JICA地球ひろば開発教育メルマガ 2016年3月号 第9号

開発教育/国際理解教育の授業実践事例をご紹介!

今月号の実践事例は、宮城県利府町立青山小学校 片平恵先生です。片平先生は、2004年にモンゴル教師海外研修に参加され、その後ご自身の取り組みを世界でも実践されてきました。

リンク先でご紹介するのは、『あなたの大切なものはなんですか?』というテーマの、自分の大切なものを絵に描いて共有するという実践です。前半部分では、主に日本の小学校での取り組みをご紹介します。実践概要や授業の様子はもちろんのこと、子供たちが「自分の大切なもの」を再認識すると共に、「世界中の人たちの大切なもの」も大切にしようと考えるようになる片平先生の実践の工夫にもご注目ください。後半部分では、同実践を他校種や世界各国で行った様子をご紹介いたします。外国の参加者の「大切なもの」に対する考えや、実践の感想なども先生方の参考になることと思います。是非ご覧ください。

開発教育/国際理解教育への思い

伝えること、広げること、そして、繋げていくこと。それが、私が子どもたちの前に立つ時、いつも大切にしていることである。教師が伝えることによって子どもたちの世界への扉が開き、子どもたちは興味をもってどんどん調べ始める。調べていくうちに、疑問や考えをもつようになり、自分のできることは何か、どう生きるべきかを真剣に考えるようになる。国名を聞いた時、場所や国旗を思うのではなく、そこに住む"人"に思いを寄せてほしい。いつもそう願いながら、子どもたちと一緒に授業を作り上げている。

実践の概要

授業のテーマ『あなたの大切なものはなんですか?』

これは、"本当に大切なものってなんだろう?"ということを、子どもたちに少し立ち止まって考えてほしいと思い、企画した授業である。きっかけは、小学校4年生の国語の教科書に載っていた、ある物語だった。アフガニスタンの小さな村に住む少年の一日を綴った物語を学習するにあたって、どうしたらこの物語の根底にあるテーマを深く考えさせることができるだろう、どうしたら学習を終えた後も子どもたちの心の中に、普遍的なテーマを残すことができるだろう…と、考え続けた。そうして生まれたのが、この授業だった。

自分の大切なものの絵を描き、その理由を伝え合うというシンプルな流れでありながら、一人一人が自己を深く見つめ、他者の思いに心を寄せる様子にこの授業の可能性を感じ、"大切なもの"には人と人とを結び付けていく大きな力があると、確信している。

当時担任していた小学校4年生に授業をした後は、平成16年度教師海外研修で出会い、同じ志をもつ高橋芳江さん(元小学校教諭)と共に、様々な国や地域で出前授業を行ってきた。そして、それぞれの地域の子どもたちの"大切なもの"を他の授業の中で紹介したり、感想をシェアし合ったりしている。世界中の人たちを"大切なもの"で繋げていくこと。それが私達のライフワークであり、大きな夢でもある。

これまでの『あなたの大切なものはなんですか?』に関する主な実践

担任するクラスでは毎年行っているが、それ以外にはこれまでに、以下のような実践を行った。海外での実践は、国際交流関係のイベント等で知り合った方々に活動の趣旨を説明し授業の場を提供していただいたり、共に国際理解教育を推進している仲間の紹介で訪問が実現したりして、年に1回程度授業する機会を得ている。

年・月 場所 対象者 備考
2010年8月 クロアチア 小中学生、学生、大人 国際教育プロジェクトに参加
2011年7月 シンガポール 小学生 学校訪問
2012年8月 オーストラリア 小・中・高校生 被災地生徒交流事業引率・学校訪問
2013年1月 バングラデシュ 施設内児童 ストリートチルドレン支援施設訪問
2013年8月 ポーランド 学生、大人 現地日本語学校訪問・交流
2013年11月
2014年2月
利府町内土曜教室 小学生
町民
ワークショップ講師
町役場エントランスに各国の絵を展示
2013年12月 宮城県内私立高校 高校生 選択コース受講生徒、留学生へ出前授業
2014年8月 アメリカ 大人 ホームステイ先で元教員向けワークショップ
2014年12月 宮城県内私立大学 大学生 選択コース受講学生へ出前授業
2015年5月 東ティモール 高校生 学校訪問

