JICA地球ひろば開発教育メルマガ 2015年9月号 第4号
開発教育/国際理解教育の授業実践事例をご紹介!
今月号の実践事例は、広島県立尾道商業高等学校 平田俊彦先生です。平田先生は、平成17年度にケニア教師海外研修に参加され、現在まで継続して国際理解教育に取り組んでいらっしゃいます。広島県高等学校教育研究会国際理解教育部会主催の研修会や広島県立教育センター主催の研修会、JICA中国主催国際理解教育研修会で「国際理解教育の進め方」について講演されるなど、その実践を広く伝える活動にも積極的に取り組まれています。
リンク先でご紹介するのは、高等学校1学年(240名)を対象とした総合的な学習の時間(100分)「産業社会と人間」の実践事例です。ケニア人英語講師とのティームティーチングで、『ケニアの生活と日本の生活を比較することによって、本当の豊かさについて考える』という目標に迫っています。外国人教師開(ケニア出身のALT教師)と連携することで生まれる成果、連携のポイント、教師自身に生まれた変化、生徒の変容など、示唆に富んだ実践内容となっています。
また実践事例の2つ目として、JENESYS2.0プロジェクト(21世紀東アジア青少年大交流計画)のカンボジア大学生との交流についてもご紹介していますので、是非ご参考にしてみてください。
国際理解教育(開発教育)に取り組むようになったきっかけ
今から11年前、青年海外協力隊員としてタンザニアでの2年間の勤務から帰国したばかりの先生と一緒に働くことになったのをきっかけに,いまの自分をもっと成長させたい、自分も定年退職後、シニアボランティアとして2年間開発途上国で活動してみたいという熱い思いが湧き上がったことを昨日のことのように思い出します。
授業実践事例の紹介
実践事例1)【総合的な学習の時間】【ケニア人英語講師Samuel Muchiri先生とのティームティーチングについて】
前任校(広島県立戸手高校)に赴任した平成17年度にJICA教師海外研修に行くことになったのをきっかけに、すでに同校にALT教師として勤務していたSamuel Muchiri先生に、私の方から交流したいと強く思い、積極的に交流するようになり、単身日本で国際理解教育に尽力しているSamuel先生の熱意に共感し、意気投合した。
毎年2月中旬、5年間に渡り、テーマ『ケニアの生活と日本の生活を比較することによって、本当の豊かさについて考える』について授業を行った。
以下は、同授業の学習指導案である。
産業社会と人間 学習指導案
1 対象授業
- 日時
- 平成26年2月13日(水)第5、6限(100分)
- 学年・組
- 1学年(240名)、本校体育館
2 単元名
ケニアの生活と日本の生活を比較することによって、本当の豊かさについて考える。
3 単元について
(1)単元(題材)観
本単元は、ケニア教師海外研修において収集した開発教育教材を活用して展開している。
この授業をきっかけに,生徒自身が自分自身の学校生活を振り返り、本当の豊かさについて考えさせることを目標としている。開発教育の手法を取り入れることにより、生徒の心に響く授業展開を工夫する。
(2)生徒観
真面目に物事を考え、こちらが与えた役割についてはきちんと取り組むことができる生徒が多い学年集団である。多様な考えや文化を伝える場を仕組むことにより他者を思いやる生徒を育成できると考える。また、高い目的意識をもち,自律的に学び行動する生徒を育成できると考える。
(3)指導観
地球的諸問題が深刻化し、一国だけでは解決できない状況が生まれている。問題を解決し、世界の持続的な発展を図るには、グローバルな見方・考え方が重要であると考える。本単元の指導を通して、多様な価値観を尊重する態度が育成できると考える。
4 単元の目標
ケニアについて情報を知ることにより、自分の生活や家族との関わりについて再考することがができる。
5 単元の評価規準
- 関心・意欲・態度
- 異文化を積極的な姿勢で学ぼうとしている。
- 思考・判断
- 異文化と自分自身の文化との違いについて比較できる。
- 技能・表現
- 自分の意見を的確に相手に伝えることができる。
- 知識・理解
- ケニアの文化についての基本的な知識を理解している。
6 指導と評価の計画(全2時間)
次 | 学習内容(時数) | 評価 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
関心 | 思考 | 表現 | 知識 | 評価規準 | 評価方法 | ||
1 | 豊かさとは何か (1時間・本時) |
◎ (二重丸) |
○ (丸) |
○ (丸) |
○ (丸) |
ケニアと日本を比較し,豊かさについて考えることができる。 | 観察 |
2 | ケニア人から日本人へ (1時間・本時) |
◎ (二重丸) |
○ (丸) |
○ (丸) |
○ (丸) |
異文化を積極的に受け入れることができる。 | 観察 |
7 本時の展開
(1)本時の目標
1)ケニアの中にある問題点やケニアから学ぶ点について気づき、本当の豊かさについて深く考えることができる。
2)ケニアの学校で教えられている「Education」という詩を読み、自らの学習に対する姿勢を振り返り、本時の授業内容を前向きに取り組むことができる。
(2)道徳的観点
