国際協力中学生・高校生エッセイコンテスト 2009年度優秀作品

高校の部 最優秀賞 独立行政法人国際協力機構理事長賞

「心で」

聖心女子学院高等科 三年
高橋 実紗子

「お姉ちゃん、はやく一緒に遊ぼうよ!」皿洗いをしていたら、後ろからがっしりとしがみ付かれた。ほらほら皆お姉ちゃんのこと好きなんだから後は任せてはやく行っておいで、と言われて何だかこそばゆい気持ちになりながら最後の皿の泡を流す。腰やら足やらやけに重いと思って振り返ると、笑顔を顔中に輝かせた子供たちが三人もぶら下がっていた。手を拭いていると、その終わりの合図を待っていましたとばかりに“おんぶ!”の声。おいで、と言った瞬間、温かい生命の鼓動が背中じゅうに広がった。

昨年からボランティアとしてお手伝いさせて頂いているこのキャンプ。少し見ないうちに随分皆大きくなったな、なんて思うと心がふんわりとした。子供たち、と言ってもほんの赤ちゃんから同世代の人までいるのだが、実は皆フィリピンの母親を持っている。キャンプ場では日本語と英語とタガログ語が飛び交う。初めてここでお手伝いさせて頂く前、本当は行ってどうすれば良いのか分からなかった。子供は好きだけれど、本当に仲良く出来るだろうか。受け容れて貰えるだろうか。何か行動をと思いながら、思うばかりで結局どうにもならない。最初は手探り状態だった。けれど何故か初めてスタッフの方やお母さん方や子供たちと出会った時から、何か強いものを感じていた。優しく、柔らかいもの——。何十人もいる元気一杯の子供たち、名前も分からなくて、とりあえず炊事や皿洗いをしようと思った。とにかく一生懸命こすり、流し、食材の下ごしらえを手伝っていると、誰かの手を肩に感じた。

「お台所のお仕事も良いけれど、ぜひ子供たちとコミュニケーションをとって下さい。皆、一緒に遊んで貰えるのを待っていますよ。」優しい眼をしたシスターが、向こうの川岸を示す。ああそうだ、そう思った瞬間、足は知らぬ間に川岸へと踏み出していた。突然現れた私に驚くだろうと思いきや、子供たちはいきなり掴まえた虫を見せに来たり、虫が怖いからと飛びついてくる子がいたり。それはもう大騒ぎで、そしてそこには限りない笑顔が溢れていた。かつて、これ程きらきら笑う子供たちに出会ったことがあっただろうか。驚いて、また本当に温かい気持ちになった。一瞬、この子たちは少なからず悲しい経験を持っていることが頭をかすめる。心が割れそうになった。相変わらず楽しそうに騒いでいる子供たち。心が深く大きな感情に襲われるのを許す代わりに、私は笑って叫んだ。

「さ、一緒に遊ぼう!」

あの生き生きとした輝きは一体何処から来るのか。手の中に小さな、でもしっかりとしたもう一つの手を感じながらそう思った。私はお手伝いに来た筈なのに、逆に皆から元気や笑顔を貰っている。兄弟の多い彼らはどんなに幼くても、自分より年下の子をいつも気にかけ助けている。食事から着替えから何から何まで。本当に、助け合う心を真の意味で理解しているのだ。そういう皆のことを私は尊敬しているのだけれど、そんな子供たちが本当に小さい子の様に抱きついてきて“お姉ちゃん”と呼んでくる。ぎゅっと抱きしめ返した時、何か強い思いが生まれた気がした。子供たち皆、何も変わりはないのだ。彼らが私を全部受け入れて信頼してくれたのと同じように、私も同じことをするだけ。皆が大好きだから。彼らの思いを精一杯受けとめることが出来るように。

おんぶ抱っこ肩車に追いかけっこの回数が格段に増えた二年目。でも、とびきり嬉しそうなこの笑顔があって、どうして腰痛など気にすることが出来よう。そこら中一緒に駆けまわり、飛びついてきたその顔。“お姉ちゃん”。あの強い思い、それは彼らの心の姉になれたら、ということだった。皆にはずっと笑っていて欲しい、私のした事が何か少しでも幸せに繋がります様に。義務ではない、心から行動する力強さはきっと何か動かせる筈だから。

プログラム紹介