JICA地球ひろば開発教育メルマガ 2015年10月号 第5号

開発教育/国際理解教育の授業実践事例をご紹介!

今月号の実践事例は、東京都立農芸高等学校 中園真由美先生です。中園先生は、2007年にタイ教師海外研修に参加され、その後も継続して研鑽を積まれてきました。狭く小さな世界に閉じこもりがちな生徒たちに「生きる世界はここだけじゃないよ!」「いろいろな考え方、生き方があっていいんだよ!」と心で語りかけながら、年間を通して実践に取り組んでいらっしゃいます。

リンク先でご紹介するのは、3年生を対象とした英語II「いのちから「幸せ」を考える」(1時間)の実践事例です。「難民ゲーム」(開発教育研究会編著「新しい開発教育のすすめ方II 難民 —未来を感じる総合学習」より)に取り組み、難民の生活を疑似体験することで「幸せ」について考える内容になっています。アクティブ・ラーニングが注目される昨今、参加型学習の1つとしても参考にして頂ければと思います。また、中園先生は、MIA(公益財団法人武蔵野市国際交流協会)の国際理解教育に関するワークショップにも積極的に参加されています。授業づくりや授業実践の持ち寄り、映画監督を呼んで話を聞くなど、その活動は多岐にわたります。同じ志を持つ仲間たちとの励ましあいを日々の実践の糧としている中園先生。MIA以外にも、NPOなど多数の機関と連携している中園先生の事例は、勉強の場を広げたいと考えていらっしゃる先生方のヒントになることと思います。是非ご覧ください。

国際理解教育(開発教育)に対する思い

2007年、JICA教師海外研修でタイに行ったのが開発教育との出会いです。以来、参加型学習の楽しさ、地球市民の目線という新しさ、民主的な授業運営の心地よさにガッツリはまってしまいました。開発教育は「自分を見つめ、他と共生し、平和を希求」します。深くて、寛くて、崇高。これこそ教育の本来の目的でないかと思っています。また、「多様性を育む」、「視野を広げる」という点で、狭く小さな世界に閉じこもりがちな生徒たちに「生きる世界はここだけじゃないよ!」「いろいろな考え方、生き方があっていいんだよ!」と心で語りかけながら授業に取り組んでいます。

授業実践事例の紹介

2014年7月 本校の3年生 36人×4クラス 英II 1時間

3年間担任をしてきた生徒たちである。夏には就職試験やAO入試が始まり、いよいよ社会に飛び立つ準備が始まる。1学年時より行ってきた国際理解教育の締めくくりとして何か彼らに伝えられることはないかと考え企画した。

1年次 6月 児童労働についての基礎知識講座
7月 元子供兵士の方のお話し
12月 チョコレート生産者の実態
3月 世界がもし144人の村だったらワークショップ
2年次 7月 ルワンダの義足工房のご夫婦のお話し
12月 元青年海外協力隊隊員のお話し
3月 福祉法人Ubdobe(ウブドべ)代表のお話し
3年次 5月 コーヒー生産者の実態
6月 世界の食卓

授業のねらい

人が「幸せ」を思うとき、「○○があるから幸せ」「○○ができるから幸せ」と考えがちである。そして、「○○がないから私は不幸せ」「○○ができないからあの人は幸せではない」とも考えてしまう。果たしてそうなのだろうか。

ものや可能性にあふれた私たちの世界からいろいろなものをそぎ落としていったとき、見えてくる大切なものがあるのではないか。その大切なものをきちんと認識することで私たちの普段の生活も違う見え方をするのではないかと考えた。「難民ゲーム」を題材に、普段の暮らしを捨てざるをえない状況を疑似体験した。

「難民ゲーム」の出典
新しい開発教育のすすめ方II 難民 —未来を感じる総合学習 開発教育研究会編著

いのちから「幸せ」を考える

【家族作り】、【家族紹介(荷物カードに追加したものも含めて紹介)】
(時間:10分)

留意点等
グループ作り
  • 4〜5人で家族
  • 役割もつける(父・子どもなど)
  • 荷物カードに足りない家財道具を追加してもらう
用意するもの
  • 持ち出し荷物カード(テレビ、車、パソコン、ペット、衣類など家財道具が書かれたカード)

【難民の写真】(時間:3分)

  • 「何をしているところでしょう」
  • 「この人達は誰でしょう」
  • 「決して人ごとではありません。皆さんにもこのような機会が訪れることがあるかも知れません」

【画像】

ppt:最初の1枚目の写真

【画像】

ppt:最初の2枚目の写真

【1、難民の定義】、【2、世界のどんなところに難民の人たちが暮らしているのでしょう】(時間:5分)

