お知らせ・トピックス

ヤンゴン日本人学校のチャレンジ (1) 途上国に暮らすからこその経験を学びの機会に

2019年7月2日

左上から岡本先生、JICA中島所員、植木所員と、4年1組の子どもたち

“アジアのラストフロンティア”と呼ばれるミャンマー。
その最大の都市であるヤンゴンの日本人学校が、新たなチャレンジに取り組んでいる。

「生徒たちには、ヤンゴンにいるからこそ得られる主体的な学びの機会を提供したいと考えています」

そう話すのは、小学4年生担任の岡本竜也先生。

1964年に設立されたこの日本人学校は、バンコク日本人学校に次ぐ世界で2番目の歴史を持つ伝統校。2012年のミャンマー民政移管以降、日系企業の進出も進み、ここに通う生徒の数もここ数年で急増している。
開発途上国に位置付けられながらも、都心部の発展が目覚ましいここミャンマーにいるからこそ学べることを……。そう考え、日本で直面しがたい問題に目を向け、友だちと協力しながら主体的に問題解決のアイデアを練り、外部に発信する授業に取り組んだ。

まず、社会科の単元「火事からくらしを守る」。
生徒たちは、日本の消防署の働きや人々の取り組みについて学んだ後、ヤンゴン市内の消防署を訪問し、消防署の仕事や火災が起きた時に困ったこと等について質問。署長さんから「渋滞がひどい時に、消防車が進めないことがある」「道路が狭くて、消防車が現場に入れないことがあった」といった生の声を聞き、自分達が暮らすヤンゴンが抱える問題に目を向けるきっかけを得た。

日常風景から生徒が見つけ出す課題、そして宝

「自分たちの家や学校の周りで危険なところは、あるだろうか?」
という岡本先生の投げかけに、生徒は記者として、発見した課題を撮影し、クラス内に報告。

【生徒が撮影したヤンゴン】
歩道に穴があって危ない、車が譲り合わず渋滞している、電線に木が引っ掛かっている、ゴミが川にたくさん捨てられている……

驚くほど多くの課題に生徒たちは気付いた。
「この町の課題として、インフラ整備不良や環境問題があって……」と大人から教えられるのではなく、日常風景から自身がみつけた課題は、ぐっと自分ごとに近づいた。

町への課題や不満を発見しておしまい、ではない。
総合的な学習の授業では「ヤンゴンのたから」と名付け、自分たちの住むヤンゴンが、もっと安全で良い街になるには何が必要か、未来を変えるプランを考えてみることにした。

【生徒の未来を変えるプラン例】
道が混んでいるなら空飛ぶ車や消防車を作れないか
地下道を作り、ゴールド免許の人だけが通れるようにする
ゴミを捨てている人を注意するロボットをつくる
夜でも発電できるダークパネルを発明する
屋台街ストリートを作って渋滞を減らす
ドライバーに譲り合う大切さを知ってもらうことで混雑を緩和
電柱周りの木や枝を切ることで電線を守る
ゴミから服やおもちゃを作って再利用する

未来のヤンゴンを良くする夢のアイディアが続々と挙げられた。
中にはすぐに実現できそうな案も。

こうして生徒自身が見つけた問題を「道路、渋滞、電気、ごみ」の4テーマに分け、チームごとに問題解決プロジェクトを着想。互いにアイディア出し、情報共有・整理を行い、問題や解決策をまとめ、さらに自分たちの考えを補強したり、深めるために、他の先生にもインタビュー。得た情報や意見は、国語の授業で新聞としてまとめあげた。

日本人学校×JICA

渋滞プロジェクトチーム「一番実現したいことはドライバーの人たちがゆずりあうことができるようになることです」

道路プロジェクトチームによる発表「歩道には穴が開いていたり、電線が落ちていたりしてとても危ないと思いました」

中島所員によるSDGsとJICAについての授業
「お金持ちの国や人だけがどんどん豊かになる世界で良いのでしょうか。日本にも様々な問題はありますが、世界に目を向けて世界の人々と一緒に問題解決に取り組むことが持続可能でより良い世界の実現には大切です」

