JICA地球ひろば開発教育メルマガ 2015年7月号 第2号

開発教育/国際理解教育の授業実践事例をご紹介!

今月号の実践事例紹介は、山口県防府市立右田中学校 田中紀子先生です。田中先生は、2007年度にガーナ教師海外研修に参加され、2014年度JICA地球ひろば開発教育研修(実践編)実践共有会で研鑽を積まれました。

リンク先でご紹介するのは、ご専門である音楽科における国際理解教育の授業実践1事例(中学2年生対象)に加えて、道徳や学活、総合的な学習の時間での実践4事例(中学1年生対象)になります。田中先生の授業実践の特徴は、ご自身で作成された教材や教師海外研修で持ち帰られた素材活用だけではなく、JICAの出前講座や市内在住の外国人との交流、国際交流協会等他機関からの資料等の外部リソースを活用しながら、子どもたちが学校にいながら世界と関われる工夫が詰まっていることです。

一人の先生ご自身が伝えられることには限界がありますが、たくさんの方に関わって頂き、その方々の実感を伝えることを積み重ねていくことで、広い世界が見えてくる、そんな実践内容です。

開発教育/国際理解教育に対する思い

"音楽に国境はない?それとも、ある?"

音楽科の教員としてずっと考え続けているキーワードである。音楽をとおした表現活動は国や地域を超えて人々に伝わり、そのパワーには計り知れない魅力がある。音楽で表現される人々の生活のありのままの姿に思いをはせ、異文化理解を深めていくことができたら…。

音楽を核とした国際理解教育の在り方を模索していきたいという思いが、私の国際理解教育への取組のスタートとなった。

授業実践事例 テーマ【ちがいを豊かさに】

近隣に住んでおられる外国の方と交流しよう。−学活・総合的な学習−
第1学年

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【第1時】

  • 国際交流の在り方、進め方について、学年全体でJICA出前講座を受講し、参加型手法で気づきを共有しあう。

【第2時】

  • 「レヌカの学び」の班活動をとおして、異文化理解の大切さを知る。

【第3〜5時】

  • 市内在住の外国人の方々を学校に招いて、交流会を企画し実践する。実践後は、個人でA41枚の新聞にまとめて紙上発表する。
資料
  • JICA出前講座講師持参のパワーポイント
  • DEAR制作の「レヌカの学び」
  • 県国際交流協会、市図書館より各国に関わる資料の借用(例 民族衣装、万国旗、国歌の楽譜)

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生活と結びついた諸民族特有の音楽の特徴を知り、様々な音楽文化について理解を深めよう。−音楽科−
第2学年

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【第1時】

  • アルトリコーダーで「アメイジンググレイス」(教育出版「音楽のおくりもの上巻」)を演奏したり、アカペラで歌って、曲の雰囲気を味わう。
  • 曲の背景について、写真や資料から理解し、黒人奴隷の存在と、作曲者といわれている船長の思いを知る。
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【第2,3時】

  • アフリカの音楽のリズムの特徴をライオンキングのテーマ曲「ライオンは寝ている」(教育出版「音楽のおくりもの2下巻」)で、表現する。

【第4時】

  • アフリカの音楽の特徴や印象に残ったことについて、"ワールドカフェ方式"で発表し、理解を深める。
資料
  • 音楽CD
  • 自作のパワーポイント
  • 自作のワークシート
  • ガーナより持ち帰ったジャンベ
  • ジャンベ代用の手作りカホン
  • アフリカの楽器
  • 音楽CD

様々な生活環境の中で生きぬく人々の思いを知り、お互いの夢の実現を応援するサポーターになろう。−道徳・学活・総合的な学習−
第1学年

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【平成24年度】

  • 交流会で招待した中国からの研修員を、帰国前にお招きし、日本での生活を振り返ってお話していただき、中国の歌と日本の歌を発表しあう。
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【平成26年度】

  • ノーベル平和賞受賞のマララさんのスピーチより、学校に行くことの意味について改めて考え、個々の夢の実現にむけて、教育の必要性について意見交換する。
  • 6月のJICA出前講座の折、Skypeで交流した地元防府市出身の青年海外協力隊員が1月に帰国されたことから、その隊員におこしいただき、実際に話を聞く中で、海外ボランティアの仕事について、理解を深める。
資料
  • 楽譜「草原情歌」、「ふるさと」
  • DEAR制作のワークショップ「学校に行けないということ」
  • 2013年、Gakken出版「わたしはマララ:教育のために立ち上がり、タリバンに撃たれた少女」(書籍)
  • 朝日出版社「マララ・ユスフザイ 国連演説&インタビュー集」朝日出版社(生声CD)
  • 自作のパワーポイント