留意点等
  • 世界地図にシールを貼ってもらう
  • pptの地図と比べてみる
用意するもの
  • 世界地図
  • シール

【難民ゲーム 逃げる】(時間:22分)

第1場面 逃げなければならなくなり荷物をカバンに詰める。
留意点等
  • カバンを配り、入るだけの荷物をつめる
  • 印刷された持ち出しカバン2つの上に持ち出し荷物カードを置いていく。
用意するもの
  • 持ち出しカバン2つ
第2場面 船に乗るために荷物を半分に減らす。
留意点等
  • 減らした荷物は回収する
第3場面 ある国に着いて、パスポートを確認される。
留意点等
  • 国境警備隊になってパスポートを点検に回る
  • 入国審査票に名前を書かせる
  • パスポートがないグループにはどうしたら良いか相談させる
用意するもの
  • 入国審査票
第4場面 逃げる途中で家族の一人が病気になり食料や医薬品が減る。
留意点等
  • 医薬品と食料を集めて回る。ない場合は金品で代用する
第5場面 難民キャンプに到着

時間:10分

留意点等
  • 感想を振り返りシートに記入
  • 気分を和らげるために音楽を流す
用意するもの
  • 振り返りシート
  • CD、CDプレーヤー

生徒の感想

置いてきた荷物の他に失ったもの
ふるさと、思い出、健康で文化的で最低限度の生活、安心、安全、これから先の未来、生きる希望、優しい心、活力、力、ポジティブな気持ち、プライド、夢、希望、安住の地
幸せとは?
心が満ち足りていること、家があり戦争がない平和な日々、家族が健康で生きていけること、家族みんなで楽しく暮らすこと、幸せは生きること、生きてることが幸せ、最低限必要なものがあること、今普通に生活していけていること、必要最低限以上のことが好きにできること、未来に希望があること、安心して眠れること
家族とは?
誰一人欠かせないもの、一緒にいるだけでいい、自分の心のエネルギーであり守らないといけないもの、家族がそばにいるだけで幸せ、安心、助け合うために必要
全体を振り返っての感想
  • 難民は不安ばかり。生きるか死ぬかの戦い。
  • 荷物をまとめるのがこんなにも大変だと思わなかった。
  • やっぱり戦争は誰も幸せになれないし無意味なものだと思う。
  • 実際に体験したらどれだけ怖いんだろう。
  • 実際このような人たちが世の中にいるのがとても悲しくなった。将来彼らを支援できるようになりたい。
  • もし戦争が起こったら何も考えることもできないと思う。戦争をまずやめるべきだと思う。
  • もし戦争になってぎりぎりな状態だったら他人のことも考えられなくなりそうで怖い。
  • 必要なものは結局お金で買えないものが多い。

難民という存在に関心を持った者、自分の現在の状態を深く掘り下げて考えた者、平和の大切さ、戦争の恐ろしさを痛感した者などが多数だった。新聞のニュースにもならない遠い世界のことが身近に感じられ、自分自身やその生活、家族とのかかわりなど見つめなおすきっかけになったようだ。いつもはワークショップが終わると一言二言の感想を書いて終わる生徒が多いが今回はじっくり自分に向かい合って熱心に記入する生徒が多かった。

最近難民問題が世界的話題になっているが、今は卒業して社会人や大学生となっている生徒たちがこの授業を思い出して、少しでも身近に深く感じてもらえればと願っている。

MIA(公益財団法人武蔵野市国際交流協会)での活動について

MIAの教員ワークショップには2007年以来ずっと参加しています。「学校と地域がつくる国際理解教育」をテーマに、月に一度、小・中・高校の教員を中心にNGOのスタッフなどとじっくりと話し合いながら授業づくりをしたり、授業実践を持ち寄ったり、気になる映画監督を呼んで話を聞くなどして活動しています。スリランカの方と本場のスリランカカリー作りをしたことも。世代は違っても同じ志を持つ仲間たちと支えあい励ましあって日々の実践への糧としています。

夏には「夏期教員ワークショップ」を開催。二日にわたって、様々なワークショップを行い、国際理解教育への理解を深め、地域の外国人やNGOスタッフと一緒に授業つくりをしたり、授業に役立つアクティビティの紹介をしたりしています。毎年全国各地からのべ約100人の方が集まります。企画・運営も教員スタッフが行っています。

MIAは市民主体の国際交流及び国際協力並びに在住外国人への支援を推進することにより、国際相互理解と地域の多文化共生を図り、もっと国際平和に寄与する開かれたまちづくりに貢献することを目的として、生活支援、コミュニケーション支援、多文化共生の地域づくりの3つの柱で事業を行っている団体です。武蔵境スイングビルに事務所があります。