*その他、県内教職員向けの国際理解講座にて数回実施。また、教育系大学の教員志望学生対象に、授業作り講座の中でも実施した。

授業の流れ(略案例)

国際理解ワークショップ 授業案 テーマ『あなたの大切なものは何ですか?』(国際理解・平和教育)

授業者:片平恵
日本で実施する場合はT1、T2の部分を1人で進め、海外で実施する場合は高橋氏がT1、片平がT2の部分を行う。

導入(10分)

*授業者の自己紹介

1 ゲームをする。
留意点
  • YES/NOアンケートやペア手遊び等で雰囲気を和らげ、話しやすい雰囲気を作る。
T1
  • 自己紹介をする。
  • 一緒にゲームに参加して楽しむ。
T2
  • 自己紹介をする。
  • ゲームの説明をする。
  • ゲームを進行する。
準備物他
  • ネームカード

展開(60分)

2 自分の"大切なもの"について発表する。
留意点
  • 数名を指名し、発表してもらう。
  • 理由はこの段階では問わない。
T1
  • 数名を指名する。
T2
  • 大切なものは何かを問いかける。
3 大切なものの絵を描く。『あなたの大切なものは何ですか?』
留意点
  • 自分の大切なものをひとつ選び、その絵を描くよう話す。
T1
  • 様子を見ながら子どもたちに声掛けをする。
T2
  • 様子を見ながら子どもたちに声掛けをする。
準備物他
  • 授業のテーマを書いた用紙
  • 画用紙
  • クレヨン
  • クレパス
  • カラーペンなど
4 何の絵を描いたかについて発表する。
留意点
  • 理由も説明させる。
  • それぞれが描いた絵について、自由に質問したり話し合ったりさせる。
  • 全体で共有し合う。
T1
  • 子どもたちの輪の中に入り、絵の紹介を聞く。
T2
  • 教室内を自由に歩き回り、互いに絵と理由を紹介し合うよう話す。
  • 子どもたちの輪の中に入り、絵の紹介を聞く。
  • 数名を指名し、絵の紹介をさせる。
5 絵本の読み聞かせを聞く。
留意点
  • 「せかいいちうつくしいぼくの村」(小林豊著・ポプラ社)の読み聞かせをする。
  • ゆっくりと、様子がよく伝わるように読む。
T1
  • 絵本の紹介をする。(簡単に)
  • 読み聞かせをする。
T2
  • 絵本の絵の一部をスライドで投影し、内容をより理解しやすくする。
準備物他
  • 絵本
  • スライド

終末(10分)

6 今日の授業の感想を書く。
留意点
  • 今日の授業を受けてみての感想を自由に書かせる。
  • 感想を発表させる。
T1
  • 感想用紙を配る。
  • 数名を指名し、発表させる。
T2
  • 授業の感想を書くよう指示する。
  • 終わりの挨拶をする。
準備物他
  • 感想用紙
  • 授業後、子どもたちの絵を展示する。同時に他国や他の学校の子どもたちが描いた絵も並べて展示する。
  • 参観した大人がいる場合は授業後にディスカッションを行う。(今日の授業、平和教育、子どもたちが描いた絵について等フリーで)
  • 海外で授業する際は英語で行う。英語が通じないときは、現地の方に通訳を依頼する。

(注)上記授業案は一例であり、実施国や授業対象者の実態、実施時期等を考慮し、授業の流れを組み立て直して実施している。また、5で扱う物語についてもその都度高橋氏と相談し、より効果的なものを選択して読み聞かせをしている。(例:東日本大震災後の授業では、震災後のエピソードを交えて話をした。)

授業の様子

*以下は、小学校4年生の国語の教科書に掲載されている「せかいいちうつくしいぼくの村」という物語の学習の導入として実施した、『あなたの大切なものは何ですか?』の授業の様子である。

自分にとって大切なものを絵に表すように話したところ、初めは戸惑っている児童も多かった。また、それまでの経験やエピソードを思い出し、「"もの"じゃなくてもいいんですか?」と質問する児童もいた。複数の中から1つを決めることが難しい児童もいたが、最終的には大切だと思う理由を比べて選択していた。全体的には、「ゲーム」「ぬいぐるみ」「家族」などの絵が多く見られた。