授業を終えて

音楽科での学習内容は学習指導要領に基づいているので、毎年同様の教材を扱っている。しかし、道徳や学活、総合的な学習の時間においては、学年や学級の実態に即して、その年の社会情勢やお招きする元隊員の職種等によって、国際理解教育の動機付けの場面や活動後の振り返りの方法に変化をもたせた。それぞれの教科、領域での生徒の感想の一部を記載する。

1)音楽科 −「アフリカにルーツをもつ音楽の原点はなんだと思うか」と問いかけに対して−

「つらい気持ちをふきとばそうというポジティヴな気持ち」「苦しさも楽しみにかえる力」「人々のつながりや共存」「奴隷を経験しての神への祈り」「昔の苦い思いや反社会的な思い」

2)学活・総合的な学習 −中国からの研修員をお招きした際の感想−

「ニュースで日中関係とか問題でデモとかあったりするけど、みんな悪い人ではないんだなと思いました。」「やさしい人もいることがわかりました。」「中国に帰ってもやさしい○○さんのままでいてほしいです。」(その年尖閣諸島問題が問題視された。)

3)学活・総合的な学習 −マララさんのノーベル平和賞受賞を取り上げた際の感想−

「自分たちのクラスは私語が多くて、私語をしている人を注意しようとすると何か文句を言われるのではないかと不安がある。だけど、マララさんのように自分の意見に自信をもって言うことが大切だと思った。」

授業を通しての子どもたちの変容

教科(音楽科)の視点からみた生徒の変容として顕著なことは、音楽に対する価値観の変容、多様化であると思われる。生徒の中には、地域の盆踊りに参加したり、声楽の演奏会では、原語のため意味がわからなくても、手拍子やかけ声を自由に組み入れて、パフォーマンスしたりという積極的な姿が見られるようになってきた。世界各地には、五線譜で記される音(ドレミファソラシド)以外にも人々の心象風景を表現できる音は無限にある。そういう民俗音楽にも積極的に関わり、自分たちの生活を潤す音楽の表現者を育てていきたいと考えている。

JICAほか、教育支援機関の活用例

1)JICA

教師海外研修、開発教育指導者研修、国際理解教育講座への参加や出前講座の招聘

2)ユニセフ

貸し出し教材のレンタルやスタディーツアーへの参加

3)防府市主催

国際交流フェスタへの参加

4)任意団体 山口県国際教育研究会での交流やDEARからの情報提供

国際理解教育を進めるにあたって、校外でよりどころとなる組織は県の国際交流協会、市の国際交流室である。そちらの担当者より、学校で進めていきたい交流の内容によって、団体や個人を紹介していただいている。また、県の国際交流協会にはJICAデスクもあるので、国際協力推進員に直接相談し、出前講座の講師や各種研修会を紹介していただき非常に心強い。

個人的には、JICA主催の様々な研修会に参加できたおかげで、開発教育に関する様々な手法を学び、ネットワークもひろがった。そして、視野がひろがり、より柔軟に物事に対処できる力が醸成されてきた感がある。特に、開発教育指導者研修で体験した"えんたくん"(ワークショップなどの話し合いの場で、意見を書き出していく円形の段ボール紙。)でのワークショップはとても印象的で、立場をこえて様々な方と国際理解に関して意見交換できたと思う。

今後、チャレンジしたいこと

1)自分にとってコアとなる音楽の分野からの発信

前任校では、校務分掌の中に国際理解教育の分野が位置づけられており、分掌の担当として、教育活動を推し進めることができた。しかしながら、学校によって国際理解教育の位置づけは事情が異なる。そこで、学校が替わっても実践を続けていくためには、まずは教科教育の立場から進めていくことが最良の方法と考える。自分にとっては音楽を原点として国際理解教育をとらえ、実践を進めながら他の教科や領域に活動をひろげていきたい。また、教科教育としては、評価を考慮していかなければならないので、評価の在り方が今後の課題にもなってくると思われる。

2)点と点をつないで面となる活動

自分にとっては、音楽科の授業を原点とし、道徳・学活・総合的な学習の時間、そして生徒会活動や行事へ、幅広く国際理解に関わる学習を深化発展させていきたい。
ガーナの中学校で、滝廉太郎作曲「花」を美しい歌声で披露してくれた中学生の声が今でも心に響いている。相手の文化を学んで一生懸命伝えてくれた真心あふれる姿こそ、私たちが生徒に伝えていかなければならない"異文化理解=他者理解"の真の姿であると思う。

"ちがいを豊かさに"

世界、そして日本のどこでも、人々は自分たちの生活の中に息づいている音楽を大切にし、心から楽しんでいる。まずは、自分の価値観とはちがう音楽を大切にしている人々がいることに気づくこと。そして、相手のすばらしさを受けとめ、尊敬の気持ちをもつこと。一緒に歌い、踊り、伝え合うこと。
そして、音楽だけでなく、日常生活の何気ない場面から、ちがいを豊かさにかえて、行動できる生徒とともに歩んでいきたい。

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