JICA草の根技術協力事業は、日本のNGO、大学、地方自治体、および公益法人の団体がこれまで培ってきた経験や技術を生かして企画した途上国への協力活動を、JICAが支援し、共同で実施する事業です。
2011年1月、JICA北陸で草の根技術協力事業を担当している北村哲郎市民参加協力調整員が中国遼寧省で行われた「黄砂に関する共同調査研究」に関する「総括報告会(以下「報告会)」に参加しました。
この事業は平成20年度から3年間、富山県環境政策課、富山県環境教育センター、財団法人環日本海環境協力センター(以下「富山県」)が連携し、JICAを通じて中国遼寧省と協同で調査、研究を実施してきたものです。
報告会ではこれまでの活動が紹介され、参加した多くの関係者によりプロジェクト目標の達成情況が確認されました。ここではこれまでの経緯を含め、調査を通じ見えてきた活動現場の様子を報告します。
報告会出席者集合写真
富山県と遼寧省は1984年5月に友好県省を締結し、水質汚濁の著しい遼寧省遼河流域等の水質改善に役立てるため、平成11年度から平成19年度までJICA事業を通じ、共同の現地調査、技術研修員の受入れ、短期専門家の派遣を行ってきました。この結果、遼寧省の分析・環境モニタリング技術の向上や汚濁実態の把握のみならず、汚濁負荷量の削減を実現するなど遼河や遼東湾の水質改善に貢献してきました。
近年、中国では産業、経済の急速な発展に伴い、黄砂や酸性雨、光化学スモッグなど大気汚染問題が顕在化してきており、市民の生活に大きな影響を与えているため、遼寧省から大気汚染分野の調査研究の提案がありました。このため富山県と遼寧省は、これまでの共同調査の実績を生かし平成20年度から大気汚染物質の調査・解析技術の調査研究を共同で実施してきました。
今年度で終了となるこの事業の、協力の取りまとめとして開催される報告会に富山県関係者(4名)と一緒に参加しました。
電車切符手配などでお世話になりました
1月17日に大雪の富山空港から−10℃の大連空港へ到着。富山県大連事務所を訪問し、遼寧省を中心とした中国のいろいろな情報を教えていただきました。その後大連駅へ移動し、電車に乗って報告会が開催される最低気温−23℃の極寒の瀋陽北駅へ、真夜中に到着しました。瀋陽北駅には富山県から瀋陽市に語学留学中の水田技師とJICA中国事務所のシン職員が出迎えてくれました。彼らの案内で報告会が開催される「瀋陽鳳凰ホテル」に無事に到着しました。
富山県近藤氏発表の様子
1月18日は、午前中は報告会の準備・打合せ等を行い、午後からは報告会の本番に臨みました。報告会には富山県と共同調査研究を実施した遼寧省の環境保護庁、環境監測実験センターの関係者。盤錦市、鉄嶺市、瀋陽市の関係者。視程調査を実際に行った瀋陽市第17中学校と盤錦市実験中学校の生徒など、総勢約80名が出席しました。
総括報告会の会場
仇 偉光氏(遼寧省環境監測実験センター所長)、三田哲朗氏(環日本海環境協力センター専務理事)、北村(JICA北陸)の挨拶のあと、カウンターパート(現地プロジェクト関係者)の遼寧省環境監測実験センターの報告に始まり、近藤隆之氏(富山県環境科学センター課長)、鉄嶺市環境保護監測センター、盤錦市環境保護監測センターがそれぞれ研究の成果等を発表しました。その後、瀋陽市第十七中学校、盤錦市実験中学校の生徒によって視程調査結果が報告されました。どの発表にも、富山県と専門家の指導に対する謝辞が含まれていました。最後に遼寧省環境保護庁国際合作処の孫処長が総括し、「このJICAプロジェクトを通じて、日中友好が証明された」との一言が印象に残りました。
瀋陽市第17中学校へ視程観測への感謝
その他感銘を受けたのは、瀋陽市第十七中学校と瀋陽市第十七中学校の生徒の視程調査に関する発表でした。堂々と落ち着いて発表する姿は大変立派でした。また、将来就きたい仕事に対するはっきりとした意識を持っていました。視程調査を志願することによって、何か成績に加算されるのかと校長先生に質問しましたが、成績に反映されることはないとのことで、また学校側からやらされたのではなく、自ら興味を持って調査係に志願して行ったそうです。今後可能であれば富山の中高生も、このようなシンポジウムに参加することができれば、たいへん意味のある教育の一つになると思いました。
1月19日と20日には、富山県と遼寧省の関係者に、報告会時に確認できなかった、この事業によってどんな成果等があったかを確認したところ、以下の意見や感想が述べられました。
遼寧省関係者への功労賞授与
環境保護庁での新規事業検討会の様子
最後に、報告会ではこれまで富山県で研修を受けた研修員が大勢参加していましたが、彼らを直接指導してきた富山県環境科学センターの近藤課長を見つけると、みんな笑顔でかけより、握手を求めたり抱きついたりして歓迎と喜びを表していました。このような光景を見ると、相手国との交流も重視している事業であり、この事業実施の意義は大きかったと改めて認識しました。
来年度は、富山県と遼寧省の共同事業は一時休憩となりますが、新規事業の立ち上げに向け現在検討が行われています。平成11年から続いているJICA事業による富山県と遼寧省の関係が、早いうちに再開されることを期待します。
(市民参加協力調整員 北村哲郎)