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知識と体験を結びつけ、学びを深める ~6年生担任・大森先生の挑戦~

2019年6月3日

「結果としてこれだけのものが集まったことは素晴らしいことですが、学びの中で最も重要なのは集まった数ではなく、学習と体験を通して児童一人ひとりにとってどのような自己変容へとつながったのかということです」

6年生たった26人が集めた4700枚以上もの衣類を前にそう話す備前片上小学校・大森洋介先生。
総合的な学習の時間の1年間(52時間)をかけた取り組みはJICA広報誌mundi6月号でも紹介している(※以下リンク参照)。
しかし、自己変容を生み出していく学びとはいったいどのようなものなのか。mundiの2ページにはおさまらない、詳しいお話をうかがった。

他人事だった問題を、自分事に受け止めていく力

壁新聞と集めた服

難民について詳しく調べたことが掲示されている

集まった服の経過報告

いろいろな角度から難民について考えたことが掲示されている

「世界の子どもたちが直面している課題は多岐に及ぶけれど、こちらからアプローチしなければ日本にいる子どもたちには目の前を通り過ぎていく話題に過ぎません。一見、自分たちとは関係ないように思える難民問題を一緒に考え行動していくことで、“他人事”と捉えていた問題を“自分事”として受け止め考えていく力を養えるのではないかと思いました。そのような主体的な学びにつながる学習をしたいと思ったんです」

大森先生によると、段階にあわせてどのような学習をしていくか、しっかりと全体計画を練り、子どもたちの学びにつながるのに適切な手法を選び、体験を効果的に取り入れることがポイント。

そして特筆したいのは「探究のプロセス」。
子ども自身により「課題設定→調査→整理分析→まとめ発表」を行うこのプロセスは、52時間を2つのフェーズに分け、2度繰り返された。これにより、子どもたちが“学び方”を学び、主体的に考え行動していくための素地が培われていったそうだ。

第1フェーズはこんな風に進んだ。
【課題設定】
“難民”については触れず、それぞれが課題を設定。ここは特に丁寧に取り組むことが重要で、大森先生はまず「世界一大きな授業(以下リンク参照)」をもとに、世界の富の構成や様々な課題を体験的に学習したり、自作の資料を用いて世界で暮らす子どもたちをとりまく問題に向き合ったり、イメージマップなどを用いて、子どもたちは自分の考えを視覚化することに取り組んだ。「思考を可視化」することは子どもたちが自分の考えを整理することに効果的で、自分が調べてみたいこと(課題)を一人ひとりが設定することに非常に役立ったそうだ。

【調査・整理分析】
自分たちで調べたことをもとにグループを作り、さらに調査を重ね、ボーン図やピラミッドチャートなどを活用して思考を整理したあと、グループごとに模造紙一枚にまとめた。この整理・分析の過程は、自分の思考とグループのほかのメンバーの思考とを可視化することで、お互いの考え方の違いや共通認識を深めることにつながったそうだ。

【まとめ発表】
まとめたものをもとに中間発表会を行った頃には、子どもたちの中に「自分たちに何かできることはないだろうか?」との思いが芽生えた。
その後、ユニクロの店長を招いてユニクロとGUが行っている「届けよう!服のチカラプロジェクト!」について学ぶと、これを取り組んでみよう、と子どもたち自身が話し合って決めた。


この第1フェーズで学び方を丁寧に学んだことが第2フェーズで開花。
自分たちで決めた課題「難民の生活を助けるための子ども服を収集」に向けて、まずは難民についてもっと知るために、難民の定義や暮らし、難民をとりまく世界の状況について学習し、自分たちで調べたことを壁新聞などにまとめた。また、難民体験のシュミレーションを通じて「もし自分が難民だったら」と自分に置き換えて考える機会も得た。
こうして学んだ難民のための子ども服収集の取り組みを進める中で、大森先生は子どもたちにあえて「困る」体験をさせたそうだ。大人が手を貸しすぎることなく、自分たちで困りごとを乗り越える体験をするなかで、生活に根差した学びが生まれ、主体的に考え行動していくことで「自己変容」へとつながっていったそうだ。
このころの子どもたちに筆者も会いにいったのだが、自信と好奇心にあふれ、一人ひとりの目が輝いていた。疑問に思うこと、感じたこと、知っていることなどを素直に言葉にし、熱を帯びた目で自分たちの取り組みを話してくれた。自分たちの手でこんなことをやっているよと話してくれる子どもたちは、なんとも誇らしげだった。自己変容につながる学びは、一人ひとりの自信を育て、そのプロセスが社会変容へと向かっていくのだということを実感した出来事だった。

大森先生はこのほかにも、紙の原料となるケナフという植物を子どもたちと一緒に育て、紙すきをして紙を作り、それを卒業証書にしたり、保護者への感謝状を書いて贈ることにも取り組んでいる。思いの詰まった手作りの紙は、何物にも代えがたい価値があるのだろうと思う。子どもたちの心に種をまき、それぞれのタイミングで芽吹き成長していく姿を温かく見守る大森先生の優しいまなざしは、これからも多くの子どもたちを励まし続けていくことだろう。

報告:JICA岡山デスク・守都 未来

※大森先生が参加したJICA開発教育指導者研修は只今全国から参加者を募集しています。詳細・応募は以下リンクをご確認ください。

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