授業開始時、終了時の起立・礼の際、全員が大きな声を出して感謝の気持ちを言葉にする。
また、自分の生き方やその意味について考え、「自分自身や自己と他者との関係」さらに「日本と開発途上国との関係」について関心をもち、人間や社会の在るべき姿について考えることの重要性を学ぶ。
(3)観点別評価規準
- 【関心・意欲・態度】
- 本当の豊かさについて問題意識をもって意欲的に学ぼうとしている。
- 【思考・判断】
- 自らの学習に対する姿勢と比較し、学ぶべき点を取り入れようとしている。
- 【技能・表現】
- 自分の意見を相手にわかりやすく表現できる。
- 【知識・理解】
- ケニアの文化についての基本的な知識を理解することができる。
8 学習の展開
【導入(3分)】
- 学習活動
-
- 号令(挨拶…お願いします)
- 本時は、国際理解について学習することを知る。
- 指導上の留意点
-
- 服装を正させ、大きな声で挨拶をさせる。
- 評価(評価方法)
-
- 観察
【展開I(10分)】
- 学習活動
-
- アイスブレーキング(部屋の四隅)
- 国際化のためには「英語教育」をもっと充実しなければならない。
- 日本は豊かな国である。
- アイスブレーキング(部屋の四隅)
- 指導上の留意点
-
- パワーポイントを使用する。
- 学年の教員に体育館の四隅で待機してもらい、生徒がスムーズに移動できるようサポートしてもらう。
- 各四隅から意見を言わせる。
- 評価(評価方法)
-
- 観察
【展開II(20分)】
- 学習活動
-
- 国際理解教育の必要性を伝える。
- まず地元(福山)について知る。
- 世界の現状にも目を向ける。
- 開発途上国の現状について
- ケニアクイズ(3択)
- ケニアはどこにある?
- ケニアの首都は?
- 首都ナイロビの平均気温は?
- ケニアの教育について
- 日本との違いを知り、ケニアの現状を知る。
- 豊かになるために必要なもの
- 「Education」という詩を読み、その意味を確認する。(参考資料1)
- ケニアの子どもたちの朗読の映像(ケニアで筆者が撮影)を見せる。
- 13歳の少女の映像を見せる。(1日1ドル以下の生活をする彼女の夢)
- 指導上の留意点
-
- パワーポイントを使用する。
- テンポよく話す。
- 元気よく手を挙げさせる。
- 最も伝えたいことなので、生徒の反応に十分気を配る。
- 英語の発音に気をつけ、感情を込めて読み上げる。
- 映像の紹介を丁寧にする。
- 評価(評価方法)
-
- 観察
【展開III(15分)】
- 学習活動
-
- 自分にとって豊かになるために必要なもの…グループで話し合い
- 2グループが発表する。
- 指導上の留意点
-
- ブレーンストーミング(出た意見を決して否定しないよう指示)
- 堂々とした態度で発表させる。
- 評価(評価方法)
-
- 観察
- 模造紙
- マジック
【展開IV(5分)】
- 学習活動
-
- 後半の部
- 本校NEST(Native English Support Teacher:地域在住の外国人非常勤講師)のケニア人英語講師の紹介
- 後半の部
- 指導上の留意点
-
- 講師の経歴をご紹介する。
- 集合時間を守らせる。
- 評価(評価方法)
-
- 観察
−10分の休憩後−
【展開V(40分)】
- 学習活動
-
- ケニア人講師の英語によるスピーチ
- ケニア人から見た日本
- 学習の大切さ
- 夢をもつということ
- ケニア人講師の英語によるスピーチ
- 指導上の留意点
-
- 話しやすい雰囲気を作り出す。
- 評価(評価方法)
-
- 観察
【終結(7分)】
- 学習活動
-
- 豊かさの条件について、生徒に意見・感想等を発表させる。
- 指導上の留意点
-
- 話し合いの様子を観察していた中で、活発に意見を述べている生徒に発言させる。
- ホームルームにて感想文を書かせる。
- 評価(評価方法)
-
- 観察
外国人教師とのチームティーチングについて
(1)外国人教師とその出身国についての授業を行ったことで得られた成果
私は日本人教師として、ケニア人の先生の前で、実際にケニアに訪問し、五感で感じてきたことをストレートに伝えることを心掛けた。日本人教師と外国人教師が、お互いが伝えたいことを代弁し合うことにより、自身の口から伝える以上に生徒に伝わったのではないかと思う。
生徒は、この授業を通してケニアという国がとても身近になり、国際的な視野が広がった様子が見られた。自らの意思でJICA高校生国際協力体験プログラムに参加したり、また、中学生・高校生エッセイコンテストに応募したり、積極的に英語の学習に取り組む生徒もでてきた。外国人教師とのティームティーチングによって、教師海外研修参加後にも増して、私自身がさらにグローバルな視点で物事を考えることができるようになったと実感している。
(2)外国人教師とのティームティーチングの有用性
異なる文化をもつ外国人教師との交流等を体験することで、生徒が文化等に対する理解を深めることができたり、積極的にコミュニケーションを図ろうという気持ちを起こさせたりすることができる。外国語の音声やリズムなどに慣れ親しむとともに、日本語との違いを知り、言葉の面白さや豊かさにも気付かせることができる。