絵を見せ合うシェアリングタイムでは、教師が指示しなくても選んだ理由を聞き合うなど意欲的で、仲の良い友達以外のクラスメートとも会話が弾む様子が見られた。また、自分と同じものを選んだ子を見付けると喜んで握手したり、違うものを描いた絵を見て積極的に質問したりする姿も見られた。

最後に絵本の読み聞かせをすると、前半の楽しくはしゃいだ雰囲気とは一転し、深く考え込む姿が見られた。物語の最終ページの言葉に衝撃を受け、今まで考えたこともなかったことに思いを巡らせながら揺れる心情が、授業の感想文によく表れている。"自分にとって大切なものってなんだろう?"、"大切なものがなくなってしまうってどういうことだろう?"と、授業後もクラス内や家庭で折に触れて話題にしていた。

工夫したこと

  • 授業の最初の段階では教科書の物語についてはあえて触れず、"自分の大切なもの"のみにスポットを当てて考えさせるようにした。
  • 絵を描く時間を十分に確保し、一人一人の児童がじっくりと考えることができるよう配慮した。
  • シェアリングタイムは、自他の違いや同じところに気付き、理解を深め、互いの考えを受け入れようとする態度を育てるために設定した。また、絵を用いながら考えを交流する方法は、普段は話す機会が少ない関係であっても話しやすいという利点があり、他の授業でも活用している。
  • 授業の展開方法を、児童の思考の流れに沿って組み立てた。最後に物語を聞くことで、児童の意識が身近なこと(授業前半部分)から知らなかった世界(授業後半部分)へと転換し、"大切なもの"に対しての考えを改めて深め続けながらオープンエンドとなる。ここに、最後に読み聞かせをする大きなねらいがある。

児童の感想(抜粋)

  • 大切なものは何個かじゃなくて、世界中にたくさんあるんだなと初めて知りました。別にものじゃなくてもいいんだな、と思いました。
  • みんな一人一人大切なものは違うけど、みんな同じように大切にしているんだなぁ〜と思いました。
  • 私はいつも気楽に暮らしていたけど、考えてみると大切だと思っていたものでもどんなに大切なのか、もう一度考えてみました。
  • 私は今日の授業で思ったことが2つあります。1つ目は大切なものって何か?です。2つ目は「日本と違う環境」です。戦争はするものじゃない、と改めて思いました。
  • 大切なものをなくしたことを思い出して、もしあの本の子のように今大切なものがなくなったらどんな気持ちだろうと想像しました。ぼくの大切なものはプラモデルを描いたけど、でも、この授業の中で思ったけど、本当にプラモデルなんかが大切なのかなと思いました。
  • ぼくの大切なものはプラモデルを描いたけど、でも、この授業の中で思ったけど、本当にプラモデルなんかが大切なのかなと思いました。

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児童の変容と要因

  • ニュースで見聞きしたことをスピーチの時間に発表したり、自主勉強で調べてきたりするようになった。その要因として、授業で扱った物語の背景に興味をもち、知らなかったことを知ろうとする意欲が生まれたことが考えられる。
  • 家庭での話題の中に他の国の話が増え、親子で話し合うようになった。
  • 学習意欲が高まり、児童の強い要望を受け、『世界を知ろう』コーナーを設置することになった。また、募金活動にも積極的になった。
  • 互いの違いを"あたりまえのこと"と受け止める場面が増え、普段の言動に共感性や寛容性が見られるようになった。大切なものを話し合った経験が、相手の気持ちに思いを寄せる態度の育成に良い影響を与えたと考えられる。

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実践を通しての自分自身の変化・気付き

授業後の子どもたちの変容を見て、別のクラスや学校、他国で同じ流れで授業を行ったとしたら、児童はどんな絵を描き、どんなことを理由として挙げるのだろうと想像するようになった。そして、その国の歴史や背景、環境や文化の違い等を、絵を通じて子どもたちに伝えることができるのではないかと考えた。また、自分とは違う環境に生きる人々の"大切なもの"を授業の中で伝え続けることで人々の心を繋ぎ、共に生きようとする態度や平和を希求する心を育てることができるのではないか、と考えた。以来、毎年実践の場を広げているが、授業を行うたびにその地に生きる人々の思いに触れ、実に多くの考え方や生き方の多様性に気付かされている。"大切なもの"の授業は、皆が"共に生きていく上での大切なもの"を伝え広げる授業であると同時に、自分自身の生き方をも考え続けることができる授業だと思っている。

課題

  • 絵を描き終えるまでの時間には個人差がある。授業時間内で早く描き終えた児童をどう待たせるかや、なかなか描き終えることができない(描くことができない)児童にどう声掛けをしていくのかが課題である。
  • 児童の実態や置かれている状況、実施する時期を十分に考慮した上で、最後に読み聞かせる物語やエピソードを吟味する必要がある。

大切なものを描く授業に込めた思い

大切なものの絵を描くという取り組みを、日本だけではなく海外でも実施してきた。それには、次のような思いがある。

"What is the most important thing for you ?"

