JICA地球ひろば開発教育メルマガ 2016年1月号 第8号
開発教育/国際理解教育の授業実践事例をご紹介!
今月号の実践事例は、石川県かほく市立高松中学校 養護教諭 田中香先生です。田中先生は、今年の夏にサモア教師海外研修に参加されました。帰国後間もないにもかかわらず、すでにいくつもの学習活動を展開されています。
リンク先でご紹介するのは、養護教諭という立場で取り組まれている開発教育/国際理解教育の実践です。今回大きく二つの事例を紹介します。一つ目は、教師海外研修の派遣前から、帰国後の授業への理解と協力を依頼し、帰国後も自ら他の先生方に授業計画案を示すなど積極的に働きかけ、全校を巻き込んでいく実践の紹介です。二つ目は、養護教諭である田中先生が2年生の学級活動の授業で行った食育をテーマにした実践で、外部人材の活用やクイズを自ら作成し生徒たちを引き込む工夫をなされた授業の紹介です。二つの実践からそれぞれ多くのヒントがもらえることと思いますので、是非ご覧ください。
国際理解教育(開発教育)に対する思い
自分自身は国際協力に関心があったが、これまで生徒への国際理解教育の取り組みの機会はなかった。しかし、今年、教師海外研修に参加出来たことで、生徒とともに国際理解教育について学ぶことが出来た。生徒には、国際理解教育を通して、自校で行っている生徒会活動のエコキャップ運動(途上国にワクチンを送ろう)やPTA異文化交流会の意義を知り、主体的に参加して欲しいと思っている。また、身近に行われているかほく市の交流都市(ドイツのメスキルヒ)やジャパンテントのホームステイの受け入れ等に参加するなど、先ずは、いろいろな国の人たちと友達になりたいという気持が育つことを願っている。
実践の概要について
教師海外研修に関心はあったが、授業を担当していない養護教諭という立場で帰国後どのような形で授業が行えるのかが不安で躊躇していた。しかし、前年度の教師海外研修の報告会で小学校の養護教諭の実践をはじめ、他にもたくさんのヒントを得て、参加を決意した。
参加が決定してからは、事前に職員会議で参加することを知らせ、帰国後の実践授業への理解と協力を依頼し、帰国後は、サモア研修がいかに有意義だったかを同僚に伝え、なかなか話す時間のない同僚のためには「サモア研修日記」を作り見てもらった。
実践授業は、特別なことをするのではなく、日頃から取り組んでいる保健指導の内容に組み込んだり、道徳の国際協力の単元でGT(ゲストティーチャー)として参加したりできると考え、自分から授業計画案を示し、依頼して実践の場を作ることもあったが、同僚の先生自ら「ぜひ、英語の時間に!」と声をかけてくれることもあり、あっという間に全学年で実践できることになった。
とはいえ、各学年に単発で授業に入る形であったため、少しでも学びが深まり、印象に残るように、授業を行う時は、プレタシというサモアの民族衣装のドレスやウラ(首飾り)を身につけ、サモアの雰囲気を感じてもらえるように心がけた(1回目はとても恥ずかしかったが、それ以降は楽しんだ)。また、生徒には、サモアと日本の相違点に「なぜ」そうなのかという理由や、サモアの問題点だけでなくサモアの素晴らしいところもたくさんさを伝え、生徒が今の自分の生活を振り返り、自分なりの考えを持つことが出来るようになることを意識しながら取り組んだ。
実践後は保健室前に授業の内容や生徒の感想を載せたものを掲示して、授業内容を振り返り、他学年にも興味を持ってもらえるように工夫した。
全学年の実践事例
全学年
- 7月全校集会「世界に目を向けよう 行ってきますサモア」 サモア研修に参加することを伝える
- 9月全校集会「サモア行ってみたらこんなトコだった 予告編」2学期の実践授業の予告
各学年での授業に入る前に全校集会を活用してサモアについて紹介し、予備知識を持てるようにした。
1年生
