南米の楽園で日本文学を語る

Twitter Facebook はてなブックマーク メール

私は平成26年度2次隊の日本語教育シニア海外ボランティア(以下、SV)として、ウルグアイの首都モンテビデオにあるウルグアイ共和国大学人文科学教育学部外国語センターに派遣されました。本大学は国内唯一の国立総合大学で、日本語教育SVの派遣は2003年から継続されており、私は長期ボランティアとしては6代目でした。

要望調査票には4つのミッションが記載されていました。まず、本業である日本語クラスの運営、学生の特性や進度に合わせた教材の改善、図書の管理と登録、日本文化の紹介と普及です。私が最も懸念したのは日本文化についてです。書道、生け花、茶道、折り紙…私にはどれも教えた経験がありませんでした。それまで日本の大学などで十年以上日本語教育に取り組んでいましたが、文化紹介に特化された授業はなかったのです。果たして自分にできることなどあるのだろうか、と不安を抱えながら日本を発ちました。

日本祭などで日本文化を紹介する機会がどの国でもあることでしょう。私は来場者に折り紙を教えることが多く、学生たちは進んで手伝ってくれますが、それは歴代SVから受け継いだ行事で、今や日本語クラスの伝統になりつつあります。どこか新しさに欠けるため、私は自分にしかできない何かを模索し始めました。けれども、考えれば考えるほどいいアイデアを思いつくことができず、悩みは深まりました。

そんなとき、大学側から私が学生時代に専攻していた日本文学の講義をしてみないかと持ちかけられ、悩みは吹き飛びました。ところが、講義はスペイン語で行うよう求められたため、非常に当惑しました。日本語でもしたことがないのに外国語などでできるのだろうか、とわたしが逡巡している間にその計画は立ち消えになってしまったのです。

機会を失ってもなお私はあきらめめず、結局、講義はスペイン語で三度行うことができました。始めは自分の授業内で予行練習として、次に交流のあった他大学の先生に招かれました。内容は日本文学の時代区分と分野についてで、後半には桜花にまつわる神話を紹介しました。他大学の学生さんや先生方に思いのほか喜んでいただけたため、すっかり気をよくした私は帰国前に別の主題で話したいと思っていたところ、折しも市内のスペイン文化センターからお話をいただき、二つ返事でお引き受けしました。世界文学の読書会を行っている一環で、日本の作品を読まれているとのことでした。

私は約二ヶ月を要し、和歌の歌枕を始めとする旅と歴史と日本文学について一時間分の原稿を準備しました。同じ頃、配属先では期末試験を実施、その直後に日本語能力試験の対策を抱え、前日の記憶も無くなるほど無我夢中でした。任期を終えて帰国した今、振り返ってみると、我ながらよく乗り越えたという思いです。「私にしかできないことは何か」と模索していたことが、今は「私にもできた」という思いに変わっていることに気づきます。当初は困難に思えたことも「やってみたらできた」ということは、人として進化したいと努めてさえいれば、いくつになっても、なお貴重でありがたい経験になるのです。

【写真】

書道に取り組む学生達。ウルグアイでも漢字は人気

【写真】

授業風景

【写真】

配属先の日本語講座を受講する学生の出身校(コロニア・デル・サクラメント市)の文化祭で実施した公開授業の様子


【写真】

配属先文化祭で実施した公開授業には、様々な年齢層の参加者がありました

【写真】

配属先文化祭で行った着物ショーの様子

【写真】

日本祭りでは、日本語の教え子たちが折り紙教室に協力してくれます


Twitter Facebook はてなブックマーク メール