きっかけは、国語の教科書に載っていた、ある物語でした。アフガニスタンに住む一人の少年の何気ない日常が描かれたその物語には、たくさんのメッセージがあふれていました。どうしたら子どもたち一人ひとりが、このメッセージを自分のものとして受け取ることができるだろう…?迷った挙句に考え付いたのが、授業の導入に絵を描いて話し合うということでした。
『みんなの大切なものの絵を描いてみて!』 「えぇ〜っ!なんだろう?」 「迷っちゃうなぁ…」
それが、利府小学校4年生との、初めての「大切なもの」の授業でした。

『あなたの一番大切なものは、なんですか?』 そう問いかけると、初めはみんな、困った顔をします。画用紙を前にしてずっと悩み、なかなか描けない子もいます。でも、クレヨンやペンを持ってひとたび描き始めると、本当にいきいきと、あっという間に自分の思いを表現していくのです。そして、出来上がった絵の説明をしたり、他の人のエピソードを聞いたりする時のうれしそうな笑顔は、いつも教室中を幸せな雰囲気でいっぱいにします。個々が持つ「大切なもの」の存在が、どれだけその人を支えているのかを、授業をするたびに実感しています。

友人と一緒に他国の学校や施設を訪ね、出前授業をする活動を続けて4年。これまでに5ヶ国の教室で絵を描いてもらいながら、大切なものについて話し合ってきました。そして、持ち帰った絵を日本の子どもたちに紹介しています。「りふ・わくわく教室」の子どもたちも、とても楽しそうに絵を描いてくれました。他の国の子どもたちの絵を見て、「遠い国の子だけど、ぼくと同じだね。」とつぶやいていた男の子もいます。

人はそれぞれみんな、大切なものをもって生きている。あなたがだれかを大切に思っているように、私もきっとだれかの大切な存在なんだ。そう考えると、この世の中は大切なものであふれていることに気が付きます。傷付けたり粗末にしたりしていいものなんて、決してないんだってことに気付いた時、私たちは、自分と同じように相手のことも、もっともっと大切にしようと思うのではないでしょうか。世界中にあたたかい想いがいっぱいに広がれば、何かが変わっていくのかもしれません。
日本と世界の教室を、そして子どもたちをつないでいきたい。それが私たちの願いであり、大きな夢です。

平成26年2月17日
片平 恵(現青山小学校)

※本メッセージは、宮城県利府町内の小学生対象に実施した授業(後述)の後に、同町役場にて子供たちの描いた大切なものの絵とともに掲示した。

その他の授業の様子

ここでは、担任するクラス以外での授業について報告をする。前述した実践の中から、宮城県内の私立高校生、利府町内の小学生対象に実施した授業の様子を紹介する。(オーストラリア、ポーランドの実践については、PDF参照)

日本・宮城県内:私立高校 国際理解教育選択クラス

ポーランドの古都クラコフにある日本語学校とは、東日本大震災後、この私立高校に励ましの手紙を送ったことが縁で交流を続けている。今回、ポーランドの学生が短期留学でこの高校を訪れていることもあり、日本の生徒と一緒に"大切なもの"の授業を受けてもらう機会を得た。

  • 大切だと考えるものは、「家族」「愛」「ぬいぐるみ」「命」「夢」など、バラエティに富んだ考えが多く、生徒同士が楽しそうに聞き合ったり質問し合ったりする姿が見られた。
  • シェアリングする場面では、日本の生徒とポーランドからの留学生が照れながらも楽しそうに話す場面が見られた。自分の大切なものについて話し合う中で、より互いを理解し合うことができたようだ。
  • 最後の読み聞かせの部分は、ポーランドを訪れた際に現地の方から聞いた実話を、パワーポイントにして朗読した。とても感動的な話で、留学生は感慨深い様子で聞いていた。また、日本の生徒にとっては相手の国の歴史や心情を理解するためのよい機会になったと考える。

