JICA地球ひろば開発教育メルマガ 2015年8月号 第3号

開発教育/国際理解教育の授業実践事例をご紹介!

今月号の実践事例紹介は、私立大垣日本大学高等学校(岐阜県)鈴木智博先生です。鈴木先生は、2011年度にバングラデシュ教師海外研修に参加され、2014年度JICA地球ひろば開発教育研修(実践編)実践共有会で研鑽を積まれました。教科(英語)での実践はもちろんのこと、学活や生徒会活動でも国際理解教育(開発教育)を積極的に取り入れ、子どもたちの成長のために研究を続けていらっしゃいます。

リンク先でご紹介するのは、高校1年生を対象とした単元「コミュニケーション英語1」−国際理解に関する単元における実践−計4時間の英語の授業実践です。教師海外研修での先生ご自身の現場体験や現地訪問中に撮影した写真などを、説得力のある教材として活用されています。また、大学でも国際理解教育(開発教育)を学ばれた鈴木先生の事例には、生徒たち自身が問題に気づき行動することを目指し、多くの参加型手法(KJ法、ロールプレイ、力の分析等)が用いられています。学習内容に合わせて、様々な参加型手法を効果的に使い分けていらっしゃる点にも是非ご注目下さい。

開発教育/国際理解教育に対する思い

大学で国際理解教育(開発教育)を専門的に学びたいと考えるきっかけとなったのは、中学生だった時に学んだ社会の授業でした。教科書の内容だけでなく、教科書の枠を超えて身近な社会で起こっている問題と関連させた授業に取り組んでいけるのが、この国際理解教育(開発教育)だと感じております。

授業実践事例の紹介

単元「コミュニケーション英語1」−国際理解に関する単元における実践−
高校1年生・英語

【1時間目】

「学ぶ環境の違いから気づく、学びの目的を考える」

  • バングラデシュについてのクイズを基にしたビンゴゲームを行う。(参考資料1)
  • 理想の学校(これがあったら良いなと思うこと)について3つ挙げる。グループ内で3つずつ挙げた内容をまとめ、発表する。

『理想の学校』をイメージ図にする。

【2時間目】

「環境が違っても生き生きと夢を語る人間のパワーに気づく」

  • バングラデシュで訪問した学校の写真を見せ、印象を挙げさせる。
  • バングラデシュで訪問した学校の写真だと伝え、学校で学んでいる生徒たちになったつもりで将来の夢を考えてみる。
  • 理想の職業を1つ決めて、グループ内で共有する。

【3時間目】

「教育を受けることの意味に気づき、自分の夢を考える」

  • 理想の職業を挙げ、絵で内容を表して共有する。
  • 世界の教育問題について考える。2011年10月14日中日新聞「学びの現場から−バングラデシュ教師海外研修に同行して−」(筆者コメント記事)を読み取り、課題解決のために何をすればよいか考える。

【4時間目】

「環境の違いがあったとしても、夢をもつことの大切さに気づく」

  • バングラデシュの子どもが書いた絵(参考資料3)を使い、その子になりきって夢を語る。
  • 自分が小さかったときの夢を振り返り、その理由を3つ挙げる。
  • 自分の将来設計を考える。(時間があればグループ内で共有していく)
手法
  • ブレーンストーミング(グループ内)
  • KJ法
    参考書籍『教室から地球へ開発教育・国際理解教育虎の巻』開発教育国際理解教育アクションプラン研究会(東信堂)
  • イメージ図
  • ロールプレイ
  • 力の分析
    (職業についてのプラス要因とマイナス要因について挙げ、それを絵で表現しました)
  • なりきり自己紹介
  • タイムライン

参考資料1

【第1時間目】バングラデシュビンゴ ※作成したパワーポイントの一部です。

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参考資料2

【第3時間目】中日新聞の記事

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参考資料3

【第4時間目】バングラデシュの子どもが描いた絵

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第1時間目 『理想の学校』について

どのようにブレーンストーミングをしたか

「今の学校生活を通して、"こんな学校だったら、通っている生徒が笑顔で元気に生活できる"と思うことはどんなことがありますか」といった感じで話をしました。ビンゴゲームでバングラデシュのイメージを抱いた生徒が、バングラデシュと日本の学校の違いをイメージしながら理想の学校づくりをし、その後の活動につなげられるように進めました。

どのようにファシリテーターをしたか

先入観を植えつけることのないように気をつけてファシリテーターを行いました。バングラデシュ=貧しいという印象だけでなく、現地の人がどんな人たちであったかを体験談で話しました。こうした話を通して、ファシリテーターを行いました。

