心はいつもフィールドにある

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通りの脇のチャドカン(茶屋)でミルクティーを飲み、ホッと一息ついてから村へと出発する。小さな街を抜けると、すぐに美しい田園風景が広がる。牛やヤギが放し飼いにされ、鶏が家々の間を駆け抜け、人々の笑顔や声があふれている。そこが私の活動のフィールドだ。

バングラデシュの北西部にあるタクルガオ県の保健衛生事務所に配属され、2011年10月から、顧みられない熱帯病(NTD:Neglected Tropical Diseases)(注1)の一つ「フィラリア症」対策活動に従事してきた。フィラリア症は、蚊によって媒介され、感染すると徐々に体のリンパ液の流れが悪くなり、手足や陰のうなどがまるで象の皮膚のようにはれる。そのため象皮(ぞうひ)病とも呼ばれており、日本にもかつては患者がいた。

このフィラリア症の予防・制圧に向けて、バングラデシュ政府は年に1度、駆虫薬一斉投与プログラムを実施している。感染症対策隊員としての私の活動は、その支援と、すでに発症している患者へのケアが大きな柱となっている。

タクルガオ県では2012年度で駆虫薬一斉投与プログラムが終了した。2002年から計11回実施され、住民の血液検査で基準値をクリアしたことを受けての政府の判断だ。制圧に向けて一歩前進したことになる。

ここまでの道のりは平たんではなかった。駆虫薬一斉投与時の薬を、副作用を恐れたり、飲む必要性を理解せず「飲まない」住民たちもいた。任期前半は、こうした状況を改善するために、ヘルスワーカー(保健医療従事)と一緒に、村のコミュニティークリニック(診療所)や学校を巡回し、フィラリア症について啓発する日々だった。2012年が最後の駆虫薬一斉投与になる可能性が示唆されていたため、一人でも多くの住民に薬を飲んでほしいと強く思っていた。駆虫薬一斉投与期間には、メディアを利用し啓発を強化した。配薬がきちんとなされるように、薬を届けるヘルスワーカーの仕事の管理にも力を入れた。これらの活動はプログラムの成功に少しでもつながったと信じている。

患者ケアに取り組み始めたのは、任期終盤3ヵ月に差し掛かったころだった。同時期に政府のヘルスワーカー向けの患者のケア方法に関するトレーニングが実施されたので、政府の方針に基づきながら、患者の多いコミュニティークリニックでケア指導のサポートを開始した。患部を清潔に保つようにと指導しても、なかなか患者自身がケアを継続することにはつながらない。コミュニティーを巻き込みながら患者にケアを継続させる仕組みをつくる必要性を感じた。

任期は2013年9月末に終了する予定だったが、患者ケアと2013年の他県の駆虫薬一斉投与プログラムのキャンペーンを支援するために、半年延長することになった。2013年10月、国の保健サービス局の「フィラリア症および土壌伝播寄生虫症対策課」に異動。そこではフィラリア症患者ケアだけでなく、土壌伝播寄生虫症(注2)対策も活動に加わった。感染症に対する予防の意識や生活習慣をどう定着させるか——。その課題への一つの取り組みとして、学校に日本の保健係のような仕組みを作る「リトルドクタープログラム」も始まった。地方の保健衛生事務所で活動する隊員と協力しながら、フィラリア症と土壌伝播寄生虫症対策、そして学校保健プログラムのサポートに取り組んでいる。

国の機関に異動し、プログラム全体を見ながら考えることができるようになった一方で、フィールド(現場)での気付きからは少し遠くなってしまったように思う。それでも、心はいつもフィールドにある。今後も患者や住民が健康的な生活ができる地域づくりに尽力したい。

(注1)、熱帯地域を中心にまん延している感染症のこと。3大感染症(エイズ、マラリア、結核)と比べて、世界からあまり関心が向けられず十分な対策がとられてこなかった。
(注2)腸内寄生虫症。開発途上国の学齢児童の主要な疾患で、多くの場合、発育不全、貧血、栄養失調や学業不振をもたらす。

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駆虫薬を飲む人

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フィラリア症患者ケア指導(左から2人目が筆者)

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フィラリア症患者のケア


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保健サービス局での会議

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