生徒の感想(抜粋)

原文のまま記載

  • いろんな人がいればいろんな人それぞれの大切なものがあるのだと気付くことができました。愛が大切だと答える人が多くいて、これが世界中に広がれば平和につながるのかなと思いました。自分の一番大切なものは何かなんて、このような授業を受けなければ考えないので、今回授業を受けてとてもよかったです。ありがとうございました。
  • それぞれの"大切なもの"は人によって違いますが、一人一人が大切にしているものを失うことがないように願っています。私も、今周りにある全てのものに感謝し、大切に生きていきたいです。 W・M
  • 友達やポーランドの仲間と話してみて、みんなの大切なものは身の回りのものや人が多く見られました。身近にあってあたりまえかもしれないけど、いざ何が大切?と聞かれると、その身近なものが一番大切なんだと改めて気付かされました。また、自分と同じものを描いていたポーランドの子がいて、すごく嬉しかったです。国を超えて、考えていることや感じていることが同じなんだなあと感じました。
  • I think it's really important to tell others about precious thing. Everyone have something they love or take care of. But sometimes they can't remember about that. It's important to remind them that although we look different、 speak different language、 we are the same、 feelings、 thoughts… I'm happy that those kinds of lessons are actually made. They can really help us. Thank you so much!! OLGA
  • 「自分にとって大切なものと、他人にとって大切なものを理解することで、みんながお互いの大事なものを大切にするだろう」という最後の先生の言葉に、とても共感しました。これからも大切にしていきたいです。 S・M

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宮城県利府町:小学生向け土曜教室

宮城県利府町では、町主催で小学生向けの土曜教室を年に数回行っている。その中でワークショップを行う機会を得たので、町内の2つの教室で「大切なものはなんですか」の授業を行った。

  • 小学校低学年が中心の教室だったが、自分の大切なものを一所懸命思い浮かべながら描いていた。また、町教育委員会の職員も活動に入り、真剣に自分の大切なものについて考えていた。
  • 今回は読み聞かせの場面で、これまでに行ってきた他国での「大切なもの」の授業の様子を動画や写真を用いて見せた。子どもたちは、日本から遠く離れている場所でも自分たちと同じものを大切だと考えている子がいることに驚きと喜びを感じ、その国を身近に感じているようだった。
  • 自分の描いた絵を私に託し、世界中の子どもたちに見せて広めてほしい、という意見が出た。子どもたちの世界に向けた目が、大きく広がった瞬間だったと感じる。

児童の感想(抜粋)

原文のまま記載

  • 他の国の人たちも大切なものを持っていて、すてきだな、と思いました。絵がとても大切に描けていました。 G・M(小3)
  • 世界の人たちの大切なものが分かってうれしかったです。大切なものを話すとき、みんな笑顔でした。でも今、私は不思議だと思うことがあります。それなのになぜ戦争をするか、です。 S・K(小6)
  • いろんな人が自分の宝物をもっているんだなと思いました。楽しかったです。またやりたい。 G・K(小2)
  • 今まで考えてなかったけど、大切なことはたくさんあるんだと思いました。ちがう国でも大切なものが同じだったりちがったり、「家族」や「友達」、「周りの環境」などいろいろあったけど、みんな「大切なもの」をもっていることが分かりました。 G・A(小4)

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なお、この授業で描いた子どもたちの絵は、これまでに訪れた様々な国の子どもたちが描いた絵と一緒に、後日、町役場のエントランスホールに展示した。利府町民のみならず、多くの方々に見ていただくことができ、たくさんの"大切なもの"が役場を訪れた人々の心を温かくした。

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"大切なもの"の今後

つい先日の話である。利府町の土曜教室に参加してくださった、Hさんという保護者の方から声を掛けられた。「先生、あの絵を描く授業、すごく心に響きました。あんなに一生懸命絵を描いて、いろいろ考えたのは初めてだったんです。本か何かにならないんですか?」その方は、2年も前のことをとてもよく覚えていて、嬉しそうに話してくださった。

