ハチ、関西弁、国際協力

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「早くせんと女王バチが逃げてまうで!」

静かな農村に関西弁が響く。私が研修に来ているのは、大阪でもなければ、私の出身地の滋賀でもない。アフリカ南部に広がる農業国モザンビークだ。

首都マプトからバスに揺られること7時間。イニャンバネ州の農村で出会ったのは、コテコテの関西弁を話す日系ブラジル人の養蜂専門家、ネルソン松尾さん。これまでにパラグアイやホンジュラスの農家に養蜂技術を伝えてきた。ここモザンビークは年に4回訪れているとのこと。私は1週間、ネルソンさんの養蜂研修に参加した。

ある日、私は巣箱の移し替え作業に参加した。木の皮で作った原始的な巣箱の中身をハチごと全て取り出し、別の巣箱に移し入れるという危険の伴う作業である。しゃがんだ時にズボンがめくれ、いきなり足首を刺されてしまった。ずきりと痛む。その後ズボンに女王バチの吸引フェロモンが付いたらしく、股間が大量の蜂で埋め尽くされたときは冷や汗をかいたが、何とか無事終えることができた。

「技術だけではない、人の育成が大事なんや。自分から養蜂をやりたいって思わせんとあかんのや」。ネルソンさんは、専門家の仕事は単純に技術を教えるだけではなく、農家や、指導する役場の人のやる気を呼び起こすことが重要だという。

今年から養蜂を始めたばかりの村を訪れたときのこと。ネルソンさんはポルトガル語が流ちょうであるにもかかわらず、自分で説明せずに、役場の人に村人への説明を任せた。不思議に思って理由を聞いてみると、「人をその気にさせるには、まずはその人の顔を立ててやらんとあかんのや」との答えが返ってきた。こうすることで、責任感が芽生え、今後の村での養蜂事業を積極的に助けることにつながるという。先を見据えた行動に脱帽した。

「町中を注意深く見て回ってみ。疑問に思ったら、その原因を考える。そうしたら解決策が浮かんでくるはずや」。村落開発では、養蜂以外にも、農村に新規作物を導入したり、装飾品を作って販売したり、などの活動にも取り組むことができる。

ネルソンさんは養蜂の専門家でありながら、養蜂以外の事業についても多くのアイデアを提供してくれる。例えば、イニャンバネ州はサトウキビが豊富に採れるが、村人たちはかじって汁を吸うだけで、あとは捨ててしまっている。ここにサトウキビ搾り機を普及させれば、新たな生計手段になりうるという。また、何気ない会話から村人の職業を把握しておくと、「ハチを追い払う煙幕機をあの溶接工に作ってもらおう」だとか、「腕の良い仕立屋に防護服を新調してもらおう」など、アイデアが浮かんでくるそうである。

1週間という短い期間であったが、周りの人を巻き込む工夫や、何気ないことを注意深く見ることの重要性に気付かされた貴重な体験だった。ネルソンさんが地域住民から愛されるのも、彼が多くのメッセージを感じ取って、それを援助につなげているからだろう。研修最終日の前日、隣の郡からぜひとも技術を教えてほしいとバスで2時間かけてやってきた人がいた。ネルソンさんがニヤリと笑うのが見えた。

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養蜂指導を行うネルソンさん(中央)

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群がるハチに注意しながら、巣の状態をチェックする

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新しく養蜂を始めた村での指導


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