植木所員によるヤンゴン都市開発事業についての授業
「JICAでは皆さんが気づいた様々な課題を解決できるようにヤンゴン市をはじめ、ミャンマーの皆さんと一緒にプロジェクトを進めています。それぞれの課題は別の課題とも関係することがありますので、関係者が力を合わせて取り組むことが必要です」

学びを深めるためには、ヤンゴンで課題解決に取り組む人々の視点を生徒に伝えたい——そう考えた岡本先生は、国際協力に取り組むJICAミャンマー事務所に協力依頼を打診。
JICAミャンマー事務所にとって初めての取り組みだったが、所員2名が協力し、2時間の授業を行った。

授業でのJICAの役割は2つ。
1つは、生徒たちによる “自分の住む街で見つけた問題とその解決”の発表を聞いて、JICAの目線でフィードバックをすること。
生徒たちはチームごとに気付いた問題とその解決策を発表。解決策を30年後の未来とすぐに取り組めるものに整理し、先述の新聞も使って説明してくれた。中にはJICAが実際に行っているプロジェクトと共通した構想もあった。

緊張しながらも懸命に説明してくれる生徒たちに所員もひとつずつ丁寧にコメントし、生徒たちの活動の良いところ、もっと良くするにはどうしたら良いかを一緒に考えた。

もう1つは、ヤンゴン、ミャンマーで生じている問題が他の開発途上国にも当てはまることに目を向け、大きな視点からSDGsで掲げるゴールの達成とのつながりに気づいてもらうこと。

SDGsという生徒たちには耳慣れない新しい言葉を理解してもらうため
(1)世界の国々は生み出すお金の量(GDP)によって先進国・開発途上国・後発開発途上国に分類されていること
(2)ミャンマーの抱える問題は多くの開発途上国にも共通していること
(3)問題の解決は当事国のみで行うのでなく、国連を中心に他国・地域の協力を話し合い、取り組んでいること
を伝えた。

SDGsの核である「持続可能(サステイナブル)」という言葉も生徒たちにとっては初耳。冒頭、生徒たちが面白く観て考えられるSDGs×吉本興業の動画を紹介し、世界ではプラスチックごみが海の生態系に悪影響を及ぼしていることを身近に感じてもらえるよう、紹介した。
さらに授業後も理解が深められるように、教材「共につくる私たちの未来」を印刷し、配布した。

最後に、生徒たちの考えた取り組みがJICAの事業と共通点があることを知ってもらうため、ヤンゴン都市開発事業とそのパイロットプロジェクトを通じ、生徒たちが考えたアイデアのいくつかが実際に形となっていることを実際のレポートや渋滞解消パイロットプログラムの動画を通じて伝えた。

生徒からのお手紙

生徒たちからのお礼の手紙

JICA教材「共につくる私たちの未来」を、ヤンゴンにて印刷して配布(PDFデータはページ下部参照)

授業から3日後、生徒たち一人ひとりからお礼の手紙が届いた。

今、私たちが取り組んでいるプロジェクトがSDGsの11番目のゴール「住み続けられる街づくり」と一緒だと教えてもらい、私たちは世界の目標に取り組んでいてすごいことだと気づきました。世界の問題を支援することはすごいことだなと思い私もお二人と同じような仕事についてみたいです。

SDGsやJICAの話を聞いて、自分の国のことではなくても、もっといい世界にしようという心で他の国にお金をはらって、もっといい国にしようとする考えがものすごくいい考えだと思いました。

お話を聞いて、私はごみプロジェクトに入っているからミャンマーのゴミ問題の解決方法をもっと考えなくてはいけないと思いました。

生徒たちにとって、SDGsは初めて聞く言葉。それでも、自分たちが暮らすヤンゴンや授業で取り組んでいることと繋げて考えることで、理解は深まっていた。

次のステージは7月。
JICA所員からのフィードバックや、実際の事業説明にヒントをえた生徒たちは、JICAミャンマー事務所の協力のもと、なんとヤンゴン市役所で自分たちのプランを発表するのだ。

ひとつでも実現に結びつくように、生徒たちはプランをさらに練りこんでいる。ヤンゴン日本人学校の生徒たちのチャレンジは続く。

報告:JICAミャンマー・中島 洸潤

ニュース