また、4年生の授業で【あなたが世界を変える日:セヴァン・カリス=スズキ著】を扱った際、1人の女の子が「国連でいろんな国の大切なものを紹介したら、戦争がなくなるんじゃない?私達みんなで訴えに行こうよ!」と提案、その後クラス中が大いに盛り上がり、どうしたらいいのか調べ始めたこともあった。そして、「いつか必ず実現させよう!」と、皆で約束した。

"大切なもの"を通してその国のことを知り、その国の人を知る。このことは、肌の色や習慣、考え方、住んでいる場所や環境は違っていても、だれもがみんな大切なものをもっていることを、与えられた知識ではなく、自分自身の心で理解することにつながる。また、いつも近くにいたけれどあまり知らなかった友達や家族などの身近な存在に改めて目を向けることで、相手を理解したい、もっと知りたいと思う気持ちも生まれる。

「みんなの大切なものをみんなで守っていこう」という気持ちが広がれば、たとえ今は対立している間柄だとしても、必ず分かり合えるはず。私がそう信じているのは、そういう子どもたちの姿を、この授業を通してずっと感じてきたからなのだ。

  • 教員のみならず、多くの賛同者を募り、共に様々な国や地域の大切なものを集め、世界中に発信していくこと
  • この授業を受けた子どもたちや大人たちが、世界中から集めた絵を持って考えを発表する機会を設けること(スピーチ、書籍化等)
  • 全ての"大切なもの"の声を、『大切なもの・平和宣言』として世界中に届け、平和な世界を構築、実現する大きなきっかけにすること

以上は、これまでにこの授業を受けた児童、生徒、大人達の声から生まれた『"大切なもの"の今後』である。たくさんの人々の笑顔と声に背中を押されながら、少しずつ繋がっていく"大切なもの"。毎年教室で出会う日本の子どもたちや、これから訪れる国や地域の様々な世代の人たちに、伝えること、広げること、繋げていくことが、私の生きがいであり、役割だと思っている。そしていつの日か必ず、この大きな希望を実現させていきたいと強く思う。

国際理解教育において今後チャレンジしていきたいこと

  • 現在、利府町教育研究会国際理解教育部会において部長を務め、年に数回の研修会を企画しているので、今後も普段の授業に生かすことができる効果的なワークショップや授業案を開発し、発信していきたい。
  • 小学校での総合的な学習はもちろん、その他の様々な教科の授業の中に"国際理解教育のエッセンス"を取り入れていくカリキュラムを構築したい。その際、各教科のねらいや目標をしっかり把握し、それを達成させることは必須条件となる。"無理なく計画的かつ継続的に"実施していきたい。

JICA東北HPにおける海外での授業報告の掲載、新聞への掲載等

今回紹介した授業の他にも、クロアチア、バングラデシュでの授業の様子について、JICA東北のHP(以下のサイト)で報告をしている。

なお、これまでにクロアチア現地新聞(ザダルスキーリスト)、宮城県の地方紙(河北新報)、メルボルン地元紙、訪問先の学校だより等に交流授業の様子が掲載されている。

JICAほか、支援組織の活用例

JICA東北教師海外研修:
平成16年度モンゴル研修に参加。
JICA東北教師海外研修ファシリテーター:
平成27年度に参加教員のファシリテーターとして同行。
JICA国際協力出前講座:
小学校6年生対象の社会科の授業として毎年実施。6年生担任ではない年は、コーディネーターとして授業を企画している。卒業を間近に控えた児童達が今後の生き方を考えるきっかけとして、大きな効果を上げている。
JICE国際理解教室:
留学生を招いて異文化理解の授業を実施。体験的な学習を展開することができた。
地球のステージ:
地域住民向けの国際理解イベントを企画、開催し、その中で実施した。様々な年代の人々が鑑賞し、国際理解教育の必要性を多くの人々に広めることができた。
宮城県国際化協会国際理解教室:
留学生を招いて高学年向けの異文化理解の授業を実施。外国の人たちと直接触れあうことで国の垣根を越えて人として交流する喜びを感じ、世界を身近に感じることができた。
世界一大きな授業への参加:
教育の大切さについて考えることのできる授業として、高学年を中心に毎年参加している。また、授業参観日に行うことで保護者の興味も喚起することができた。

*その他、日本人学校教諭経験者、地域在住の外国人の方、地元大学の留学生、ユニセフ、DEAR、シャプラニール、町の国際交流協会等を活用し、授業や教員向けの研修会を実施しています。

先生・生徒のお役立ちサイト