「ジョンマオ医師」と「ソランジュさん」のいい関係−マダガスカルのポリオ対策−

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私は短期看護師隊員として、マダガスカルの首都アンタナナリボから北西に車で10時間ほど離れたマジュンガI郡保健局で活動をしています。

マダガスカルでは2015年、ポリオが流行し、全国一斉のワクチンキャンペーンは9ヵ月間で5回も行われました。マジュンガI郡でも2件の発生報告があり、世界保健機関(WHO)からも、ポリオ担当の「ジョンマオ」という医師が短期派遣され、私も彼女と時々活動しました。

WHO職員と働くのは初めてで、彼女はカメルーン人なので仏語で話すしかありません。「国際的な組織の人」というイメージの彼女と、普段マダガスカル語での活動が中心の私の、それも慣れない仏語でのコミュニケーションには、当初プレッシャーがありました。しかし、彼女は思いのほか気さくで、仏語の分からないマダガスカル人にも、日本人の私にも、積極的に声をかけ、かかわろうとしていました。

ワクチンキャンペーンは0~15歳までの全ての子どもが対象で、該当する子どもがいる家庭を一軒一軒、訪問する方式で行います。地道に巡回を実施するのは、各地区に住む「保健ボランティア」と医療従事者たちです。私も毎回、彼らと一緒に地域を巡回します。

その「保健ボランティア」の中で、人一倍責任感が強く、活発な「ソランジュさん」というマダガスカル人女性がいました。ポリオ発生地区の保健担当者です。彼女には罹患した子どもを発見した後に郡保健局に報告し、その後のモニタリングをする職務があります。そのため、WHOのジョンマオ医師も彼女をポリオ発生地区のキーパーソンとして、より深く連携していました。

ある日ソランジュさんと巡回していると、携帯電話の仏語で書かれたメッセージを私に見せ「これってこういう意味かな?」と聞いてきました。それはジョンマオ医師からのメッセージでした。

「辞書を忘れたから取ってきてもいい?」と、彼女はすぐ返信できるようにと家に辞書を取りに帰り、重いワクチンのバックを片手に、巡回を続けました。暑い中、一軒ずつ回ってワクチンについて説明し接種することは、相当な気力、体力、根気が必要です。時に接種を断られ、説得に骨を折ることもあります。

一方、保健ボランティアは、普段は家庭の主婦であることがほとんど。地域住民と末端でかかわる業務で仏語は必須ではないので、慣れない「仏・マダガスカル語」の辞書を引きながら、懸命に地域を巡回する彼女の姿には強く心を打たれました。

WHOの医師は、現地医師や保健関係者とは通訳を介さずコミュニケーションを図る一方、あまり仏語になじみのない保健ボランティアとは間接的にしか話さないようなイメージを持っていましたが、ジョンマオ医師とソランジュさんの間にはそんな通訳は全く必要ありませんでした。

「言葉の壁」は、お互いが理解しようと歩み寄って努力を重ねることで低くなり、予想以上にコミュニケーションが取れるものだと気づき、私にとって忘れがたい出来事となりました。

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ソランジュさんが道端で子どもにワクチンを接種

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ワクチンが入ったクーラーボックスを持って地域を巡回

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保健ボランティアとともにポリオワクチン巡回に同行(右が筆者)


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