「ラ・ウニオン生物回廊プロジェクト」徳川専門家、田中専門家へのインタビュー

2021年9月10日

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右:徳川専門家、左:田中専門家

2021年6月末に終了した「ラ・ウニオン生物回廊プロジェクト」で専門家として活動された、徳川専門家、田中専門家のお二人にプロジェクトについての振り返り、ホンジュラスの生活について伺いました。本プロジェクトでは、2020年3月、新型コロナ感染症の流行により、専門家のお二人も日本へ退避することになりました。
その後、約1年にわたり日本からリモートで活動を進められましたが、2021年3月に再赴任し、プロジェクト終了に向けて精力的に活動されました。

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まずは、プロジェクト活動全般にお聞きします。
プロジェクトを進める中で、一番苦労したことは何ですか。

田中専門家(以下、田中):私はプロジェクトサイトである市の担当者とのやりとりが多かったのですが、地方は携帯電話の電波状態が悪いこともあり、とにかく連絡がつきにくかったことがまず頭に浮かびます。

徳川専門家(以下、徳川):作成している文書や分析ペーパーなどについて、メールやチャットを介して中央省庁のカウンターパートに意見を求めても、すぐに反応が返ってこなかったことです。思い返せば、ホンジュラスでは会議を開催する際事前の資料配布もない場合が多く、会議の中で意見を出して合意形成するのが一般的です。文書協議というやり方になじみがないのではないかと思いました。(昨年、日本へ退避することになったため)このあたりがリモートによるプロジェクト運営の難しさかと思います。

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活動先での一枚

一番楽しかった/嬉しかったことは?

田中・徳川:活動終盤に、プロジェクトサイト3市の担当者に各地で環境保全と地域開発の両立を目指すための企画を提案してもらったところ、各市からそれぞれ地域の特徴を活かした想定以上の提案が出されました。例えば、グイノペ市では、コーヒー生産者の有志グループから、環境保全に配慮したコーヒー生産を推進する拠点「寺子屋」の開設が提案されました。この取り組みは、さらに地元産コーヒーをPRするパッケージ作成といった期待以上の活動にもつながり嬉しい出来事でした。

生物回廊の設置を促進するプロジェクトの観点から、ホンジュラスの森林についてどのような感想をお持ちですか。

徳川:ホンジュラスの森林は、多様で豊かな森林だと思います。しかし、少なくともラ・ウニオン地域においては住民と森林の関係は日本に比べ希薄なようです。日本であれば、山で山菜やきのこを取ったり、はちみつを生産したりしています。草木染などもあります。信仰にもつながっています。一方、赴任当時各パイロット集落でどんな産物があるのか聞いてみたところ、木材生産か、ロジン(松脂)生産程度しか回答がなかったのを記憶しています。日本で森林の保全が自然な行為として行われている背景には、森林や林産物を利用する文化があると思っています。ホンジュラスにおいても森林や林産物をより幅広く活用することが、森林の保全につながるものと考えています。

生物回廊の構築を推進することはホンジュラスにとってどのような意味があるのでしょうか。

田中:本来、生物回廊とは、保護区と保護区を結ぶ形で回廊状に自然環境を保全し、野生動物等の移動ルートを確保して生物種の多様性や個体群を維持することを目的とした取組みです。しかし、保護区は保護区内だけを保全していてもダメで、保護区の周辺に緩やかなバッファゾーン(トランジッションゾーン)を設定し、そこで農業などを営む地域住民を巻き込みながら、急激な開発圧から保護区を守っていくことが必要です。保護区の周辺で生活する住民の意識や行動の変容を促す仕組みとしても、生物回廊の取組みが有効に機能するのではないかと思います。

コロナ禍前になりますが、海外協力隊ともプロジェクト内で連携をしていたと思います。

田中:協力隊員がプロジェクトのただのマンパワーとなってしまったような事例も聞くことがあるため、協力隊との連携には気を遣いました。隊員本人の興味関心に寄り添いながら、可能な部分で連携ができることが理想だと思いました。グイノペ市では、コミュニティでのゴミ処理の啓発の取り組みで協力隊員の方と連携することができました。コロナ禍により、現地で最後まで一緒に活動することはできませんでしたが、隊員の方には帰国後にも啓発用パンフレットの編集に協力していただくなど、隊員の方の熱意を形にすることができました。

プロジェクトが終了した今、カウンターパートたちに伝えたいことは?

徳川:プロジェクトで得た体験を他の地域、近隣諸国に伝えてほしいと思います。今後、このプロジェクトの成果を周りの方々へ自ら語る時に、改めてカウンターパート自身もプロジェクトの意味や成果を理解できるのではと思います。

田中:今後継続出来ることを、自ら見つけてほしいと思います。すぐにドナーに頼る傾向が見られますが、まずは自分たちで出来ることを続けることで、自分たちの森林を守っていってほしいと思っています。

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グイノペ市での散歩の風景

ホンジュラスの生活はいかがでしたか。

徳川:治安の関係で首都テグシガルパの街を歩けなかったため、その街の生活に浸りきれなかったのが残念です。その代わり、ラ・ウニオン地域では、出張の機会にできるだけ時間を有効に使い、町や集落を散策していました。滞在時間は短かったですが、その土地を身近に感じることができました。

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バチャンパイロット集落(ドローンでの撮影)

やり残したこと、(コロナの関係で)できなかったことは何かありますか。

徳川・田中:プロジェクトの活動になりますが、ドローンで地域の森林を撮影する時間が取れなかったことです。プロジェクト期間内に夕日の乾燥林や朝の雲霧林などを撮影し、記録に納められなかったことが少し心残りです。

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ユスカラン市のレストラン

「ラ・ウニオン地域のイチオシ!お勧め!」は?

田中:ユスカラン市で宿泊を伴う出張時に利用する、「ユスカランホテル」から見える朝霧の中のユスカランの景色は息をのむほど美しいです。

また、グイノペ市に新しくできた食堂は、中庭があるおしゃれな雰囲気で、グイノペ市訪問時の一つの楽しみでした。

(徳川)ユスカラン市の中央公園にあるカフェが、ハチドリが近づいてきたりする場所で、出張でほっとできる癒しの場所でした。

サモラノ大学のカフェで飲んだカフェベルデをもう一度飲みたいと思いましたが、コロナの影響で、再訪問できませんでした。

まだまだ気軽に行けないところが多いですが、状況が落ち着いたらぜひ訪れてみたいです。

また、ホンジュラスの森林について、そして周辺地域を含めたこれからの可能性についても知ることができ、この分野の取り組みについても注目していきたいと思います。

本日は、ありがとうございました。

聞き手:ホンジュラス事務所 小坪

参考