2010年度 草の根調査団現地レポート(スリランカ)

JICA草の根技術協力事業は、日本のNGO、大学、地方自治体、および公益法人の団体がこれまで培ってきた経験や技術を生かして企画した途上国への協力活動をJICAが支援し、共同で実施する事業です。

今回は、JICA 北陸から2名(友部秀器支部長、北村哲郎市民参加協力調整員)が、2月に富山のNPO法人地球の夢が実施している「スリランカ国南部州アンバランゴダにおける省資源型定置網漁業導入による漁村活性化支援事業(支援型・2010年10月〜2012年3月)」の事業の進捗状況のモニタリングを実施し、問題点を共有し、計画の軌道修正等へ迅速に対応することを目的とし、スリランカを訪問しました。これまでの経緯を含め、調査を通じて見えてきた活動現場の様子を報告します。

JICA草の根技術協力事業 in スリランカ視察報告

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日本での研修。寒いです!

スリランカは2004年12月26日に発生したスマトラ沖大地震に伴う大津波により甚大な被害を受けました。津波被害が最も大きかった海岸沿いの漁業者に対し、NPO法人地球の夢は日本から小型漁船、漁網、ロープ及び漁具の補修用具などを輸送し、現地で漁具の修繕技術指導を行うといった支援活動を続けています。現状は材質や強度面において不十分な漁具を用いての出漁になっており、漁家の収入基盤としては非常に脆弱であり漁業者の生活水準は改善が見られません。現地漁業者が生活水準の向上と資源管理型漁業を模索していることから、漁業環境の改善が図れる省資源型定置網漁業を説明し、導入に伴う条件整備について協議を重ねて「災害復興自立支援と漁業環境の改善」という省資源型定置網敷設事業に着手しました。

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製網工場での研修。漁網の作成

当該事業は定置網の敷設操業、確認だけでなく、補修等の管理も含め最初から最後まで全部スリランカの漁民でできるように、必要な技術・知識習得を目的とし、スリランカ側の事業実施関係者4名を研修員として10月から12月の2ヶ月間日本に受入れ、定置網漁業の実践研修を実施することから始まりました。日曜日を除きほぼ毎日、富山市の四方漁港から早朝2時ころに出航し実践的に定置網漁業を学び、漁から戻ると、水揚げ、魚の仕分け、日本式の「せり」を学びました。午後は定置網の作り方や修繕の方法、浮きや重りの設置の仕方、魚の鮮度保持や加工等の実習や講義を受けました。また、現地で使用する「定置網」等も自分たちで作成し、コンテナに積み込みました。

研修員は帰国後、現地アンバランゴダで指導するプロジェクトマネージャー(以後PM)の浦上氏とアシスタントマネージャー(以後AM)の小宮山氏を受入れる準備を進めました。悪天候のため到着が遅れていた資機材も、2月1日にアンバランゴダに到着し、この日から本格的な指導に入りました。

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このハマチはハウマッチ?(友部支部長)

調査団は、2月10日にスリランカ到着後、スリランカ側の事業実施機関のNARA(国立水産資源調査開発機構)のチェアマンMr.Hiran Jayawardhanaや関係省庁の漁業省局長Mr.Indra Ranasingheと当該事業の情報共有と協議を行った後、2月11日にアンバランゴダに向け出発し、以下のように調査を実施しました。

2月11日

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網を作るためのロープ作成中

アンバランゴダに向け早朝出発。途中地引網漁に遭遇し見学。道端で売っていた魚の値段を参考のために確認したところ、大体150Rs〜200Rs/kg(1Rs=約0.75円)で取引されていました。

アンバランゴダ作業現場到着後、定置網設置に向けてのロープ作成等の作業確認をしたのち、研修員で日本に来たガミニ氏(ウラワッタ漁協組合長)の案内でウラワッタ漁協の経営している銀行・幼稚園・アパートを訪問しました。銀行は女性職員4名、男性1名で月〜土に営業。UNDP(国連開発計画)の支援を受けた融資を行っており、最高10万Rsの貸付可能とのことでした。保証人は2名必要ですが、組合以外でも保証人がいれば誰でも借りられるとのことでした。借りたお金で女性たちは、カバン・服・漁業の網を作るためのロープを椰子の繊維から作り、これらを販売し生活の足しにしています。なお、スリランカの慣習で漁は女性禁止とのことです。

