「エボラ・ヒーロー」帰国研修員の1年

Twitter Facebook はてなブックマーク メール

リベリアでは、1年前の8月6日に国家非常事態宣言が発表され、8日には世界保健機関(WHO)が「国際公衆保健非常事態」を宣言したことを受け、国を挙げてエボラ出血熱の封じ込め対策が始まった。JICAは、日本でJICAの研修を受けた帰国研修員を通じて、バイクなどの機材提供のほか、地域啓発活動を行った。

7月18日、帰国研修員の一人がエレン・ジョンソン・サーリーフ大統領より「エボラ対応に当たった国民的英雄」の一人として表彰された。ウィルモット・フランクさんという地方の保健局で働く医師で、2010年に東京で行われた医療行政・サービスついての研修に参加した経験を持つ。エボラ出血熱流行の禍中、彼が保健分野を率いるサイノ州は海外支援を待たずに隔離病棟を作り、他州からも患者を受け入れた。同州には二人しか医師がおらず、患者の治療はすべて、この二人が担った。

病院には、搬送や治療、埋葬などの時に必要な防護服や、直接肌に触れずに体温を測れる非接触型体温計がなかった。また、道路状態が劣悪で、最も離れた村まで行くには1日以上かかる。その村と近隣地域の住民4人が搬送前に亡くなり、医療関係者も感染していく中、彼は治療に当たるため動かなくなった車を押して村まで赴いた。医療機関に行くのを嫌がる患者を説得し、病院に連れてくることができたのは、出発してから3日目だったそうだ。

「患者のいるところには必ず先生がいた」と地域で活動するNGO職員は語る。防護服なしでフランク医師が診た患者は、半数が回復した。

「エボラ出血熱が流行しても、ほかの病気がなくなるわけじゃない。昨年はいろんな手術をしたよ」と、フランク医師は淡々と振り返る。感染の恐れから手術を拒む医療従事者も多い中、地域保健のリーダーとして、政府や関係者との調整に追われながら、日々患者にかかわってきたことが、大統領に高く評価された。

5月にはいったんエボラ出血熱の終息宣言をしたリベリアだが、7月初めに新たな症例が報告された。1年前には混乱があったが、今回は医療関係者も地域も自信を持って対応し、封じ込めに成功している。

180人以上の医療関係者を失ったリベリアでは、人材不足も大きな課題だ。フランク医師は「エボラ出血熱対応では、JICAの研修で学んだ、5S(注)が役に立った」と言う。「午前3時に電話しても対応してくれる」一方で、ルールを厳しく守る人ともいわれており、日本での経験も生かしつつ、スタッフを育てている。

こうした中、JICAは継続して医療関係者を支えている。またフランク医師が働く町にも日本の支援によるバイクが近く届く予定で、田舎の村までワクチンや医療物資を届ける際や、保健省に提出するデータ収集などに使用される。

昨年度、帰国研修員の多くが同僚を亡くし、生き残ったことに深い感謝の念を抱いている。フランク医師を含む10人近くの帰国研修員は、その思いと共に、今年度4州でJICAが開始した支援をリードする。規模は小さいが確実に地域に支援を届けるために、JICAオフィスも年末まで走り続ける予定だ。

(注)整理、整頓、清掃、清潔、しつけ。日本の製造業の現場から発展した、職場環境の改善と業務の効率化を図る取り組みで、医療現場にも導入されている。

(写真提供:MedicalTeamsInternational)

【写真】

州保健局内の事務所でNGO職員と調整するフランク医師

【写真】

サイノ州の隔離病棟。フランク医師は19人をここで治療し、半数が回復した

【写真】

隔離病棟敷地内に設置された医療従事者のためのスペース


【写真】

患者の搬送。昨年は感染を恐れて病院に来ることを拒む人が多かった

【写真】

地域の医療施設には電気がなく、限られた物資で患者を治療している

【写真】

地方での最大の問題は、アクセスの悪さだ


Twitter Facebook はてなブックマーク メール