが何かを学ぼう』という意味ではなく、『SDGsをツールにして学ぼう』という意味です。
SDGsは、(1)児童の視点を定めるため、(2)児童の視野を広げるために有効だと思います。

(1)児童の視点を定める、とは
たとえば社会で『参政権のあゆみ』を学んだ時、児童から真っ先に、SDGs5番のジェンダーにかかわる問題だ、という指摘があがりました。そこで、5番に視点を定め、今の世界には女性に選挙権がない国や地域はないのかを調べました。さらにサウジアラビアの参政権の変遷に興味が移ると、宗教性とジェンダー平等はどちらが優先されるべきかという、教科書だけでは決してたどり着かない議論にまで発展しました。児童の視点を定めて、歴史と現在を結ぶことで、持続可能な社会のあり方に考えが深まったのではないかと思います。

(2)児童の視野を広げる、とは
たとえば『第二次世界大戦』についての授業で、ただ『繰り返してはならないことだ』というのではなく、戦争の影響を17ゴールに照らして考え、戦争は「持続可能性」をどの様に阻むのかを考えました。SDGsは4月から用いてきているので、僕が説明をしなくても、児童から戦争が生む貧困や、教育の停滞、逆に戦争による科学技術の発展など様々な角度からの意見があがりました。」

※SDGs:Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標として17の課題が提示されている

【SDGs授業見学】震災とジェンダーは関係ない?

「震災なら7(エネルギー)との関係が絶対ある!」というある班。7を中央にすえて、他のゴールをグループにまとめ、その中から一つ抜いたり足したり。「決められた正解」がないから、答えは自分たちで考える。

話し合う児童、ペンを走らせる児童、辞書や地図帳、教科書を調べこむ児童…答え探しに役割分担。

さて、SDGsをツールとして取り入れた授業実践。
6年2組は6班に分かれ「震災とSDGs」の話し合いを始めた。
話し合いも、SDGsも慣れっこといわんばかりに、各班の議論は進む。

「じゃあ関係ないゴールを、除いていこ!」
「5(ジェンダー平等)は関係ないね」
「避難先が満杯で、確保したつもりの場所を他の人に取られたりしたらしいよ」
「あと原発の近くに住んでて避難してきた子がいじめにあうとかもあったじゃん」
「それってジェンダーではないじゃん」
「そうか、5じゃなくて10(不平等)かあ」

むむ。ツッコミを入れたいけれど、今日は見学者、ぐっと我慢。
隣の班はこんな話をしている。

「どうして震災だと飢餓になるわけ?」
「津波で食べ物とか持ってかれちゃうじゃん」
「え、でもボランティア来てるよ、ほらカレー(教科書の写真を見ながら)」
「ほんとだ。カレーってことは水がなきゃ作れないから、6(安全な水)だね」

なんと、“食”を通して、2「飢餓」と6「安全な水」が結びついた。
お向かいの班には、熱弁をふるう児童がいた。

「地震や津波で発電所がダメになる。だから、それを直すためには…」
そこに、栢之間先生がスッとあらわれた。
「ふうん、震災の被害地域のどのへんに発電所があるんだっけ?」
あ、言われてみればどこだ? と地図帳をめくり発電所を探し始める児童。
他の班でも、辞書や教科書から仮説を裏付ける情報を得ようとする姿がちらほら。

30分ほどの議論の後、ワールドカフェ形式で各班発表と他班見学。
どの班も12~15のゴールを結び付けられたようだ。

先ほどの、震災とジェンダーは関係ない、と言っていた班が気になりのぞいてみる。
おや? 5(ジェンダー平等)も貼ってあるではないか。
「事態が大きくて皆、緊急状態。だから『お前は男だからこれを』『女だからそれを』っていう発言も生まれてしまう。普段はそんなこと言わないのに。それに避難所はいっぱいで余裕もないし、ジェンダー平等に関係するプライバシーだって守れない。だから5(ジェンダー平等)も関係があります」
そんな説明がされていた。
この1年間、SDGs17ゴールがあることで、一つの事象を多角的にとらえてきた児童達の、自由な発想力に驚かされた。

本時は各班発表&見学をもって終了したが、次の授業では、今日の気付きと仮説をもとに「震災×○○」という形式で、自分なりの調査テーマをもって調べ学習に取り組むそうだ。次の授業でしっかりとデータ・根拠を調べ、自分たちの仮説・推測を確かめていくので、今日の児童のディスカッションに「正確さ」は求めず、論理の飛躍も許容。自分の考えが正しいかどうかは「先生により教えられる」のではなく、「自身で調べて確かめる」ことが大事、と栢之間先生は言う。この形の学びを繰り返すことで、仮説の立て方や論の広げ方も上手になっていく。

