ワットプー祭りの托鉢とラオス人

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バライと呼ばれる聖なる池の向こうから太陽が昇ってくる。朝の光の中を子どもたちが駆け回る。聞こえてくる、人々の息づかい。もう少しすると、たくさんの僧侶たちが托鉢(たくはつ)(注)を始める。年に一度だけの特別な朝。

毎年旧暦3月の満月の日に開催されるワットプー祭りでは、早朝に境内で盛大な托鉢が行われる。ラオス国内各地から、さらには隣国タイやカンボジアからも僧侶が集まる。夜が明けきらぬうちから、参道は現地の人々でごった返す。前夜からの徹夜組もおり、托鉢の場所取りに皆余念がない。家族、親族総出で運んだたくさんの供物と一緒に、美しいラオス伝統衣装のシン(スカート)とスア(ブラウス)に身を包んだ女性たちが、ゴザを敷いて今か今かと始まりを待つ。托鉢を待つ列の間を、カオプン(ココナッツ風味のピリ辛そうめん)の売り子が練り歩く。そしてひときわ目を引くのが、大きな一眼レフを掲げたカメラマンたちだ。なんと言っても年に一度のとっておきの日。皆それぞれにポーズを決め、家族や親族、友人たちと記念写真に納まるのである。

ラオス南部のチャンパーサック県に暮らして1年半、ラオス人と仏教の密接なつながりを感じている。本人たちにはそんな意識もないのだろうが、生活と一体化し、仏教を中心とした暦で人々は生きている。ワットプー遺跡群は、その世界の中心だ。ラオス人はもとより、旅行者の滞在の目的の多くも、この世界遺産の寺院を訪れることにある。県都パクセーから車で1時間、ラオ日本大橋ができてからアクセスもしやすくなった。参道を歩けばチャンパー(プルメリア)の花が出迎え、本殿からは眼下に広がるチャンパーサック平原とメコン川を望む眺めに、悠久の時の流れを感じる。

ワットプー遺跡群は、クメール族がヒンズー教の寺院として、10~12世紀に建立したといわれている。現在は本殿の中に4体の仏像が安置され、仏教寺院として地元の人々の信仰の対象となっている。しかし、この寺院に仏教の僧侶はいない。世界遺産登録の際に、チャンパーサック郡内の他の寺院へ転居したそうだ。それまでは毎朝のようにワットプーでの托鉢が行われていたが、今では1年に1度、ワットプー祭りの時だけとあって、地元の人々は昔を懐かしむがごとく繰り出すのだ。

南北宮殿の下からバライの先の入口まで人々で埋め尽くされ、その熱量に圧倒される。高揚感と期待感、そして少しの緊張感。いろいろな感情が混じり合い、朝の空気になる。太陽が昇り、お経が読み上げられ、鬱金(うこん)色の袈裟(けさ)を着た僧侶たちが列になって歩き出すと、そのエネルギーは最高潮に達する。生活の中に存在する仏教と信仰、そして家族や親族を大切にする気持ち。ラオス人の考える幸せが、この場に凝縮されている。

荘厳とした、静かなたたずまいのワットプー遺跡群を観光するのも非常に魅力的だ。しかし、ラオス人の暮らしの一部となっているこの瞬間を、あふれる人々とともに、実際に肌で感じてみるのも良いのではないか。

(注)修行僧が鉢を持って市中を歩いて、施しの米や金銭を受けて回ること。

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バライの奥から昇る朝日と子どもたち

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本殿の中の大仏と参拝の人々

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至る所で線香を上げ、祈るラオス人の姿を見ることができる


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早朝の托鉢はラオス人のエネルギーが凝縮している

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参道が人々であふれるのは年に1度のこの日だけ

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夜にはコンファーイ(熱気球)をあげることもできる


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