「うまくなりたい」思いで全国優勝-溶接技能でカンボジア代表に-

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2015年7月の終わり、副学長から電話があり、会議室に来て欲しいと連絡があった。2015年11月30日から12月4日の5日間を費やして、配属先であるカンボジアの国立技術専門学校(NPIC)で「全国技能競技大会」が開かれ、優勝校は「ASEAN Skill Competition 2016 マレーシア大会」のカンボジア代表出場権を獲得することができるという。そして私の職場である溶接科も出場させるので、良い成績を残せるように協力してほしいと依頼があった。 

協力することに異存はないが、競技の概要を聞いて驚いた。各種の溶接方法を上向き、下向きなど全姿勢での裏波溶接(注1)を基本とする高度な国際基準の溶接技能が求められる内容で、カウンターパートの教員もできないほどの難易度の高さである。

過去の大会で配属先の溶接科はいつも最低レベルの成績だった。そして大会までに、初歩的な溶接しかできない競技参加候補生を、専門級レベルに速成養成しなければならない。

日本であれば1年かけて訓練すべき内容だが、私たちに残された時間は4ヵ月余り。「なぜもっと早く予定を知らせてくれないの?」と聞くと、副校長も数日前に労働職業訓練省の監督官庁から連絡があったばかりとのことで、何ともカンボジア的である。

カウンターパート(注2)と協議し、まず5人の候補生を指名選出し、実技による訓練を2週間実施した後、適性度を観察して候補生を絞り込んだ。最終的に残った2人を参加候補者として、まず今まで学んでいた溶接法以外の講義を兼ねた実践実技訓練から特訓を始めた。カウンターパートに勘所を英語で伝え、それをクメール語で候補生に伝えるという何ともまどろっこしい手順である。

カウンターパートにとっても未知の領域の技術なので、正確に私の意図するところを伝えているか確認しながらの作業。基本的なクメール語は分かるが、専門的に指導するときの言葉は何と言っても母国語が心と体に良く染みるし理解が容易である。しかし、どんな技術や運動も理論だけでは上達しない。 

そこで重要なことは、口頭で伝えきれない勘所を実演し、それをよく観察してイメージを作り上げていくことである。自身で感じとった実演のイメージを、実際に再現できることが即ち実技の定着につながる。

実技を伴う技術は、見て、感じて、頭で分かっていても、いざ実際にやってみると全く思い通りにいかない。手の動き、運棒、絶え間なく変化する溶接状態の観察、溶接線の移動に伴って変わっていく溶接姿勢など、複合的な要素が絡み合って総合的に体得したときに、安定した溶接実技が可能になる。それに行きつくまでの練習の結果は自分のイメージしている理想の状態とはかけ離れたものである。しかし、その地道な練習の積み重ねをなしにして技術の定着などあり得ない。 

とはいえ、時間の経過とともに候補生の技量の上達を目に見えて感じるようになり、作業ポイントも的確に把握できるようになった。特訓の後半では、前半で全くできなかったあらゆる姿勢での裏波溶接も安定してできるようになってきた。

全国技能競技大会当日は、溶接技能コンクール部門の優勝常連校の強豪2校も出場して開催された。競技の終盤12月3日と4日はあいにく競技の行方を見ることができなかったが、結果を電話で聞くと「優勝した!」という答えが返ってきた。土日祭日も休みなく行った猛特訓。カウンターパートも、競技に参加した訓練生も、「良く頑張ってくれた」という思いでいっぱいであった。

特にカウンターパートのボラさんは2番目の子どもが生まれて間もないのに、訓練に休みなく参加して特訓を支えてくれた。同じ配属先に勤めるカミさんから「いつも亭主は休日に家にいない!」と愚痴をこぼされたときに、「水祭りの3日間は休みにしようか?」と切り出すと、彼らから「新しい技術を習うのは楽しいし、もっと練習してうまくなりたい!」と返事が返ってきたときには、彼らに励まされた思いであった。

振り返ってみて、短期間での技能向上の難しさや伝えきれなかったもどかしさの反省もあるが、カンボジア人の潜在能力は高いと実感した。一緒に活動していて彼らが見せた上昇志向が、この国の未来を切り開く原動力になる事を願って止まない。

(注1)片面から溶接する場合、溶接面の裏側にも、そこを溶接したかのように、波状の模様をつくる、高度な技術。
(注2)国際協力の現場で技術移転や政策アドバイスなどの対象となる組織、または行政官や技術者のこと。

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実技指導をする筆者(右)

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配属先の同僚たちと

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裏波溶接の作業


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