ホンジュラス国首都圏斜面災害対策管理プロジェクト専門家インタビュー(第1回桑野健専門家)

2021年9月10日

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テグシガルパ市内の落石が多く発生する箇所。市内にはこのような斜面災害地帯が多く点在しています。

2019年2月より開始された「首都圏斜面災害対策管理プロジェクト」の日本人専門家チーム3名にプロジェクト活動の醍醐味について教えて頂きました。

第1回目は桑野健専門家((株)国際航業)とのインタビューです。桑野専門家は大学では地質学を学ばれた後、日本の大手コンサルタント会社で防災関連の調査等に長年携わってこられた経歴をお持ちです。特に、斜面災害のリスク評価・分析を得意とされ、ブータンやモーリシャスなどで岩盤崩壊や土石流、斜面崩壊、落石、地すべりなどの斜面災害の調査・解析などの業務に従事されてきました。「首都圏斜面災害対策管理プロジェクト」では総括として日本人専門家チームのリーダーとしてお忙しい日々を過ごされています。

Q1.ホンジュラスでは「首都圏斜面災害対策管理プロジェクト」に携わられていますが、主な業務はどのようなものなのでしょうか?

ホンジュラスの首都であるテグシガルパは盆地状の地形に発達した都市で、多くの小高い山に囲まれています。そのような理由から、テグシガルパでは斜面災害が多く発生しますが、これまで斜面災害に対する抜本的な規制などがないままに都市が広がってきてしまっていました。この課題を克服するために、テグシガルパ市役所への技術協力をとおし、危険性の高い場所に人が住まないよう規制を設けるなど、行政としての斜面災害対応のための能力を高めるための技術支援を行っています。

主な活動は、1)斜面災害の危険性の評価、2)対策工の施工方法と維持管理、3)斜面の危険度をはかるためのチェック表の開発やそれをもとにした危険度マップの作成、4)危険な場所に新たに家を建てたりすることを規制する土地利用規制条例へのアドバイス、5)土砂災害リスクを軽減するための具体的な取り組みの作成、という5点で構成されています。現在それぞれに日本人専門家が派遣され、土地規制条例案の作成やリスク評価に有用なツールの開発、それと並行して斜面災害対策工の企画・施工・維持管理能力の強化などを行っています。

新型コロナ感染症の感染拡大により、ホンジュラスにおける活動がストップしていましたが、その間も日本とホンジュラスをテレビ会議などでつなぎ、日々活動を継続してきました。カウンターパートの皆さんも非常に勉強熱心で、遠隔ではありましたが、各自宿題をこなしながら、プロジェクト活動を積み上げてきました。また、皆さん私たち日本人専門家の帰りを心待ちにしてくれました。

Q2.ホンジュラスで仕事をする上で、驚いたことや他の国との違いを感じられたことはありますか?

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テグシガルパ市長ナスリー・アスフラ氏と。

こう言うと他の国のカウンターパートに怒られてしまうかもしれませんが、ホンジュラスでの業務は他国の経験と比較して「極めて順調」です。その理由は、カウンターパートが非常にまじめにプロジェクトに取り組んでいることが一番大きいのではないかと感じています。現地調査や協議などもカウンターパート自身が企画してくれ、高い出席率で多くのメンバーが出席し、とりまとめなども積極的に実施してくれて、非常に感心しています。

某国では、打合せの時間に一人も集合しておらず、10分遅れて1人、15分遅れてまた1人、35分遅れてもう2人、50分遅れて最後に意思決定者が来て、といったことが頻繁にありました。しかし、私のプロジェクトのカウンターパートはみな、打合せの時間をちゃんと守る、宿題を期限までに提出してくる、など基本的なことができているため、ほとんど遅滞なく業務スケジュールを進めることができています。

これまで「これは困ったな…」ということは特にありませんでしたが、強いて言えば、テグシガルパの斜面災害が起きやすい地域というのは、災害に脆弱である上に、治安もあまり良くないところが多くなっています。そのようなことから、現地調査の場所や時間帯が制限されることがやや不便ではあります。

Q3.桑野さんは長年、JICA専門家として様々な国で、数多くの技術協力プロジェクトに携わってこられましたが、技術協力プロジェクトの楽しさややりがいとは、一体どんなことだと感じられていますか?

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カウンターパートと日本人専門家によるテグシガルパ市内の斜面踏査(エル・エデン地区)。

海外で支援事業に携わるとまず、いままで全く知らなかった外国の国に行くことができます。そして、専門家として技術協力プロジェクトに参加することで、日本とは文化も社会も違った環境で、自分の専門分野における知識や技術で、その国の開発課題に貢献することができます。技術協力プロジェクトは苦労も多いですが、カウンターパートや住民から感謝されることも多いです。そんな時、それまでの苦労は一気に忘れてしまい、やってよかったな、という充実感を感じることができます。自分の技術で、微力ながらも発展途上国の開発に協力することができ、とてもやりがいを感じています。それから、プロジェクトに従事していると、大体1案件で数年間実施されることから、ほとんどの場合、現地のカウンターパートやスタッフと仲良くなり、食事をしたり交流したりなど、日本では経験できない体験を数多くできることが良い点かと思います。また地質技術者としては、観光旅行では絶対に行けないような「危険な災害発生箇所」に行ったり、「地下3800メートルの金鉱山」に潜ったりなどができることは、トキメク経験です。

Q4.これからプロジェクトの活動内容はパイロットプロジェクトの実施段階へ移るなど佳境を迎えようとしていますが、本プロジェクトの活動を通し、成し遂げたいことや目指していることはありますか?

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カウンターパートと住民と斜面災害状況を調査(ビジャ・ヌエバ地区)。

日本と同様に、斜面に囲まれた都市が多く存在すること、雨季などに降雨量が多くなることからホンジュラスでは長年、斜面災害に苦しめられ、多くの死傷者も出してきました。私の支援するプロジェクトでは、これらの原因と特徴を明確にして、構造物対策やハザードマップ作成、土地利用規制など様々な手法の対策を実施しており、効果が発揮されつつあります。地形・地質・気候条件が似通る中南米地域では、多くの国が同様に斜面災害に苦しめられています。ホンジュラスが今後、この地域の斜面災害対策のリーダー国となり、今後とも更に技術力を高め、他の国の手助けをできるような立場になれば良いと思っています。そのため、今後とも継続的にホンジュラスの支援に携わりたいと思っています。

Q5.ホンジュラスでの生活は、如何でしょうか。なにか読者の参考になるようなエピソードがあれば教えてください。

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思い出深いコパン遺跡への旅。

意外かと思われるかもしれませんが、ホンジュラスは最低限のものがそろっており、気候も過ごしやすく、水・お湯も出て、食事にも特に困ることもありません。私自身、むしろ、ホンジュラスの生活には非常に満足していて、これまでの外国経験の中で最も好きな国です。テグシガルパ市街地はさほど大きくないため、徒歩でも回れるようなところが多いのですが、安全にも留意をする必要があるため、街を自由に出歩くことができないのは残念です。

また休日を利用して、コパン遺跡にも行きました。コパン遺跡は古代マヤ文明に属し紀元4~9世紀に繁栄したもので、ピラミッドや立像彫刻などが多数発掘されています。特に彫刻は、柔らかい(加工しやすい)凝灰岩から作られており、繊細で立体的なものが多く、一見に値するものでホンジュラスを訪れた際にはぜひとも立ち寄ってほしいところです。なお、家族へのお土産として1USDで購入した彫刻のセメントレプリカ(高さ30センチメートル)は、いまも家に飾ってあります。

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