【後日談】
次の授業の後に、「震災×○○」の調べ学習がどんな様子だったか栢之間先生に尋ねてみた。震災×いじめ、震災×教育の遅れ、震災×避難所のプライバシー、震災×海の生き物、と、それぞれの視点から調べたことを、互いにプレゼンし合い、学びを深めたそう。

「SDGSを学ぶ、ではなく、SDGsをツールに学ぶ」とはこういうことか、と膝を打った。

【インタビュー】これ、主体的・対話的で深い学びですよね?

八王子市立上壱分方小学校・6年2組担任・栢之間倫太郎先生。JICA教師海外研修に参加し、ザンビアで出会った現地の先生が『Children can save our future.子供が未来を、世界を創るんだ!』と語っていたことが、教育観を揺るがす経験だったとのこと。

45分間、児童が主役の授業だったが、次の授業も栢之間先生が「正解」をもつわけではない。児童が同級生と議論を重ねながら、自分たちで答えを導き出そうとしていく……これはまさに、主体的・対話的で深い学びではないだろうか。栢之間先生にお話を聞いてみた。

「いやいや。ちょっと前まで僕は『綺麗な授業屋』で、授業中、もっとも主体的に取り組んでいたのは僕でした」

栢之間先生はかつての自分をそう振り返る。

「児童が何をすべきか戸惑わないように、誰一人間違わないように、机の向きの指示から板書のタイミングまで細かく分かりやすく指示をしていたんです。
あの時一番能動的に授業に向かっていたのは、児童ではなく僕です。

一昨年、JICAの教師海外研修でアフリカ・ザンビアに行きました。そこで出会ったバンダ先生が目を輝かせ話してくれたんです『Children can save our future. 子供が未来を、世界を創るんだ!』って。
衝撃でした。そして、疑問が浮かんできました。自分の授業をうけた子供たちは果たしてそうかなって。僕の細かい指示のもと、そのとおりにすれば間違えることはないので、児童はやりやすかったかもしれません。でもそれは同時に、児童たちから僕の指示以上のもの、教科書以上のものが生まれない授業でした。価値ある失敗すらする余地がない授業だったんです。僕も未来を創る子供を育てたい、子供がもっと予想以上のものを生み出せる授業をしたい、そんな想いでいっぱいになりました。

だから、『子供が探求する授業』、『子供が何かを生み出す授業』を目指して授業を変えていったんです。そのためにSDGsをツールとして活用することも増えました。児童が主役なので、僕はただのアドバイザー。カメラ片手に児童の観察と評価にじっくり時間をかけているので、児童には「今日の先生はただのちょっと物知りなカメラマンです」なんて言っています。
それに昔はグループワークも、座席の組み方とかを細かく指定していたのですが、今は「好きな形でやっていいよ」って言うようになりました。立って話し合ったってかまわない。周りの班の形の方がいいと思えば、途中で真似して形をかえるのだってもちろんOK。目的に合わせて話し合いの形もデザインするように伝えています」

教師は学びの提供者ではなく、児童の学びの力を引き出す存在なのだ、と栢之間先生の授業づくりの考えを聞き、またその実践をみて感じた。

最後に、栢之間先生の教育観に大きな影響を与えたという教師海外研修についてたずねてみた。

「行けるチャンスのある人は、応募を心からおすすめします。
先ほど伝えたバンダ先生との出会いも大きなものでしたが、その他にも首都と地方の格差、貧しさの連鎖、複雑に問題が絡み合う社会課題、生き生きとした人々、国を超えた教育哲学…様々な出会いがあり、心揺さぶられました。
ただ面白い、というのではなく、使命感にかられる研修だな、と。帰りの飛行機は眠れず、『どんな授業をしよう』とずっと考えていました」

『教師海外研修』はあくまできっかけ。未来を創る子供のために、これからも栢之間先生の挑戦は続く。

※教師海外研修は、語学力を問わずご参加いただけます。(語学研修ではなく、国際協力現場・異文化を訪問する研修です)
今年も各地のJICA国内拠点にて4月より募集開始しますので、以下のリンクをご参考ください。

報告:JICA広報室地球ひろば推進課 八星真里子

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