パナマの大学と学術研究事情

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私はパナマ海事大学という国立大学で教育改善のための仕事をしています。この大学は船舶職員の養成や海洋関係の教育のための大学です。

パナマは海運と縁の深い国です。パナマ運河があり、なおかつ世界中の外航船の船籍を最も多く保有しています。また、海運は重要な産業であり、その人材の育成のために、パナマ海事大学は重要なポジションを占めているのです。

私の仕事の半分以上は、20年前に日本から供与された実習用のエンジンプラントの修理と整備です。いろいろガタが出ており、この仕事の比率はどうしても高くなります。

そんな私に、研究活動を手伝ってほしいという要望がきました。若いころは開発部門にいたこともあったので気軽に引き受けたのですが、なかなか難しい仕事でした。

日本の大学ですと、教授の仕事の半分が研究で半分が教育でしょう。しかし、パナマでは教授が研究に割ける時間はほとんどなく、人的物的資源も雀の涙ほどしかないのです。そのせいか、パナマ海事大学で実際に進行している研究の数は数件しかないと思われます。

卒論制度もないので、学部の学生は研究に参加しません。日本では、学生が実際に研究の仕事をかなりこなしています。それがないということは、教授が実験から論文を書くところまですべてを自力でやらなければならないということです。当然教授の負担は増え、ますますハードルは高くなります。

このような“人、物、金、制度”の全くないところでどうやって研究をするのか?

とりあえず、私は2件の研究を立ち上げました。その一つは、JICAの支援に頼らず実施することにしました。従って実験はなし、“金”のかかる調査活動もなし、ただひたすら現在得られる経験をもとにして、あとは参加メンバーの頭脳労働によって価値を生み出そうという方針です。

具体的には、前述のエンジンプラントの整備と修理内容を調査分析して、エンジンプラントの信頼性の確保のためには何をしなければならないか、ということを掘り下げていくという研究内容としました。エンジンプラントの整備の仕事はたくさんあり、従って事例も多く、データには事欠かないことから、この研究は実施可能と判断したのです。

さて、これらの研究のレベルですが、高くはありません。もし日本の学会に投稿したとしても決して学術誌には掲載されないだろうと思います。日本の科学技術は進んでいますから、日本の大学の先生たちは血眼で研究テーマを探し、先端機器を使って高度で専門性の高い研究をします。そのような研究が寄り集まってひとつの山を形成し、それが日本の科学技術を支えていると見ることができるのです。

ひるがえってパナマを見ると、第二次産業の規模は極めて小さく、工業製品を製造、設計、開発したりする場は全くと言っていいほどありません。従って、高度に専門的な研究をして結果を公表したところで、あまり役に立つとは思えません。

考えてみると、大学という存在も国によってその存在意義は異なるはずです。日本の視点でパナマ海事大学を見ると、「それが大学と言えるのか?」というような状態かもしれないのですが、それでもパナマのためには立派に役立っているように見えます。

パナマの社会に真に貢献できる大学を目指すためには、日本の常識にとらわれていてはいけないのだということを私は最近になってようやくわかりかけてきたようなのです。

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情熱では負けない…。教授が実験をしているところ

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パナマ大学で行われた技術講演会にも参加、発表した

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予算はなくても頭脳で勝負。二つ目の研究活動


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エンジンの整備作業。この実習の中から研究材料を拾い上げる(1)

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エンジンの整備作業。この実習の中から研究材料を拾い上げる(2)

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