- 道徳「真の国際貢献・協力について考えよう」(JICA国際協力出前講座を活用)
- 事前の打ち合わせをメールや電話で何度も行い、こちらのねらいに添った講座を開催してくれた。
- JICAの出前講座(世界の現状・国際協力の必要性について35分)の後、養護教諭がサモアで活躍する青年海外協力隊の活動を紹介するという流れで授業を行った。
- 国際協力、国際貢献など日本の国を超えた出来事については、生徒たちは頭でわかっていても、どこか他人事で実感として受け止められないことが多いが、実体験に基づいたJICAの方のお話は心に深く入っていくと思う。出前講座の時間は、35分と十分ではなかったが、サモアの体験談を入れることでより身近な話しとして受け入れられたと思う。
2年生
- 英語「Let's learn about Samoa」サモアの学校紹介 カードアクティビティ ALTとの発音練習
- 学級活動「サモアから学ぶ食生活」サモアの食生活問題を知り、自己の食生活を振り返る
3年生
- 総合「国際理解 サモアについて学ぼう」サモアの生活の様子や学校紹介、民族衣装の体験
特別支援学級
- 学級活動「サモアっ子と一緒に歯みがきしよう!」
- サモアでの歯みがき教室DVD視聴 歯の染め出し
文化祭でのサモアコーナーの設置
全学年の実践授業を終えて
全職員の理解と協力のおかげで実践授業を終えることができ感謝している。今回視察したサモアの青年海外協力隊員の活動内容は、養護教諭として取り組む保健指導の内容に重なる点も多く、また、海外研修の中で行ったサモアの小学校での歯みがき指導の経験も、実践授業に大いに活かすことができた。
生徒の反応
保健室の先生が「海外研修?英語?国際協力?」と保健指導以外について話をする事や、実践中にラグビーワールドカップで「日本vsサモア」戦もあり、多くの生徒がサモアの国や人々に興味関心を持った。
「Talofa~(サモア語でこんにちは)」と挨拶してくれる生徒や、会話の幅が広がる等、良い意味で生徒との距離が近くなり、生徒理解にも役立っている。
毎回の授業後に振り返り(感想)を書いてもらった。感想にはサモアの良さを認めた上でのアドバイスや、自分の生活を振り返り、改善したいことや今後、挑戦してみたいことなどが多く書かれていた。
3年生の総合の国際理解で行った「サモアに行ってみたらホントはこんなトコだった 全編」の感想で、私が心に残ったものを紹介したい。
- 私はサモアについてどこにあるかも、どんな国かもわからなかったけど、サモアは日本と違うところがたくさんあることがわかりました。例えば、壁がないとか、教会がたくさんあるとか、学校の違いなどがよくわかりました。しかも、サモアの学校では仲間はずれがないので、高中(高松中学校)のいじめ0の目標となる国だと思いました。でも、病院が少ないことは問題だと思いました。
食育をテーマにした実践事例の紹介【サモアから学ぶ食生活】
平成27年10月6日(火)第6限
場所 2年3組教室
指導者 寺西 千洋、田中 香
1、生徒の実態
本校ではこれまで「食べることは生きること」をスローガンにして食育を進めてきた。まず給食の残量をゼロにしようと取り組みをはじめ、成長期にある自分たちの食事の大切さを理解させながら残食がほとんど出ない状態を続けてきている。また、食育講座として講師を招待し、自分たちの健康やスポーツ活動への効果などの視点から栄養についての知識も得てきている。さらに保健の学習で、現在自分たちが発育急進期にあり、食事でとる栄養が自分たちの発育・発達に大きく関与していることも理解している。
しかしながら残量ゼロとはいえ個別に見てみると、友達に自分の苦手なおかずを分けるなど好き嫌いがある生徒も多く、必ずしも全員がすべての給食を適切に食べているとはいえない。またインスタント食品やファーストフード、スナック菓子なども好きで、食べる機会が多いようである。