生徒から出された『理想の学校』

「いじめのない」「けんかのない」など、差別のない学校生活を挙げているグループが多くありました。1時間目ということもあって、現実的な日本の学校生活を連想しており、そうしたイメージの中で『理想の学校』を作るグループが多く見られました。しかし、生徒達の中には自分が通っていて「楽しい」と感じることができるかをポイントにしているメンバーも多くおり、グループによっては、その価値観の違いから、意見をまとめていくことに苦労している様子でした。

単元を通して

教材の解説や活用方法の工夫(教材観)

実際に活用した資料は、現場で撮影をしてきた様子や現地での教育環境から、自分たちの現実と比較していけるように工夫をしました。

授業での生徒の様子

物事を多面的に見る価値観をもってもらいたいという思いもあり、今回の授業を計画しました。
物質的な豊かさが多い日本で生活をしている私たちとは異なる環境でありながらも、バングラデシュの学校で学ぶ生徒たちが予想以上に笑顔で溢れている様子に生徒たちは驚いていました。
また、「本当の豊かさ」とは何か?と考えを深め、意識に変容が見られるグループもあったので、「幸福感」を次のテーマにしていきたいと授業を通じて思いました。

生徒の感想

「今回の授業は、いつもの授業とは違ってグループのみんなで考えを出し合いながら取り組む授業であったから、とても新鮮な気持ちで受けることが出来ました。」

反省点

  • 第2時間目までの授業を振り返ってみると、やはり自分の思いを伝えたく、自分の方から生徒たちに思いだけを伝えてしまうことが多かったと感じています。
  • 写真や新聞記事を使うだけでなく、映像(バングラデシュ研修中に撮った映像で、学校の生徒たちの様子を中心に、生活環境が分かる内容)も使うことで、生徒たちは実際にその現場で起こっていることについて考えるきっかけになったと思います。次は、生徒自身の意識変化について様子を把握することができるようにしていきたいと思います。
  • 単発的な時間でしか取り組むことができなかったので、3年間を通じた国際理解教育(開発教育)の授業を研究していくことが必要だと感じました。まず、今回のバングラデシュ研修で得たことを今後も生かしていくことが課題です。

成果点

  • 2011年10月14日の中日新聞に、私がコメントをした記事が掲載されていたので、私が実際に学んできたことについてより一層の関心をもってくれた生徒もいました。特に、女子生徒の関心が高かったことが印象的でした。
  • バングラデシュに暮らす人々の生活と自分たちの生活を比較するきっかけを作れたことが大きかったです。今回の学びを通して感じたことを、これからの学校生活に生かしてもらえればと願っています。
  • 学級での授業を行った後、生徒会行事(文化祭)にて学年でバングラデシュについて理解を深める企画を実施しました。その結果、学年全体で考える事になり、ペットボトルキャップを回収する取り組みを全校で行うことに繋がりました。自分たちの力でできるボランティアとして、生徒たちが発案をして自ら取り組んだ活動です。バングラデシュが世界で貧しい国に部類されていることを知り、生徒たちの「目に見える形の国際協力に携わりたい」という気持ちが、この活動に繋がっていったと思います。

授業実践について

私が勤務している大垣日本大学高等学校は3コース制のカリキュラムとなっており、それぞれのコース特性があります。その中でも私が担当している特別進学コースは、運動部に所属をしている生徒が多く活発な様子が見受けられます。現在まで、様々な領域で様々な活動に取り組んできました。例えば、上記の学習と関連させ、キャリア教育の観点から生徒が大学受験に向けて文系理系の選択をする場面で国際理解協力(開発教育)を取り入れたこともあります。将来の進路選択の迷いや葛藤がある中でも、私がバングラデシュで経験をしてきた体験談を通して、生徒自身が「どうして今、学ばなくてはならないか」を考えることができるようなきっかけづくりをしました。

JICAほか、支援組織の活用例

JICA教師海外研修への参加を通じて、その後の教員ネットワークを深めるきっかけとなりました。
また、岐阜県の国際交流協会を通じて国際協力推進員さんと連携するきっかけにもなり、校内で行われた国際理解に関する講演会には、「NPO法人 地球のステージ」の方に来校していただきました。
個人的には、JICA主催の様々な研修会に参加していく中で、国際理解教育(開発教育)に関する様々な手法を学ぶことができました。そして、物事を判断していく上で、柔軟に対処できる力が醸成されてきたと感じています。

今後、チャレンジしたいこと

まず一番に、子どもたちへの教育活動に、これまで学んできたことを還元していきたいと思います。今まで私が取り組んできた教育活動において大切にしてきたことは、一方的に生徒たちへ指導をしていくのではなく、生徒たち自身が問題に気づき行動してもらうことです。この方法を指導の軸におきながら、今まで教科指導だけでなくクラス担任や生徒会担当として生徒と関わってきましたが、再度自分自身の取り組んできた指導を振り返り、今後も「参加型」の手法を積極的に取り入れ、授業実践に取り組んでまいりたいと思います。

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