関連リンク

MIAの先生方と連携して国際理解教育/開発教育に取り組む意義

日々の校務や部活動に追われ日々大過なく過ごすことに終始してしまいがちな私の教員生活ですが、開発教育と出会ったことで本当に深く広く可能性を広げてもらったと感謝しています。勤務校だけでなく、また東京だけでなく大阪や四国の先生方とも交流を持て、一緒に旅に出て教材を探したりすることも一度ならず。私の人生自体が豊かになったと感じています。教員は毎日生徒の前でアウトプットしています。努めて知識や経験をインプットする必要を感じます。そうして、私自身が多文化・異文化に親しんでいれば生徒たちにも自然と伝えられるのではないかと思います。

MIAで行ったワークショップについて

2014年7月に、MIA夏期教員研修ワークショップ(国際理解教育に関心のある都内小・中・高等学校の教員を対象とした一般公開ワークショップ)第3部【国際理解の視点からの「幸せ」へのアプローチ】にて、上記の内容と同様のワークショップを行いました。MIAでのWSでは高校生よりもより深く活発な振り返りができ、教材をより一層深く掘り下げて考えることができました。

日常の授業では50分単位でどうしてもアクティビティをこなすのに精一杯になってしまい振り返りに十分な時間を割くことが難しくなりがちですが、しっかり時間を取り、思いを言葉で共有することは大切だと再確認しました。子供たちが自分の意見をまとめ発信したり他の意見を受け止めたりする訓練として有用であると同時にそのようなコミュニケーションを通じてクラスメイト同士がよりお互いを理解するよい機会となると思います。

MIAやその他外部団体での活動を通じて得たもの、その教育現場での活用について

MIAでの活動を通じて、開発教育の基本概念を始めいろいろなWSの行い方やWSを行う際の注意点など学ぶことができました。校種、教科、年代を超えた交流によりそれぞれの興味関心が多様多岐に渡り、広い視野を持って教材と向き合える点がすばらしいと思います。特にMIAでは地域との連携を大切にしており、遠い国の遠い人々の話という印象になりがちな「国際理解教育」を地に足の着いた実践にしてくれます。例えば、あるメンバーは地元の小学校では武蔵境駅前の開発について国際理解教育の視点から考えるという授業を行いました。

また、たくさんのNPOとの出会いから実施できた授業がたくさんあります。前任の石神井高校では、文化祭の活動を通じてフィリピン支援のACTIONと連携し、孤児院の子供たちとビデオレターのやりとりをしました。その後個人的にACTIONの事務所を訪ねつながりのできた生徒もいました。

昨年はその年の夏期教員ワークショップで連携授業を行ったハンガーフリーワールドの「お手紙コンテスト」に授業で参加。生徒の一人が入賞するという思いがけない嬉しいおまけがつきました。

その他の支援組織の活用例

関わったNPO等はたくさんあります。JICAをはじめ、JOCA、ユニセフ、シャプラニール、ACE、フリーザチルドレンジャパン、ACTION、Ubdobe、地球のステージ、DEAR、ぴなっと、ハンガーフリーワールド…生徒を連れて見学に行ったり、元子供兵士の方の講演を聞いたり、ワークショップを行ったり、授業を一緒に作ったり、作文コンクールに参加したり、私自身研修もたくさんさせていただきました。「世界一大きな授業」にも毎年参加しています。これらの支援組織との出会いについては、MIAを通して知り合い、連携をするようになった団体も多いですが、自分でホームページで調べて申し込んだものや、登録している国際理解教育関係のメーリングリストから情報を得て参加したものなどもあります。また、毎年10月に行われるグローバルフェスタもおすすめです。各国大使館を始め外務省や国内の国際協力に携わるNPO、NGOが一堂に会しているので、手軽に教材収集や人脈つくりをすることができます。

連携組織とは違いますが、東京外国語大学多言語・多文化教育研究センターの「多文化社会論基礎講座」は多文化社会の一線で活躍する弁護士や医者、社会福祉士など各方面の専門家の方々の充実した講義を受ける四日間。大変インスパイアされました。ご紹介しておきます。

今後チャレンジしたいこと

現在、農業系の高校に在籍しているので、開発教育やESDと農業と英語を絡めた選択授業講座を計画しています。世界の食料事情や水、開発問題を学びながら、世界各国の農業について調べ、これからの日本の農業を担う「土に生くべき人」として持続可能な未来をどう作っていくか生徒と一緒に考える授業にしたいと思っています。来年度開講を目指しています。

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