キンシャサ路地裏の教会で音楽対話

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コンゴ民主共和国の首都キンシャサ市は「アフリカの音楽の都」と言われるほど、音楽活動が盛んな場所。そのジャンルはルンバ・コンゴレーズ(注)に代表される、国際的に影響を与えたポピュラー音楽をはじめ、伝統音楽、ジャズやヒップホップなど幅広いです。中でもキリスト教が多くを占めるコンゴ民で、市民になじみ深いのが教会の音楽で、ラジオやテレビなどでも日常的に見聞きします。

現地の音楽に興味があった私は、着任間もないころ、キンシャサの国立芸術学院を突撃訪問して、伝統音楽科の師範を紹介してもらい、週末に太鼓の稽古(けいこ)に通い始めました。

太鼓はちっともうまくなりませんでしたが、市内バルンブ地区の長屋のような集合住居にある、師範一家のお宅に遊びに行くようになりました。生まれたばかりの彼の娘をあやしたり、奥さんの手料理をいただいたりし、家族ぐるみのつきあいをするようになっていました。

ある日、師範から「君、ピアノが弾けるんだって?実はちょっと手伝ってほしいのだが・・・」と言われ、連れて行かれたのが、バルンブ地区にある、彼が合唱指導を行うカトリック教会の小さな聖歌隊の練習場所。地元の若者やお母さんたちを中心に活動している合唱団です。

バルンブはキンシャサの中央駅からほど近い下町で、歓楽街として有名なボン・マルシェにも近く、週末になると多くのキンシャサっ子がマンゴーの木の下、ビールの小瓶をテーブルに置いて、午後のひと時を楽しんでいます。

そんな酒場の裏には小さな教会があることが多く、エレキギターやベース、ドラムを多用したにぎやかな音楽が大音量で鳴り響き、人々は踊りながら礼拝しています。使われている音楽も世俗音楽のそれと似て、教会自体が一大エンターテイメントの場のようでもあります。

さて、日差しの熱い日曜日の午後、バルンブの路地裏で、ろくに現地の言語、リンガラ語もわからない、怪しい東洋人がキーボードを抱えて聖歌隊に混ざり、歌詞の意味もわからないまま耳を頼りに伴奏をつける、青空セッションが始まりました。

楽譜はなく、「次、ちょっと音上げて」と師範の一声にいつのまにか転調している聖歌隊に、私は歯を食いしばって必死に伴奏をつけようとがんばります。千本ノックのようなセッションを経て、ほとばしる汗をぬぐいながら一息ついたころ、「日本の歌を教えてよ!」とメンバーの女の子が言います。

そこで日本の童謡、「もみじ」を紹介すると、すぐさまメロディをマスターしてしまう聖歌隊。キンシャサで一般的に話されているリンガラ語は元々母音が多く、日本語と発音の似た部分がある言語とはいえ、歌詞もかなりよい発音です。

こちらがすっかり感心していると、教えられた通りに歌うだけでは満足しないのがコンゴ民流。「ピリピリ(当地で料理のアクセントに使われる唐辛子の辛いソース)を加えよう!」と独自のアレンジで小気味よいアップテンポなリズムをつけ始めます。

翌週練習に行くと、ファンキーなゴスペル調の「もみじ・コンゴレーズ」に変貌しており、手拍子とかっこいい振り付けが付き、曲名も「秋の夕日に~」の歌い出しから、「アキノユウ」に改名されていました。

こんなことから、「教会で発表会をやろう!」と盛り上がり、師範を中心に詳細を練り、紆余曲折ありつつも、なんとか本番の日曜日を迎えます。

教会の集会所に椅子とマイクを並べ、ギターとドラムがゲスト参加、聖歌隊は観客用にソーダ水とパンを用意。ほかに2つの聖歌隊も参加し、地域の住民約100人が駆けつけてくれました。日本とコンゴの歌を織り交ぜ、最後は観客と演奏者が一体となり、ルンバ・スタイルの讃美歌と踊りで大人も子どもも熱狂のフィナーレに。

師範は、「音楽の本質はディアローグ(対話)である」と言います。音楽的なディアローグを通じてこれまでの考え方を打ち壊されたり、違和感があったりしつつ、新しい音を探っていく。そのプロセスが、現地の人々との音楽活動の面白さではないかと思います。今週末もまた、キーボードをかかえて、師範とともに街の合唱団に乱入してきます。

(注)戦前のキューバのポピュラー音楽をベースに発展したコンゴのダンス音楽で、アフリカ各地にも名前を変えて広まっている。

【写真】

カトリック教会でのコンサート

【写真】

聖歌隊との音合わせ(右端が師範)

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