また、日本と外国との生活、習慣、行事などの違いを知り、多様なものの見方や考え方があることに気付かせることができる。
(3)外国人教師とのティームティーチングで授業を行う際のポイント
外国人教師との意思疎通を図るためには、日本人教師は活動内外の双方で異言語間・異文化間コミュニケーションに挑戦する必要がある。この意味では、日本人教師は生徒にとってのモデルであると言える。教師が自ら積極的に挑戦し楽しんでいる姿は、生徒にとって大きな目標となる。
(4)外国人教師との連携のポイント
日本人教師が主体となり、生徒の実態に合わせた活動を計画・立案して行くことが前提となる。その際、外国人教師の意見も柔軟に取り入れることが重要になる。日本人教師自身が楽しみながら、積極的に外国人教師と「ティーム」の相手として関わることが重要である。
授業後の生徒の感想
- 実際にケニアを訪問した平田先生の行動力はすごいと思ったし、貧富の差が激しいケニアの人たちの前向きに生きる姿にただただ感動しました。「ハクナマタタ(スワヒリ語でどうにかなるさという意味)」という言葉が大好きになりました。
- 私たち日本人は、経済的に豊かで、欲しいものは何でも手に入る環境にあることにまずは感謝したいと思いました。今日の講演会で学んだことは、私たち日本人もケニアの人たちのような心の豊かさを持つことが大切だということです。
- サムエル先生の話からは、ポジティブに物事を考え、行動していくことの大切さを学びました。ケニアには野生動物が町中にいるのかと思っていましたが、首都ナイロビにはスーツ姿のビジネスマンがたくさん歩いており、本当にびっくりしました。これからはメディアの情報をすべて鵜呑みにせず、何が真実なのかを自分で確かめることが大切だと思いました。
- 平田先生が見せてくれたプレゼンの中に出てきた写真や映像は何もかもが興味を引くものであっという間の2時間でした。私も将来は国際協力に関わる仕事をしてみたいです。
継続して授業を行ったことで得た気づき
グループ活動の際に、聞くという姿勢がないときに、発問・指示をしても生徒は理解できないことが分かってきたので、「話し合いを止めて、前を見てください。」と指示した後に発問するなど、生徒に聞く姿勢を取らせるようにした。また、言語指示だけでは理解することが難しい生徒もいるので、パワーポイントで作成したプレゼン資料のスライドの文字をできるだけ大きくしたり、極力文字数を減らし、映像や画像等の視覚から理解できるように工夫をしたりした。また、教科の枠を超え、しかも日本人ではなく、外国人教師とティームティーチングを行うことにより、授業の事前、事後で打ち合わせ等のため顔を合わせる機会が増え、共に異文化理解が深まった。
参考資料1(詩:Education)
- ケニアのキベラスラムの学校を訪問した際に、校長先生からご紹介いただいた。毎日のHRで生徒が読み上げ、教育の必要性を再認識させているそうだ。訪問当日は、生徒たちが大きな声でこの詩を朗読してくれ、とっても感動した。
- Education(POEM)
- Education is the key
to everything to riches.
You can become a pilot.
You can become a teacher.
You can become a doctor.
Father and mother give us education.
Thank you for giving us education.
授業実践事例の紹介
実践事例2)【JENESYS(Japan-East Asia Network of Exchange for Students and Youths)2.0プロジェクト カンボジアの大学生との交流】
このジェネシス2.0プロジェクトは、大規模な青少年交流を通じてアジアの強固な連帯をしっかりとした土台を与えるという観点から、日本政府により進められている事業である。7年前に安倍晋三総理が始めたこのプログラムの趣旨に賛同し、本校の生徒を育てるという視点で、カンボジアの大学生との相互理解と友好関係の促進を目的として交流事業に参加した。今後ともこのような貴重な国際交流の機会を積極的に取り入れ、グローバル社会に対応できる幅広い視野を持ち、主体的に行動するコミュニケーション能力を身に付けた生徒を実社会に送り出していく決意である。
JICAほか、支援組織の活用例
出前講座は前々任校(広島県立福山商業高等学校)勤務の際,トンガでそろばんの普及に務められた堀田映子氏をお招きし,3年生を対象に行いました。現状が当たり前と思って生活している生徒たちにとって,開発途上国での青年海外協力隊員の体験談は,何不自由なく生活できていることに感謝できる生徒を育成するために必要不可欠なことだと強く感じます。今後とも国際理解教育の視点にたった教育活動を実践していく決意です。
今後、チャレンジしたいこと
教師海外研修に参加して10年が経ちますが,あのときの記憶は全く薄れていません。これからどの学校へ異動したとしても,初心を忘れず,生徒にこれまでの様々な体験を伝え続けていきたいと思います。そして,日本と開発途上国との架け橋になれる人間に成長し,シニアボランティアとして活動する夢を必ず叶えます。
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