2009年度 草の根調査団現地レポート

JICA草の根技術協力事業は、日本のNGO、大学、地方自治体、および公益法人の団体がこれまで培ってきた経験や技術を活かして企画した途上国への協力活動を、JICAが支援し、共同で実施する事業です。

今回は、JICA北陸で草の根技術協力事業を担当している北村哲郎(市民参加協力調整員)が、3月に北陸の団体が実施している活動『中国内モンゴル自治区アラシャン盟(県)における包括的貧困遊牧民の生活支援と地域教育を通じた砂漠化防止事業(パートナー型・2007年4月〜2010年3月)』のため、中国を訪問し、プロジェクト目標の達成状況を確認してきました。多くの関係者との意見交換を通じて見えてきた活動現場の様子を報告してもらいます。

JICA草の根技術協力事業 in 中国(内モンゴル自治区)視察報告

JICA北陸支部のスタッフが、2010年3月に北陸の団体が実施している草の根協力の活動現場(中国)を訪問しました。

石川県のNPO法人世界の砂漠を緑で包む会(以下「包む会」)は、中国内陸部で進行する「砂漠化」を防止するため、その原因の一つである「放牧」を減らすことを目標とした中国政府による「遊牧」から「定牧」へ、「定牧」から「農牧」への転換政策によって生み出された「貧困農牧民」の現金収入の向上を目指した活動をJICAと共同で2005年から実施しています。

今回は2007年から3年計画により実施されたプロジェクト「包括的貧困遊牧民の生活支援と地域住民の環境教育を通じた砂漠化防止事業」の目標達成状況と今後も現地での活動が持続するかどうかの「自立発展性」の確認のための視察も同時に実施しました。

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アラシャン盟の入り口

3月26日に北京空港から銀川空港へ。27日早朝、車で銀川から事業サイトのアラシャン盟に移動し、当日開催される「世界ボランティア植樹祭」の式典に参加しました。一般参加者、大学生、小学生、寧夏大学への留学生、日本からの植林ボランティア等が参加しました。地元のTV局や新聞社が取材に訪れていました。

植樹祭はこれまで参加費無料で行っていましたが、今回からは参加者の意識を高めるために1人50元徴収したとのことでしたが、参加者60名と多数の参加で、また参加者も植林を楽しんでいる様子で、テキスト等で学ぶだけでなく、実際の植樹活動に参加することで環境への関心が高まったと思われます。

研修センターの周りで生徒たちが昼食をとりましたが、ゴミの片付けも生徒たちが率先して行い、ゴミ一つ落ちていなかったことに感心しました。

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植樹ボランティア現場に到着

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植樹のやり方を聞きます

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JICA北陸のスタッフも挑戦

包む会の努力によりプロジェクト目標の一つである「地域住民への環境保護意識の浸透」が達成されつつあることが良く分かりました。

植樹祭の後と翌日28日に事業サイトを全て視察しました。潅木種子植栽や種子採種、環境教育、牧家遊(エコツーリズム)といった計画されていた活動は予定通り実施されており、それぞれ大きな成果を上げていました。植栽した潅木の活着率は80%以上で、採種種子の販売により元遊牧民の収入は事業開始前よりも20%以上向上しました。牧家遊事業は活動が始まったばかりですが、観光客も予想以上に訪れており、元遊牧民の皆さんは牧家遊事業に転進できたことをたいへん喜んでいました。新しい料理や娯楽の開発、宣伝にもこれから力を入れてがんばるそうです。

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牧家遊(レストラン)

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元遊牧民の潅木植栽現場

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植樹参加の小学生への環境教育


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シンポジウムの様子

視察最終日にシンポジウムが行われました。シンポジウムにはアラシャンの政府関係者、自治体代表、寧夏大学研究者などが参加し草の根事業の成果や今後の取り組みについて発表や意見交換を行いました。これまでの成果を評価しつつ、今後実施すべき取組みとして、節水灌漑、更なる広報活動とより幅の広い関係者との協働、成功した要因の分析とモデル化、これからの元遊牧民の生活向上のための新しい事業(果樹・野菜栽培・畜産・漢方薬等)への挑戦などが挙げられました。

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熱く語る呉会長(右から二人目)

アラシャン盟の生態環境問題を根本的に解決するために、さらなる自然環境と調和された所得手段の確立と生活向上が求められています。この事業は2010年3月末で終了ですが、新規事業「生態環境保全及び持続可能な発展のための農牧民研修と社会参加促進事業」が採択され継続されることになりました。

中国側実施団体会長の呉精忠さんから「これまでの実績から今後3年間は政府の補助もあり活動は保証されているが、その後の持続発展はこれからの3年間にかかっている。どんな困難なことがあっても事業を継続し、未来に向けて若い人も育てていく」という強い決心を聞き、たいへん心強く感じました。

今後も包む会の活動から目が離せません。みなさんもアラシャン盟に植樹に行ってみませんか!!

(市民参加協力調整員 北村哲郎)