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JICA主催公開セミナー「未来を拓く道しるべ・SDGs ~多文化共生、SDGs視点を取り入れた授業実践からの学び~」にて、「明日から実践!授業事例の紹介」 (報告)

2020年3月6日

2月2日(日)、JICA地球ひろば主催公開セミナー「未来を拓く道しるべ・SDGs~多文化共生、SDGs視点を取り入れた授業実践からの学び〜」(後援:日本国際理解教育学会)。前半のNHK国際放送局シニア・ディレクター 道傳愛子氏による基調講演に続いて、後半は「明日から実践!授業事例の紹介」のセッションとなりました。

ミニレクチャー「なぜ、いまSDGsなのか?多文化共生なのか?」

同志社女子大学特任教授 藤原先生のSDGsミニレクチャー

中央大学教授 森茂先生の多文化共生ミニレクチャー

最初に、日本国際理解教育学会前会長で同志社女子大学特任教授の藤原孝章先生から、SDGsの17の目標を授業に落とし込むための視点でお話しいただきました。17の目標は全体的に見ていくことが大事。また、「持続可能な社会の創り手を育てる」という目標が掲げられた新学習指導要領は、社会に開かれた教育課程として「つながり」を意識したものになっている。だからこそ、学校の授業の様々なトピックやテーマをSDGsの分野と関連させていくだけでなく、顔が見える関係として人とつないでいく、世界とつないでいき、SDGs「について」学ぶ、SDGs「のために」 学ぶ、SDGs「を通して」学ぶことが重要であると強調されました。

次に、同学会の会長で中央大学教授の森茂岳雄先生が多文化共生を意識した「授業づくりの課題と視点」についてお話しくださいました。多文化共生やこれからの社会を考えていく上で大きなキーワードとなるのが「多様性」。学校の授業では多文化共生のテーマとして、国籍やジェンダーの問題に集中しがちであるが、「多様性」がさらに「多様化」していることも意識していくことが大事であると言及されました。また、多文化共生をテーマにした授業づくりのポイントとして、マジョリティの意識(価値)の改革や、個人の価値観や考え方の違いといった、内面的な理解と共生を目指すことをあげられました。

限られた時間でのレクチャーでしたが、参加者からは理論的視点や概念を知り頭の整理ができたという声がありました。

明日から実践!授業事例の紹介

ミニレクチャーに続き、本年度JICA地球ひろば主催(後援:日本国際理解教育学会)教員向け研修「開発教育指導者研修」に参加された先生方より3名が事例発表として自らの授業事例を紹介してくださいました。
本研修では、「SDGs/国際協力」、「多文化共生」の2つのテーマに関して理解を深めると共に、教育の現場で子ども達に何を伝えるのか、活用できる素材や視点をグループ討議し、国際理解教育学会のアドバイザーの方々からの助言・指導を得つつ、学習指導案を作りました。他の教員の皆さまも早速授業に活かしていただけそうなヒントが満載です。関連資料含め、ぜひご覧ください。

「大切にしたい生きもののいのち」

石狩市立南線小学校 宮浦匡典先生

石狩市立南線小学校 宮浦匡典先生は、「大切にしたい生きもののいのち」というテーマで2年生の道徳での取り組みを、授業の様子を録画した動画とともにご紹介されました。社会見学で出会った「円山動物園にやってきたアジアゾウ」を題材にし、ミャンマーでゾウ使いをする子どもを登場させながら、共感的に理解していくというしかけを取り入れました。授業の後半では、アジアゾウの数が減っているという事実を知った子どもたちが、ゾウを「このまま円山動物園で育てていく」「生まれ育ったミャンマーに返す」のどちらがよいのか?という問いについて考えました。この学習では、児童がSDGsに関連する世界の問題を身近にとらえやすくなり、国際理解教育の入り口として、ミャンマーと日本のつながりについて知るきっかけとなりました。

SDGs へのアプローチ~国際協力を遠い話から自分事へ~

兵庫県立洲本実業高等学校 三宅孝徳先生

兵庫県立洲本実業高等学校 三宅孝徳先生は、地歴公民科の中で学校指定科目として制定している「時事教養」で、高校2年生に対して授業を実践。海外=英語=苦手=「自分とは関係ない遠い世界のこと」と、とらえてしまいがちなSDGsの課題。三宅先生は、生徒たちが①世界の諸問題を知る、②国際協力の形を知る、③各個人が自分自身の関わり方を通して考えるためにネパールの電力問題を題材にして授業を組み立てました。具体的には、重力を使って発電する「Gravity Light」を実例に、このライトがもたらす影響をSDGsのテーマに沿って考えるように問いをつないでいきました。生徒たちは「イノベーションによる国際協力について、自分にもできることがあるかもしれない」と考えるまでになったそうです。

多文化の尊重を「自分ごと化」〜探究的な方法を通して〜

宮城県涌谷高等学校 三浦学先生

宮城県涌谷高等学校 三浦学先生は、生徒たちが高校を卒業して飛び込んでいく実社会では「失敗」や「予定調和でない」ことに直面することも踏まえて「正解のない学び」を意識して、高校3年生の地理歴史の授業をデザインしました。先生が生徒に授業をするのではなく、生徒主体で「問い」を立て、それについて考え、仲間と考えるプロセスを授業に取り入れました。多文化共生について考える入り口として、「外国人が地域社会でよりよく生活するために」を題材にしてスタート。最終的には「自分たちが何をしたらいいのか」の課題解決に向けて、具体的な行動を考え抜くまでのプロセスを丁寧に扱い、生徒たちが社会・世界と関わることを自分ごと化していく授業を実践されました。

振り返りと全体講評

3人の先生からの授業紹介を受けて、会場からは3人の先生方に授業に取り組む中での課題や、周りを巻き込む時の工夫など突っ込んだ問いが生まれていました。
全体感想としては、基調講演で登壇いただいた道傳氏から、生徒の変容を生み出す取り組みを行う価値への共感と、世界で起きていることを身近に引き寄せて伝えることの大切さをお話いただきました。
全体講評としては、北海道教育大学名誉教授で、日本国際理解教育学会元会長である大津和子先生より、3人の先生方の取り組みについて、それぞれの授業例に見られた、テーマを絞るなどの工夫や授業を進める上での大切なポイントについてコメントをいただきました。

来場された参加者からは、「授業事例紹介では3つの異なる分野の授業の実践を伺え、どの実践からも生徒たちの内省をうながせた結果に感銘を受けた」、「実践を通してSDGsがいかに学んでいけるのかを具体的な事例を知ることができ、多くのことを学ばせていただきました」「3人の先生方の授業の中でそれぞれ参考になる点がたくさんありました。子どもたちから遠い存在である国際協力やSDGsについて、どのように子どもたちの生活に結びつけるか、良いアイディアをいただきました」など、自分の授業につながるヒントを得たコメントが多数寄せられました。

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