この銀行が中心となって、定置網による売り上げの組織的管理を実施する予定となっています。

午後は、日本から到着した資機材のチェックを実施しました。網や浮きなどはウラワッタ漁業組合の倉庫に整然と保管されていて安心しました。

2月12日

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3時間かけてわずか40kg…

早朝ウラワッタ漁協が行っている地引網漁を視察しました。3kmほどの長さの網を使用し、大漁時には500kg水揚げがあるそうですが、この日は26人で漁をして水揚げはわずか40kgほどでした。そのため市場に出さずにその場で現物支給となりました。魚は浦上PMによるとサバ系・アジ系・イワシ系の魚が主でその他イカやダツ(日本では食べない)が混じっているとのことでした。

また、海岸から20mほど離れていた岩場が、昨年は歩いていけたと聞き、地引網漁は近い将来本当にできなくなると海岸線の侵食の激しさを実感しました。

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報魚の種類は豊富です

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お父さんのあとを継いで漁師になりたいそうです

その後津波の被害のあとに支援でできた「アンバランゴダ漁港」とその近くの市場を視察し、販売している魚と干物の種類や金額等を調査しました。また、コロンボから氷を運んで貯氷し販売している会社を見学しました。この会社は同じ敷地内に「製氷工場」を建設中で4月にはスタートするとのことで、定置網漁業によって水揚げされた魚の鮮度保持をするために「製氷工場」の建設も考えていた実施団体にとって嬉しいニュースでした。

午後は漁民の生活の実態調査を行うため、漁民の家を4軒訪問しました。
印象に残っている漁師や家族の発言は、次の通りです。
「家は津波で破壊され今は貸家。政府から家を支給されたが漁をする場所からあまりにも遠かったので断りました」
「海に行っているときはやはり心配ですが、子どもが漁師をやってくれて嬉しいです」(現在他に仕事がないこともあり、子ども本人も漁師が良いと言っていました)
「津波前の生活レベルにはまだ戻っていません。娘が病気になって17年経つがお金がなく15年間病院に行っていないので、定置網漁で所得が増えて娘を病院に連れて行けることを期待しています」
「夫は漁師で妻は近所のコンビニのようなところで働いています。アンバランゴダから出たこともないのでコロンボで働く気はありません」

聞き取りの最後に定置網漁業への関心を尋ねたところ、どの家でも現在の漁法では収入が安定していないため、定置網漁業にはとても関心があり、全員が漁への参加を希望していました。

2月13日

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この下には魚群が!!

アンバランゴダ漁港から浦上PM、ガミニ組合長らと調査団も含め総勢8名で船に乗り、定置網を設置する場所の選定調査を実施しました。沖合い3kmで水深26〜30mの場所を魚群探知機で調べながら、30mx200mほどの範囲に6箇所、重石をつけた浮きを目印として設置しました。

2月14日

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ついに網を設置できました

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予想の倍、620kgの大漁!!

調査団は、実験操業まで調査する予定でしたが、悪天候などで予定通り進まず、前日決定した定置網設置場所へのロープ設置のための積み込み現場を視察し、後ろ髪を引かれながらアンバランゴダを離れました。

調査団が帰国した後は、毎日メール等で毎日状況を実施団体から知らせてもらいました。

今回の現地での定置網の敷設から操業の指導は、予定よりも日数がかかりましたが、最終的には実験操業を浦上PMと小宮山AMが帰国するまでに3回実施することができました。

その結果は、なんと620kg、530kg、300kgと目標水揚げ高(300kg)以上を記録しました。目標達成への第一段階をクリアできたと言っても良いでしょう。「地球の夢」、ウラワッタ漁業組合の関係者は大喜びでした。担当の私もホッと胸を撫で下ろしました。5月に網上げの指導の為に再度浦上PMらは渡航しますが、網の敷設よりも網上げの方が技術的にも体力的にも大変だという事です。これをぜひ関係者全員で乗り越え、目標達成への道をまた一歩進んで行って下さい。

スリランカ政府が今回の結果に興味を持ち、その導入を政策として取り上げ、必要となる定置網漁業に関する法整備が行われれば、定置網漁業は、これまで地引網漁業に頼っていたスリランカの漁民の、希望の持てる新しい漁法に成りえるでしょう。

今後も「地球の夢」の活動から目が離せません。皆さんもアンバランゴダへ行って、日本の定置網を見てみませんか!!

(市民参加協力調整員 北村哲郎)