2、題材設定の理由
サモアの国民の8割が肥満であり、多くの人が様々な生活習慣病(糖尿病、高血圧、脳梗塞、心筋梗塞等)を持っている。肥満の主要原因に食生活の変化がある。サモアの昔ながらの食事は、タロイモ、ヤムイモを主食とし、それに魚と少しの肉、豊富なフルーツだったが、経済発展するにつれて、外国の食文化が入ってきた。「病気を予防する」という概念や保健知識が十分でないサモアの人々は安くておいしい外国の食文化を受け入れた。その結果、昔ながらの食文化が崩れ、砂糖、脂質の取りすぎにより肥満大国となった。
一方で、日本の生徒達は、適切な食生活や栄養摂取が健康の保持・増進の上で非常に大切な意味を持っていることは理解しているが、自分たちには関係ないことと捉えていたり、まだ大丈夫と考えていたりする生徒が多いのが現状である。しかしながら、食習慣が悪ければ若年齢であっても不健康になる例は数多くあり、そのまま継続していれば深刻な生活習慣病の症状が発生するであろうことは確実であると考えられる。今の時点から健康に関して意識を高め、健康的な食習慣を身につけておくことは将来のために非常に有益であると考え、この題材を設定した。
肥満大国サモアの食生活の問題点を取り上げ、自分の食生活と比較することで、日本もサモアも同じような問題点があることに気づき、健康的な食習慣について自分なりの考えが持てると考え、テーマを「サモアから学ぶ食生活」とした。
3、指導のねらい
- 自分の身体の健康について関心を持ち、健康の保持・増進を実践しようとする態度を育てる。
- 自分の現在の食生活を見直し、健康的な食習慣について自分ができることを考えさせる。
4、 本時の活動
(1)ねらい
健康について関心を持ち、食生活について自分なりの考えを持つことができる。(思考・判断・表現)
(2)準備・資料等
大型テレビ、パソコン(パワーポイント)、掲示物、ワークシート
(3)本時の展開
1.サモアの国のイメージを質問する。(導入・5分)
- 指導上の留意点
-
- どんな国か、どんな暮らしぶりか。
- 貧困で、栄養状態が悪く、やせた人が多いイメージを導き出す。
2.田中教諭からサモアの食生活の話をする。(展開1・10分)
- 指導上の留意点
-
- サモアの伝統食や食生活の問題点(間食の回数や量が多い、肉中心で野菜が少ない、インスタントラーメンや炭酸飲料が大好き等)を写真(筆者撮影)を使ったり、クイズ形式で問いかけたりしながら、楽しい雰囲気で進め、活発に意見交流できるようにする。
- 資料
-
- パワーポイントで提示後、クイズの解説のスライドを黒板掲示
3.自分たちの食生活について個人で振り返る。(展開2・12分)
- 指導上の留意点
-
- 周りと相談せず、まずは自分の意見を書かせる。
- 資料
-
- ワークシート(サモアの食生活と比較できるようにしたもの)
4.個人で考えた意見を持ち寄って班で意見を集約する。(展開2)
- 指導上の留意点
-
- 司会、記録者、発表者を決め、スムーズに進行できるようにする。
- 出た意見を否定的に聞かず、すべての意見を受容するよう指導する。
5.班の意見を発表する。(展開2・5分)
- 指導上の留意点
-
- 自分の意見や自分の班の意見と比較しながら聞くよう促す。
- 資料
-
- まとめ用ワークシート
6.田中教諭から日本の肥満等の状況の話をする。(展開3・3分)
- 指導上の留意点
-
- 日本の中学生の肥満の推移(学校保健統計調査)、死亡順位2014年度(人口動態統計の年間推移)のデータを示し、日本にも同じような問題があることを知る。
- 資料
-
- パワーポイント
7.特別講師(管理栄養士)から、「バランスの良い食事」のお話を聞く。(まとめ・15分)
- 指導上の留意点
-
- しっかり集中して聞く態度をつくる。
