少しでもよい風を吹かせたい−アンデスの山奥での栄養教育−

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この国には本当に栄養不良で悩んでいる子どもがいるのだろうか——。約2年前、ペルーの首都リマに到着した翌日に思ったことです。しかしリマを離れ、アンデスの山奥の赴任地に向かうと、そこには発展したリマとの大きな格差がありました。

ペルーの中でも貧困指数が高い北部山岳地域のカハマルカ州。その州都カハマルカ市から、さらに車で3時間山奥に入ったサンミゲル郡で栄養士として2013年から活動してきました。カハマルカ州はチーズやヨーグルトなどの乳製品の生産が盛んな地域です。地方部に住む多くの人々は乳業、畜産業、農業を生活の糧としています。

病院で栄養指導を始めたころ、サンミゲル郡の中心サンミゲル市街地に住む子どもと市街地外の山村に住む子どもの体格の違いに驚きました。山村に住んでいる子どもたちの体がとても小さいのです。食事は長期保存できる炭水化物が中心で野菜をほとんど使わず、牛乳を生産しても販売用で子どもに与えていない——。こういった要因が重なった結果、子どもの発育不良につながっているのではないかと考えました。

そこで、主に山村の子どもや母親を対象に、栄養教室を開いたり、衛生教育を行ったりしました。読み書きができない母親たちにも分かるように絵を使い、重要な三大栄養素の表は食べ物を折り紙で表現するなど、少しでも興味を持ってもらえるように工夫しました。講義では、「母親たちに考えてもらう」ことを心掛けました。正しい情報を伝達する栄養士のような人がいない場所でも、母親が自分で「バランスの良い食事」を選び、子どもや家族を守れるようになってほしい。この栄養教室を通じて母親同士のつながりを深くし、支えあってほしい。そんな思いでした。

最初は人見知りであまり発言しなかった母親たちが、大声をあげて笑うようになり、街ですれ違うと、気軽に声を掛けてくれるようになりました。ある日、講義の後に母親たちに誘われ、用意してくれた食事を一緒に取っていると、一人の母親が「ユキ、この食事はよくないわよね」といたずらっぽく笑いました。「じゃあ、あなただったらこの食事をどう変える?」と聞くと、ほかの母親たちも自分の考えを言い始めました。母親たちは講義の後も自分たちの食事を見つめ直すことを実践していたのでした。栄養の知識を得るだけでなく、自分で考え、行動へとステップアップしている。その変化がうれしくて、思わず熱いものが込み上げてきました。

またある日、授業中、子どもたちに「将来何になりたいか」聞きました。授業の後、数人の子どもが私のところに来て、耳元でちょっと恥ずかしそうに「ユキみたいな栄養士になりたい」と言ってくれました。サンミゲルで子どもたちに人気の職業は、給料のよい弁護士や鉱山技師です。初めて栄養教室を開いたとき、住民は「栄養士」という職業を知りませんでした。「どうして?」と聞くと、「ユキはいろんなことを知っているし、私たちやお母さんたちの話をよく聞いてくれて、一緒に考えてくれる。私は将来ユキみたいな栄養士になってみんなを助けたい」と答えてくれました。

何度も壁に直面し、悔しい思いも悲しい思いもたくさんし、何度も日本に帰った方がいいのではないかと悩みました。でもそのたびにサンミゲルのホームステイ先の家族や同僚、友だち、子どもたちや母親たちに支えられ、最後まで活動することができました。

サンミゲルの人々は突然来たスペイン語もあまりできない外国人の私を受け入れ、支えてくれました。そんな彼らの思いに応えられるように活動してきました。サンミゲルの人々に少しでもよい風を吹かせることができれば、と思っています。

日本では経験できない充実した2年間をサンミゲルで過ごせたこと、また協力隊に参加したことで、日本にいたころはあまり感じなかった、私を取り巻く人々との絆を再確認できたことに感謝しています。

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三大栄養素から食事を見つめ直そう!子ども対象の栄養教室で

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母親に「食事を考える」習慣を身につけてもらう

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食材の中からバランスのよい食事を選び出す母親


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自分たちで栽培、収穫した野菜を食べる子ども

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自分で栄養バランスを考えて作ったピザを食べる子ども

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ご飯の前に手を洗おう!衛生教育も行った


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