- 日本の食文化の良さを知る。
- 資料
-
- 「まごわやさしい」のプリント
8.まとめと感想を書く。
- 評価の視点
- 健康について関心を持ち、食生活について自分なりの考えを持つことができる。…ワークシート(思考・判断・表現)
- 資料
-
- ワークシート
(4)板書計画
学習の様子
実践にあたって
学級担任と養護教諭、お互いの特性を生かし授業を行うことにした。
また、生徒が専門的な知識や日本の食文化の良さを学び、今後の食習慣についての考えを深めるために、「特別講師」として栄養士という外部人材を活用することにした。
指導内容はサモアの肥満の原因はたくさんあるが、生徒自身の食生活習慣を振り返らせるため、今回は食生活に焦点を絞った。
生徒の授業中の様子
和気あいあいとした雰囲気のなかでグループでの意見交換も活発に行われ、お互いの意見を聴き合っていた。
担任、養護教諭、管理栄養士とのTT(ティーム・ティーチング)で行うことで、授業に流れと変化があり、興味関心を持って話を聞いたり、グループ活動を行ったりすることができた。
生徒の感想から
- 家での食事を振り返ってみると、母やばあちゃんは、そういう栄養バランスを考えて作っているということがわかりました。でも、最近、間食が多いので直していかねばならないと思いました。
- サモアの食事を見て、日本で太ると言われているものばかりだったのでビックリしました。最初は貧しくてフルーツや野菜などが多く、細い人が多いのかと思っていたので意外でした。でも、食の好みは日本もサモアもあまり変わらなかったので見直していきたいと思います。
- サモアだけを見ると悪い食生活だなと思うけど、日本と比べてみると日本も誇れる食生活ではないことが分かった。日本もサモアと同じくらい悪いところ、いいところがあるから、いいところをもっと増やせるようになったらいいと思った。「まごわやさしい」(豆類・ごま・わかめなど海藻類・野菜・魚・しいたけなどきのこ類・いも類)に気をつけてこれからの食生活をもっとよりよくしたい。
実践を終えて
生徒の多くは、途上国=栄養失調・痩せているというイメージがあり、サモアの国の大きな健康問題が国民の8割以上が肥満であるということに驚いていた。
サモアの肥満の問題は、生徒から見れば遠い国の出来事であるが、実際にサモアの食生活と自分たちの食生活を比べてみるとファーストフードや炭酸飲料が好き、野菜をあまり食べない等同じ問題があることに気付いた。
サモアの肥満を引き合いに出すことで、学級の友達や学校の生徒ではないので、考えやすかったとも思われる。
そして、栄養士からバランスの良い食事「まごわやさしい」(昔ながらの日本食)の話を聞くことで、日本の食文化の素晴らしさにも気づき、健康的な食習慣について自分なりに考える事ができたと思われる。
課題
個人で考えた自分の食生活の意見を、班の意見としてまとめるには難しく、話し合いの時間も十分ではなかった。しかし、生徒の振り返りには、自分の食生活における問題点に気づき、見直していきたというものが多くあり、少し安心した。
思春期の食生活においては、肥満等の生活習慣病の予防とともに、今後は、貧血、女子の痩せすぎ等の問題から、思春期特有の食育にも取り組む必要がある。
参考資料
JICA北陸 教師海外研修報告書
愛知県国際交流協会の教材「私たちの地球と未来」
JICA国際理解教育実践資料集
今後チャレンジしたいこと
生徒会の取り組み「エコキャップ運動(途上国にワクチンを送ろう)」に積極的に関わって行きたい。また、保健室前の掲示板を利用し世界の現状について情報発信していきたい。
今後、スタディーツアー等で途上国を訪問し、自分が見た途上国の現状を直接、生徒に伝えたい。
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